第二十七話 対峙する光と闇
嫌な予感。虫の知らせ。第六感。当たって欲しくない時程、当たるものだ。今までがそうであっただけに、今回は外れてくれと祈った。
そんな思いを秘めつつ、超重機融合による超馬力を行使し、超高速で地の精霊都市へ帰還した俺の目に映るのは……半月程前に見た、風の精霊都市と同じ光景。しかし決定的に違う状態にあった。上空には、無数のワイバーン。そして、ドラゴン。
城壁外には、モンスターではなく、人の軍勢。軍勢の掲げる旗に、俺は怒りに燃えた。
「ナグツェリア、王国……ッ!!」
それを見間違う事はない。召喚と言う名の誘拐を行い、無実の罪を被せて俺を処刑しようとした事を、俺は忘れて居ない。
上空を舞うワイバーンは、ナグツェリア王国の竜騎兵。あの日、ガルーダのお陰で窮地を脱した俺を追い縋った者を、俺は忘れてはいない。
そして、ドラゴンに乗って居るのは、あの日見た勇者パーティの一人、竜騎士。言葉こそ交わさなかったが、誠実そうに見えたあの少年が何故こんな事に手を貸している?
最後に地上に展開するのは、フルプレートアーマーで武装した、兵士達。その先頭には、一際豪華な鎧を身に着けた戦士が存在する。間違いない、奴は――。
「勇者……ッ!!」
どこからか俺の情報を入手したのか? あり得ない。俺がガルーダと飛び去ったのは、東の方角。追うならそちらだとは思うが、何故ここに居る?
「し、使徒様……こ、これは? ナグツェリア、王国に、勇者……? っ、そんな、そんな……し、使徒様、あ、あれ……」
震えるノルンの声、その視線の先に移るのは――。
「ノルン、今すぐ転移門で逃げるんだ。あいつらに気付かれない様に、だぞ。そして、レオナに伝えてくれ……俺は『創世神』様の力を行使する、とな。ノルン、これは神の使徒としての命令だ、行け!!」
「…………お姉さまを、頼みます……弱き私を、どうかお許し下さい……ご武運を!!」
精霊武装を展開し、高速かつ隠密で転移門へ向かうノルン。彼女に託す、未来を。そして――。
「ゼフィロス様。俺は今ここに、貴方から授かったこの力を解放します。ガルーダ、もし聞こえているなら――ベヒーモスと共に、力を貸してくれ。俺は今ここに、大罪を犯す。許されるとは思っていない」
俺は、ナグツェリア王国の陣地へ突撃した。超重機融合状態で全速力で突っ込む。キャタピラユニットから凄まじい砂塵が舞い上がる。異変に気付いた兵士が、号令を掛ける。だが、関係ない!!
「ギガントォォォォ……ドリルゥゥゥゥ……」
俺は、ただ全速力で駆け抜ける。その右腕に装備された、削岩機に力を込めながら。
こいつの威力は知っている。数多のモンスターを一瞬にして貫く力を持つ。こんなものを対人戦に使えば、影も形も残らないだろう。だが、使わせて貰うぞ……守る、為に!!
「ブレイカァァァァ!!」
それは、破壊の暴風。それは、雷鳴を従えて。それは、命を穿つ、黒鉄の螺旋。あの時、森林で放った極大の衝撃波が、木の葉の如く人の軍勢を弾き飛ばす。切り刻まれ、粉微塵に粉砕し、一本の大路を切り開く。
「聴け、ナグツェリア王国の者共よ! 俺の名はサクラユウキ。創世神ゼフィロス様の名の下に、悪鬼羅刹となった貴様等を、ここに討つ!! 死にたい奴は、掛かって来い!!」
切り開いた大路を突き抜け、ナグツェリア王国軍の前に立ち塞がる。このご時世だ、名乗りが有効かどうかなんざ、いや、効果ありだな。俺は向けられる憎悪に視線を向ける。その先に居るのは、当然。
「はっはっは。流石は底辺野郎だ! 今度は逃がさない。俺が、お前を殺す!! さぁ底辺野郎、てめーの罪を数えろォ!!」
そう言って、身の丈以上ある巨剣を振り下ろす勇者。俺はその攻撃を、左腕のグラップルアームで受け止める。
「放せクソが! そいつはてめーみたいな、底辺の触って良いもんじゃねぇ!!」
俺は無言で巨剣を奪い取り、投げ捨てる。同時に右腕のアースオーガを、バケットアームに換装。そのまま、全力でぶん殴る。
「がはっ!?」
鎧越しに、鬼神との戦闘で放った正拳を放つ。勇者は、くの字にひん曲がりながら、後方へと吹っ飛んで行った。が、俺は追撃の手を緩めない、地を蹴り、勇者に肉薄する。
「罪を数えろ? その言葉、そのまま返させて貰うぞッ!!」
殴れば後ろに吹っ飛ぶ。俺は超馬力を行使し吹き飛ばした先に周り込んで蹴りを放ち、上空へ打ち上げる。俺も飛び上がり、勇者の更に上空から踵落としを喰らわせる。
超重機融合状態の馬力は、行使する俺自身でも振り回される程の圧倒的力を持つ。そんな攻撃を受けた勇者は抵抗する事もままならない。そのまま地に叩き堕ちた衝撃で、勇者を中心とした巨大なクレーターが出来上がる。
当然その周りに居た兵士たちは、衝撃波を喰らい、これもまた木っ端微塵に粉砕される。某大佐の言葉が出そうになるが、不謹慎過ぎるだろうな。だが、兵士達に罪が無い訳では無い。
陣地に積み上げられる、略奪品の数々。縛られ一か所に纏められている、暴行を受けた女性。そして、複数の磔台に括り付けられた、ノーラを始めとする精霊騎士達。
「ぐ、がはっ……クソが、クソが、クソがクソがクソがクソがぁぁぁぁ!! 底辺野郎、少しばかり強くなったからと、粋がりやがってぇぇぇぇ!! もう許さねぇ、解放、限界突破ぁぁぁぁ!!」
視界がブレる。一陣の風去ると同時に、左腕のグラップルアームが引き千切られる。まさか、鋼鉄製のアームユニットを、超重機融合状態で強化した物だぞ!?
「くくく、はぁーはっはっは!! おいおいおい、まさかアレが俺の本気だと、本当に思ってるのかぁ!? 俺様を誰だと思ってやがる! 世界最強の、勇者様なんだよぉぉぉぉ!!」
限界突破と言った途端、勇者の動きが明らかに変わった。攻めていた筈が、一転して状況を覆される。まさか、勇者の力はここまで凄まじいのか!?
「オラオラオラオラ!! どうした、底辺野郎!! 防戦一方かぁ!? そうだよなぁ、社会不適合者のお前は、そうやって殻に閉じ籠るしか出来ねぇよなぁ!?」
勇者の連撃。最初から剣などいらない、そんな攻撃が俺に当たり続ける。大丈夫、捕らえ切れている。鬼神との戦闘に比べれば、微風程度の物でしかない。
焦り過ぎた。グラップルアームは使用不能になったが、俺の体力は万全の状態だ。確かに勇者の限界突破による能力向上は凄まじい、だが。
「遅いッ!」
「ごあっ!?」
一閃。俺は重機外装の装甲を盾に、勇者の攻撃の合間を縫い一撃を加える。刹那の一撃により、足止めに成功した。だが、距離を取るのは不味い。勇者は気付いていないが、俺はまだ魔法耐性が無い状態だ。
「ふっ!」
足が止まった勇者に、反撃を開始。近接戦闘を続ける。恐らく勇者の次の一手は、竜騎士や魔法使いを援護に回らせる事だと推測出来る。勝利の為なら、人を陥れる奴だ。正々堂々何て通用しない。勝てば官軍とすら思っているだろう。
なので、この至近距離なら、仮に援護出来たとして、勇者を巻き添えにする可能性が高い。喰らい付いたからには、逃がさない!
「舐めんなぁ!!」
勇者は地面を蹴り上げ、目くらましの粉塵を舞わせる。瞬間的に、俺は追撃を止めて立ち止まるが、これが勇者にチャンスを与えてしまう。
「サツキ! カズヤ! 援護しろ!!」
やってしまった。今の目くらましで距離を取られてしまったようだ。勇者の掛け声と同時に、極大魔法の雨霰が降り注ぐ。俺は即座に破壊されたグラップルアーム部分を換装。ブルドーザーの巨大な排土板に入れ替え、防御姿勢を取る。
「ぐ、ぅ……」
炎と雷の流星雨。半端ない火力だ。この間の、神雷のケリュケイオスよりは威力が弱いが、攻撃の数が膨大過ぎる。今回は排土板シールドで防御が間に合ったが為に、魔法攻撃でも多少なりの軽減が出来たが、良くて20パーセント位だろう。
それでもガリガリと耐久値が削られて行く。しかも、今回は魔法の流星雨だけではなく、ドラゴンのブレスまで放たれている。不味い、押し切られる、防御仕切れないッ!?
「シッ!!」
「くっ!?」
それは、ドラゴンから降りて来た、竜騎士による槍撃。辛うじて右手のバケットアームで弾いたが、反対側から勇者が迫る。その手には、先程俺が投げ捨てた巨剣が握られ、膨大なエネルギーを纏い、今振り下ろされた。
「し、しまっ……」
「終わりだ、死ねぇぇぇぇ!!」
その巨大なエネルギーの斬撃に、俺は成す術は存在しない。恐らく、排土板シールドも、一撃の元に切り捨てられるだろう。
本当に、規格外だな、勇者ってのは。
邪悪な意思を込められた、極大の光の剣が、俺の眼前に迫る。闇属性の光とか、どんな矛盾だよ。しかし、諦めない。諦められるか、こんな結末!
「く……う、あ、諦めない、まだ、やれ、る…………」
勇者の光の剣が直撃し、重機外装の耐久値がゼロになると同時に、重機外装が解除される。俺は余剰ダメージを受け、膝を付く。死ななかったのは、恐らく勇者の攻撃が、強力な物理攻撃だから、と言う事だろう。
「おいおい、まさか俺の全力を耐えた、だと? まーもう終わりだろ。底辺野郎が、手間取らせやがって……それじゃあ、サヨナラだ。今度こそ、地獄に堕ちろォ!!」
勇者の巨剣が、俺の首筋に吸い込まれるように振り抜かれる。神の使徒の名を冠し、創世神から受けた任務、超常の存在を討つ力……俺は、全力を尽くしたと思う。結末は、俺の死と言う形で付く。
この世界に召喚され、死刑宣告を言い渡され……生きるのを諦めていた。でも、死ぬのは怖くなかった。しかし、今は死ぬのが怖い。俺には、守るべき存在が居る。彼女達を置いて逝く事が、怖い。
俺は最後の気力を振り絞り、最後の瞬間まで、目は閉じない。諦めない意志を持ち続ける。俺は、神の使徒。超常を討つ者としての矜持は、決して死なない。
本日はここまで。明日も引き続き連続投稿していきます。




