第二十六話 緊急事態
鉱山地区での視察を終えて、精霊都市へと帰還の途に就いたが、その途中でノーラから緊急の念話が届いた。可能なら鉱山地区の街で滞在して欲しいとの事。理由を聞いたが、忙しいので、の一点張り。
一体何があったと言うのか? ノルンに確認を取るも、モンスターや大襲撃の様な話も、出撃している同僚の精霊騎士からも聞かず、ノーラもノルンに内容を話していない事に、俺は困惑を隠せない。
ノルンは俺の護衛、と言う事で、最悪の事態に備えて一緒に留まる事になった。一応この宿場町にも、高官用の宿泊施設は存在するので、その施設の地下、セーフルームで過ごす事になった。
「セーフルームって、一体何があったと言うんだ? ノルン、本当に何も聞いていないのか?」
「わ、私もこんな状況初めてです。お姉さまも、使徒様を頼みますと言って、以降念話も繋がりませんし」
因みにガルーダに念話を飛ばしてみるが、繋がる様子が無い。ベヒーモスの寝床へ行くとだけ言って別れていたのだが、魔力回路で繋がっているガルーダに、念話が届かない筈が無い。本当に何が起こっている?
調べようにも調べられず、ノルンも気が気ではないが、任務の為動けず。八方塞がりだ。そんな焦燥感に駆られながらも、時間だけは刻一刻と過ぎて行く。
とにかくノーラを信じて待つ他ないのだが、あれだけ俺を慕ってくれているノーラが、忙しいの一点張りで俺を帰還させないものだろうか? そんな事を考えながらセーフルームに入り、二時間程経過した。
ただ待つだけなら、ノーラを信じて待とうと思ったが……流石に幾らなんでも音沙汰が無さすぎる。俺もノーラとの念話のパスは繋がっているのだが、一切応答がない事に、遂に俺は行動を起こす。
「ノルン、一緒に行こう。この際ノーラにお叱りを受けるのは、覚悟の上だ」
「それは……行きたい気持ちはありますが、あんなに真剣な念話を飛ばすお姉さまは、初めての事です。なので、ここは待つ事が一番と、愚考いたします」
ノルンはあくまで、ノーラを支持する形か。仕方あるまい、ここは奥の手を使う。何となくだが、緊急念話でのノーラは、とにかく余裕が無い状態だった。嫌な予感がする。
安芸が現世で死亡した時も、何か胸騒ぎがあったのを覚えている。現世で、大地震が起きた日も、非常食等を用意しておこう、と発言して、安芸がクエスチョンマークな顔をしていた事を思い出した。
俺は昔から、直感と言うか、第六感と言うか……自分で言ってりゃ世話も無いが、俺の嫌な予感と言うのは、大体的中していたんだ。
「ノルン、嫌な予感がする。行こう!」
「し、しかし――」
俺は自分の直感を信じて、ノルンを連れて地の精霊都市に移動をしようとするが、やはり姉の指示を守り俺を阻止しようとするノルン。
だから俺は、本来なら使う筈の無い手札を切る事にした。偽装こそされているが、俺は神の使徒と言う肩書を持っている。切るなら今しかない。
「女神セラフィーナ様の名の下に、神の使徒として、精霊騎士ノルンへ命ずる。急ぎ精霊都市へ帰還する。付いて来い」
「…………承知、しました……ッ」
それは、苦渋の決断。ノルンも、神の使徒と言う立場を前には、一切反論が出来ない。卑怯な方法だが、許して欲しい。
「すまない、卑怯だと罵っても良い。だけど、俺を信じてくれ……恐らくだが、ノーラが危ない」
「そ、それはどう言う……」
俺は混乱しているノルンの手を取り、セーフルームから外へ飛び出す。途中、俺を遮ろうと精霊都市の関係者が止めに入るが、神の使徒の地位でゴリ押しをする。彼らも、恐らくノーラからの連絡で、俺を止めようとしているのだろう。許せ。
「ノルン、精霊武装は解放出来るか!?」
宿場町の門を潜り地の精霊都市に向けて移動する中で、俺は疾走しながらノルンへ問う。高位精霊騎士見習いとなって居るノルンは、誰よりも早く精霊武装の展開に成功していた。
精霊武装は各種精霊との契約の元に解放される、高次元の武具であり、スキルでもある。高位精霊騎士は意のままにこのスキルを操り、天上の存在として都市の守り手となっている。
「は、はい! ですが、短時間しか……」
「問題ない。都市に付いたら、即時他の精霊騎士と合流。情報収集と、可能ならノーラと合流。彼女を全力で守ってくれ……俺も全力を出す、重機召喚! 来い、PC2000バックホー、D475ブルドーザー、アースオーガ、グラップルユニット!!」
俺は重機召喚のスキルを使い、重機を呼び出した。正直召喚によるコストは膨大だが、今はそんな些細な事を問題にしている場合じゃない。現状最大馬力を行使可能な物だけ選び抜いた。
戦闘用車両を使う事も考えたが、念の為の切り札として温存する事にした。まだ完全に使いこなせない部分もあるので、苦肉の策でもある。
「超重機融合開始。重機外装、完了。各部チェック、馬力安定、異常なし。ノルン、俺に掴まれ。絶対に手を離すなよ? 行くぞ!!」
余りにも巨大な重機が現れ、目が点になって居るノルンを余所に、俺は重機外装で、それらの超重機を装備する。これが俺が行使出来る、実上最強の馬力を誇る装備だ。
そして、今の俺が誇る馬力なら、恐らく精霊都市まで一分と掛からずに到着するだろう。何事も無ければそれでいい。だがこの胸騒ぎは、一体何なんだ!?




