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第十五話 魔王種

義妹視点になります。

 魔王。現世日本に生きた者なら、その単語を聞かない者は存在しないであろう。昔から魔王を打ち取るのは勇者の務め、そんな物語を見ている筈。


 この世界にも、魔王と呼ばれる存在が居る。また、配下には魔王に至れる力を持つ、通称魔王種と呼ばれる、災厄級の存在が確認されている。


 魔王種。どんな種族からも、一定以上の力を持てば誕生する。モンスターからも例外では無い。私が兄さんに話したのは、過去の勇者が討伐した魔王も、モンスターから魔王種へと、魔王種から魔王へ進化を遂げた、一種の超越存在であると言う事だ。


 その力は、文字通り災厄を齎すもの。進化元の個体に能力やスキルは依存するが、強大な闇の属性魔法を行使すると言う共通点を持つ。自身にも闇属性が追加されるので、光属性の攻撃が有効となる。


 フィリア達五名の精霊騎士は、風属性が主体である。魔王種に対しては、精霊の協力がある為戦えるが、致命傷を与える事が難しい。


 その点私は、風属性と光属性を有する、高位の精霊騎士。フィリア達も、何れはこの段階に至れるだろうと私は睨んでいる。


「兄さんには援護する、何て言ったけど、これは私が出るしかないよね。まさか、本当に魔王種とは。――フィリア、聞こえる?」

『は、はい。すみません、力不足で……』


 念話を飛ばした先のフィリアから状況を聞いたが、強力な個体は魔王種と呼ばれる物で、今回はサイクロプスが進化した上で魔王種へと至った、通称ギガンテスと言われる巨人である。


「ま、ここは私に任せなさい。そして――見て覚えなさい、これが世界を守る者、精霊騎士の役目よ」

『りょ、了解!!』


 フィリア達に念話で伝えると、彼女らは現場に突入してきた私の姿を見て、即時援護の態勢に入った。今回は経験を重ねる為、なんて悠長な事は言って居られない。


 相手は、命を刈り取り、規定値を満たせば、それは私単独でも討伐の出来ない、魔王へと進化してしまうのだから。


「最悪の場合を想定したくはないけど、もしそうなったら使徒の力を使って貰うしかない。でも――」


 私は念話を兄さんに送って居るが、何故か念話が繋がらない。何か強力な妨害を受けて居る様な、ノイズが入ってこちらの念話が阻害されている感覚を覚える。


「やるしかないか。精霊シルフとの同調開始、攻撃対象ギガンテス。風よ光よ、吹き荒れ刺し貫く刃となれ」


 戦闘地帯に到達した私は、ギガンテスの視界に入る様に超高速飛行で横切る。右手に持つ両刃直剣を構え、左手には風と光の魔法を極限まで収束させて。


 ギガンテスは私を羽虫と感じたのか、その巨大な腕を振るい私を叩き落とそうとするが、遅い。巨大であるが故に、遅く見えるが実際は通常の冒険者程度なら、見切れても回避は不可能なレベルの攻撃だ。


 その巨体故に愚鈍ではなく、攻撃範囲が異常な位に広い。通常のサイクロプスでも強力な筋力を備え、人間など軽く一捻りするが、ギガンテスそれが更に強化されている。進化による巨大化に加え、闇属性による能力補助が凶悪なレベルで付いている。


「でもね、それは私も同じ事――詠唱完了、貫きなさい! スピニングシャインスラスト!!」


 ギガンテスの払いのけ攻撃を回避しつつ、複合魔法スピニングシャインスラストを発動した。魔力を練り上げ、極小の竜巻を発生させる。そこに光属性の魔力を流し込み、風と光の奔流を作り出し、両刃直剣でその中心を刺し貫く様に、ギガンテスに放射する。


 何もせずに純粋な魔力砲としてぶつけたならば、フィリア達同様そこまでの威力を発揮しないし、致命傷にもなり得ない。


 しかし私は、ギガンテスが闇属性のステータス強化魔法と同様に、光属性の能力強化を行った上で、風属性の魔力砲に光属性魔法を付与して攻撃している。


 高位精霊騎士たる私ならば、一応風属性単体でもギガンテスの元の属性である地属性には効果が高いので、フィリア達以上のダメージを期待出来る。ただし現在は地と闇のギガンテス。対して私は風と光。結果としてその効果は倍々と膨れ上がる。


「グガッ!?」


 私の攻撃を受けたギガンテス。それはまるで、何故攻撃が効いた!? と言わんばかりの声を発する。属性の相性もあるが、私は風の女神セラフィーナ様の加護、そして創世神の加護を持つ兄さんの庇護下にある。


 兄さんの持つ超常殺しの効果が、庇護下の私にも適用されている。一種の超常の存在たる魔王種に取っては、唯一と言って良い弱点なのだ。


「グガアアアア!!」


 超常殺しによる効果が大きかった為か、ギガンテスが竜巻に貫かれ、特大の雄叫びを上げる。十分にダメージを与えたが、逆に雄叫びにより、痛みを紛らわせている様にも見える。


 しかし、大地を震わせるその雄叫びの威力は凄まじく、まだ未熟なフィリア達には効いたのか、軽く動きを止められてしまう。フィリアは何とか耐え切った感じだが、他の四名は三半規管を掻きまわされ、力なく墜落していく。


 辛うじて契約していた精霊の力で、大地との激突は避けられたが完全に気を失ってしまったようだ。そしてその一瞬を見逃さず、ギガンテスは右手を振り被る。その先には――。


「ぁ……」

「フィリアッ!? くっ!!」


 所謂スタン状態に近い、動きを封じられたフィリアに巨大な腕が振り落とされる。回避不能、防御不能。今のフィリアには抵抗する力は無い、私は全魔力を防御に費やし、フィリアの前に立ちはだかる。フィリアを連れて飛び去るには、僅かに時間が足りない!


「くっ……お、重い!? ぐ、ああああ!!」


 魔力を集中させ、何とか防御障壁でギガンテスの右手を受け止めるが、私も防御に精一杯になってしまう。そして、ギガンテスは嘲笑うかのように、左手を振り被り――。


「く、フィリア!! 逃げなさい、貴女だけでも早く!!」

「ぁ、ぅぁ……」


 フィリアは目の前に迫る、死の概念に完全に戦意を喪失しているのか、動く事が出来ない。無理もない、私が来るまで、たった五人でこの化け物と対峙していたのだ。精霊騎士レオナが駆け付けた事で、安堵してしまったのだろう。

 

「ぇ?」


 咄嗟に私が取った行動は、瞬間的に風魔法を放ち、フィリアをその場から弾き飛ばした事だ。結果、フィリアは難を逃れたが、迫り来る左手に対して、私が打てる手段はもう存在しない。


(兄さん……ごめん、私――)


 油断していた、慢心していた。純粋に私の判断ミス、注意力不足。フィリア達五名は、即時撤退させるべきだったのだ。レベル上昇、ステータス上昇、これらの事実に私は、天狗になっていたのだろう、完全なる敗北だ。


 全身に襲い来る、凄まじい衝撃。私はギガンテスの左手に打ち払われ、高速で地上へ叩き付けられる。巨大な砂塵を巻き上げる様が、どれだけ凄まじい衝撃があったかを物語っている。


「ぐ、かは……」


 全魔力を防御に回していた為か、何とか意識は保てている。しかし、全身に力が入らない。そんな私を見下し、余裕の笑みを浮かべるギガンテス。立たなきゃ。立って最後まで戦わなきゃ。そう思うが、体が言う事を聞かない。


「まだ……やれる、まだ……倒れる、訳には……」


 必死に自身を奮い立たせようとしている私の眼前に迫る、ギガンテスの巨大な足。羽虫を叩き落としたが仕留めるに至らなかったからか、止めを刺す為だろう。念入りな事だ。


(死ぬかな、これは……全く、最強の一角が聞いて呆れる。ごめんね兄さん、やっと巡り会えたのに……)


 最初から、兄さんを頼って居れば結果は違ったのだろうか? たらればで語った所でどうしようも無い。目の前に迫るギガンテスの足。迫り来る死の概念。


(最期に、兄さんと逢いたかったな……)


 私は軽く目を瞑り死を受け入れている。一筋の涙が零れ、地面に吸い込まれて行く。瞼を閉じても分かる暗がり、ギガンテスの足は、もう数瞬もしない内に私を踏み潰すであろう。


「……ごめんなさい、にいさん……」


 ふと零れた言葉。もう助からないと分かっていたからこそ出た弱音。口に出さずにはいられなかった。その言葉を呟くと同時に、ぎゅっと目を瞑る。強く、強く。


 しかし、潰される筈の時間は当の昔に過ぎ去って居る。私は未だ無事で生存している。一体何が? 目を見開くと、そこには――。


「安心しろ、俺に任せて置け……ガルーダ、頼む」

『任せよ』


 そこには、念話が通じなかった筈の、最愛の人。全身に金属の鎧も纏い、その右腕に装備される巨大なバケットアームで、ギガンテスの足を受け止めて居た。


「第二ラウンドだ、このクソ巨人。妹を虐めてくれた礼は、たっぷり返させて貰うぞ」


 そうして始まる、魔王種と、精霊都市最強の存在。創世神の加護を持つ、神の使徒との戦いの火蓋が切って落とされた。





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