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第十三話 レベル上限解放

ソロでのレベル上げ、個人的には好きです。

 レベルの上限解放、実はこれの解決の糸口、と言うか解決法そのものが存在する。何故今までそれをやらなかったか、ではなく、出来なかったと言うのが正しい。安芸はこの世界でも最強に数えられる四人の精霊騎士の一人。


 当然多忙な毎日に加え、数多のモンスター討伐任務もこなしており、後継者を育てる余裕が殆どなかったと言うのが直接原因である。尤も上限解放の方法を口頭で伝えた所で、恐らく上限を超える事は難しいと推測していた。


 何故なら、安芸自身が後継者とパーティを組んだ上で、強引に経験値を取得するパワーレベリングの様な方法でないと、上限解放の規定値まで届かないのである。


 そう、レベル上限解放の方法は至って単純。パーティを組んで戦い、レベルが上がるまでパーティを解消しない、である。ソロで戦えば経験値は自分に全て入るが、パーティを組めば組んだ人数で経験値が割られる。モンスターの種類は多いが、強力な個体は極少数。


 強力な個体はパーティ推奨の敵ではあるが、これもあくまで強力な個体に対してのみ。逆に単体では差ほど強い存在ではないモンスターが多々居る。モンスターの厄介な点は、徒党を組み、それなりに大規模なグループで活動するのが脅威なのだ。


 逆に言えば、小規模なグループなら経験値を独り占めできる。だからこそ、皆がソロでモンスターを倒す。倒せるなら一人で強力な個体を倒せれば、一気に経験値の取得が出来るからと言って、パーティを組まない事が多いのがこの世界の現状だ。


 パーティは効率が悪い、と言う事で中々進んで行わない。そして、上限解放にはパーティで獲得した経験値が、一定を超えた所で上限が解放されると言う仕組みになっているのだが、その事実をこの世界の住人は知る由も無い。


 そう、このパーティ経験値と言うのが、俺達異世界人や、転生者である安芸のメニュー欄に存在する事から知った事実だ。ただし、パーティ経験値の量はとても膨大であり、短期間で上限突破する事は稀。


 安芸以外にもレベルが50を自力超えた者は存在するが、そう言った人々は常にパーティを組んでいたり、極端に強いモンスターをパーティで討伐したり、と言う事で上限が解放されているのだが、本人たちにはパーティで戦えば上がるとは信じて居ない。


 何故なら、同条件で上限が突破した、と言う例が殆ど見受けられないからである。単純に必要なパーティ経験値が足りないだけなのであるが、当然それを知らなければ、上がる余地があるのか判別出来ず、嘘、偽情報と捕らえて途中で諦めてしまう者が多いのが現状だ。

 

「と言う訳で、これから後継者候補数名をパワーレベリングしようと思うの。兄さんとガルーダ様が居れば、それこそ超短時間でレベリングが出来るだろうし」


 安芸は俺とイチャイチャする為には、どんな手段も厭わない。正に修羅、不退転の意思が見て取れる。そんな安芸に俺は苦笑いしつつ、協力する旨を伝えた。ガルーダは嫌がるかと思ったが、番になる為の近道なのだろう? と言って協力してくれる事になった。


 今回育成するのは、精霊騎士候補の五名。それぞれレベルは50に達しているが、未だに下位精霊とも契約を結べていない状態にある。厳しい修練の末、精霊騎士試験を突破。見習いとなった五名である。同期数十名の中でもこの五名が、最も精霊契約の為の高い適性があるだけに、悔しい思いをしているそうだ。


 全員緊張の面持ちであるが、どうかお力添え、宜しくお願い致します。と一斉に頭を下げる。因みに緊張しているのは、俺が年上の男だからだろう。年齢的にはおっさんと言っても過言ではない。彼女らはまだ15歳になったばかりの少女である。無理もない。

 

「いや、免疫無いのは確かだけど、自分の肩書忘れてない?」


 呆れ顔の安芸。確かに神の使徒と言う肩書はあるが、俺自身未だに一般人と思っているので、こればかりは時間をかけて慣れるしか無い。意識改革もしっかりしていかないとだろうな。


「気を付けるよ。さて、皆に一言。同じパーティを組むと言う事で緊張もあるかもだけど、まぁ難しいかも知れんが気軽にな。んじゃレオナ、詳細の説明を頼む」

「おっけー。はい、注目。今回はユウキさんと聖獣ガルーダ様、そして私がパーティリーダーとなり、大山岳地帯に広がる森林地帯でのレベル上げになります」


 そんな感じで神殿詰め所内で説明が始まる。今回の予定は、安芸の日程と合わせて行う。今回のレベリングは一名ずつ、個々にレベリングする形になっている。


 全員まとめてやればいいじゃんと思ったが、五名の精霊騎士候補も、それぞれ修行、修練などの予定も組まれているので、全員一緒にと言う訳にも行かない。精霊騎士の日程は都市全体の動きに関わって来るので、この五名全員を、一気に連れ出せる機会が存在しなかったのである。


 基本的にガルーダによる高速移動、俺と安芸によるパワーレベリング、帰還のパターンを想定している。別に俺とガルーダだけで連れ出しても良いのだが、それは安芸に断られた。


 婚約者を、一時的にでも他の可愛い女の子と一緒に行動させたくない。の一点張りであった。確かにこの五名の少女達は、日本人の感覚から言うと美少女と言っても過言ではない。それもまだ成長の余地がある少女達だ。当然俺が安芸の立場だったら、同じ反応をするだろう。


「じゃあ最初は、フィリア」

「は、はいっ!!」


 安芸に呼ばれて一歩前に出てきたのは、銀髪セミロング、青と赤のオッドアイ。フィリアと呼ばれた少女だ。五名の中で一番精霊との同調率の高く、レベル上限を超えられれば、精霊騎士レオナの後継者として、資格十分。と安芸の太鼓判付きの少女である。


「緊張しないの、と言っても難しいからそのままで良いわ。一応万全の状態を作るけど、決して油断しない事。レベル帯で言えば、一撃貰えばアウトだからね?」

「はい!! が、頑張ります!!」


 安芸の言葉に、全員に緊張が走る。そう、今回俺達が向かう山岳地帯の森林。俺がガルーダに連れられ、この都市に来る途中で抜けた森林地帯だが、この地帯のモンスターのレベルは非常に高く、高レベルの安芸、異世界人である俺、聖獣ガルーダだからこそ、容易にレベルを上げれた訳だ。


 当然レベル50である彼女達にとっては、未知の領域。俺の体感だが、ステータスを過信して、異世界人である俺すらボコボコにされたのだ。現地人である彼女らでは、確かに下手をすれば影も形も残らない可能性が、無い訳では無い。

 

「そこまで心配は要らないよ。ガルーダを直掩に回す。風の結界を張って貰うし、元から接近させるつもりは無いが、最低限の警戒監視と回避行動を取れば良い。後は俺とレオナで片付ける。間違っても防御行動はしない事。これだけは守ってくれ、良いね?」

「はい!!」


 まだ警戒感は残っているだろうけど、気にするだけ無駄だ。さっさと森へ行くとしよう。俺はパーティを組み、外出の手続きを終わらせ都市外縁の城壁を出る。広めの場所でガルーダの制限を開放すると、その巨体が姿を現す。一番最初に俺を救出した時より、もう一回り大きい感じになって居る。


 これがガルーダ本来の姿。普段は可愛い小鳥サイズなのだが、戦闘時はこの形態になる。大きさに関してはまだ大きくなれるそうで、もし今度複数名のパーティを組んだ時には、まとめて移動させてやると言っている。


「じゃあガルーダ、頼むぞ!」

『任せよ。レオナ、フィリア、我が背に乗るが良い』


 二人はそっとガルーダの背に乗り、俺は風の結界的な物に包まれ、ガルーダの懐の羽毛に包まれる。何故か知らんが、ガルーダは俺を遠方に連れて行く際、この運び方に拘る。実を言うと、俺はこの運び方が好きである。


 安芸が猫好きである様に、俺も無類の猛禽類好きなのだ。ガルーダの見た目は巨大な猛禽類。そして風属性の頂点。正に最強の制空戦闘機、ラプターと言う感じなのに、その羽、羽毛がふっわふわでとても居心地が良い。正にパーフェクトな聖獣なのだ。


『……往くぞ!!』


 俺の思念を読み取ったのか、ガルーダがふわりと大空に舞い上がり、一気に最大速度に到達する。照れ隠しなのだろうが、事実なので俺は自重しない。因みにこの移動速度のお陰で、僅か数分で目的地に到達した。


 その最大速度は、冗談抜きに音速の壁を超える速度だった。流石の安芸でも、全力を行使してもこの速力には追い付けないと驚いている。その隣で、安芸にしがみ付き、まるでガムテープの様な口を描き小刻みに震える小動物、涙目のフィリアがとても可愛いと思ってしまったのは、男の性だろう。


「ユウキさん?」


 安芸が俺に向ける、最大級の笑顔がこれ以上なく怖い!! 心配するな俺はお前一筋だ、と言う強い意志と視線、思念を送り事なきを得る。さて、馬鹿やってないで取り掛かるか!


「ガルーダ、フィリアの周囲に結界を張った後、直掩行動。適時接近するモンスターの迎撃を頼む」

『任せよ』

「レオナは遊撃、初っ端からトレインで俺の元まで誘い込んでくれ。試したい事がある」

「了解。精霊武装解放、顕現せよ風の翼! フィリア、絶対に結界から出ては駄目よ?」

「はい!!」


 ガルーダと安芸に指示を出し、俺もスキルを展開する。今回試したい重機があり、それの活用法を探る為の戦闘だ。


「行くぜ! 重機召喚、来い……アースオーガァァァァ!! 続いて重機外装、顕現せよ大地を穿つ鬼神の螺旋よ!!」


 今回俺が召喚したのが、アースオーガと呼ばれる所謂巨大なドリルを装備した重機である。俺の予想通りなら、左右どちらかの腕にドリルが装備出来ると思われる。ブレーカーユニットをパイルバンカーの様に使う戦い方も好きなのだが、やはりドリルは男のロマンなのだ。


 そんな俺の予想通りに、右腕に巨大なドリルが装備された。全体的な鎧も、普段のバックホー装備時と同じ様な鎧構成になっている。


「くっ、凄まじい馬力だ。だが、こいつなら俺の予想通りに行ける筈!」

「し、使徒様! 前方からレオナさんが急速接近しています!」


 そんなフィリアの声を辿れば、制御に少々手間取っている俺の元へ、複数モンスターをトレインして来た安芸が、木々の間を縫い接近して来る。俺は大きく右手を後退させ、湧き上がるエネルギーを一点に集中させる。

 俺の動作を見て、安芸は速力を落とさず一直線に向かって来る。右手に備えたドリルが高速回転を生じさせ、バチバチと稲妻の様な閃光が走る。


「解放! ギガント・ドリル・ブレイカァァァァ!!」


 技名を叫ぶと同時に、安芸が俺の左側面を擦り抜ける。俺はドリルユニットを正拳突きの要領で前方に突き出し、そのエネルギーを開放すると、極大の螺旋状のエネルギー波が、俺の前方に広がる森林を穿ちながら、後続のモンスターを巻き込み、文字通り木っ端微塵に砕いて行く。


 後続のモンスターは複数いたが、攻撃の余波が更に後方の森林を穿ち続ける。その余波に巻き込まれたと思われるモンスターも、等しく経験値になっていった。


「うわー、すっごい威力だね。と言うか今ので私までレベル上がったんだけど、ユウキさんも?」

「ああ。しかし本当にゲームの世界の様だな、経験値にレベルの概念……どちらかと言えば、MMORPGが近いか?」

「かもね。フィリア、レベル上限はどうなってる?」


 俺と安芸の会話は、現世に居た者しか分からない物だが、ここで肝心なのは俺達ではなく、パワーレベリング対象のフィリアである。


「っ、はい。その、少し待って下さい。レベルが急激に上がり過ぎて、少し体調が優れません」

「ふむ、レベルアップによる急激なステータス上昇に、肉体と精神が付いて行っていない感じなのね。って、レベル98!? ちょ、ちょちょちょ! 兄さん、そっちは幾つ上がったの!?」


 安芸よ、驚く気持ちは十分に分かる。だが、ここで兄さんは不味くないか? いや、回避の方法はあるにはあるが、間違いなくフィリアから変な目で見られる可能性がある。


「あ? 兄さんとは俺の事か? どちらかと言えばおっさんだろうがな。若く見てくれるのは嬉しいよ。取り合えず今の一撃で、78から85まで上がって居る」


 俺の答えに安芸は、小さくごめん焦り過ぎたと呟く。希望的観測だが、フィリアはレベル酔いの為に聞き逃してる可能性もあるので、流せるなら流し、墓穴は掘らない言い方をして置く。


 しかし、良く分からない。経験値テーブルの様な物があるにしても、フィリアが50から98、俺が78から85、まるで一貫性を感じない。もしかして元からこの世界の住人の経験値テーブルが違う、のか?


 それか、俺の持つ経験値増加スキル、ガルーダの持つ眷属の取得経験値増加、と言う効果が相乗し、一気に上昇したとも考えられる。謎だ。


「すみません、お待たせしました。あんなに苦労したレベルの壁が、こうも簡単に解かれてしまうと、ちょっと思う所がありますね。って、ピーちゃん!? 大丈夫!?」


 レベル酔いから解放されたフィリアには、殆ど野生の小鳥と変わらないレベルの、所謂ペットの小鳥ピーちゃんがフィリアの肩に止まって居た。この小鳥の輪郭が黄金色に輝き、今にも弾け飛びそうな感じで、かなり苦しそうな表情を見せている。


「……大丈夫よフィリア。ピーちゃんが苦しそうにしてるのは、貴女と同じくレベル酔いをしているだけ。そして、動物達も一定のレベルを超えると、精霊へと至る分岐を辿るのよ」

「え、そ、それって……! きゃっ!?」


 ピーちゃんの状況を的確に見抜き、フィリアを諭す安芸。直後、ピーちゃんが眩い光に包まれ、フィリアはその光量に思わず目を逸らす。


「ガルーダ、どうなる?」

『少なくとも我の眷属と言う形で収まるだろうが、どのような変化を辿るかは我にも分からん。だが一つ言える事は……あの娘は間違いなく、次代の精霊騎士になるであろう』


 そんな俺とガルーダの会話が終わる頃には、光も止みピーちゃんの進化も完了していた。肩に止まって居たが、その体長が大きくなった事も有り、翼を羽ばたかせながら空中に待機している。


「……ピーちゃん、なの?」

『ふぃりあー。ぼくつよくなったよ!! ほめてほめてー!!』


 ピーちゃんの念話は、ガルーダを通じて俺にも聞こえて来た。外見は大型の猛禽類。翼を広げた全幅は恐らく2メートル位。鳶より鷲に近い大きさの精霊種へと進化しているが、内面はまだまだ子供と言った印象だ。


「うん、ピーちゃん偉いよ! おいで、撫でてあげる!!」

『ふぃりあー』


 微笑ましいやり取り。肩に止まれなくなったピーちゃんは、フィリアが伸ばす腕にそっと止まる。鳥類はその巨体に似合わず軽量である。常時止まり続けるのはフィリアに負担も掛かるだろうが、そこはレベルアップしたステータスで補えば済む話。


 現世でも鷹匠と呼ばれる人たちが居る。これらの人たちは腕に止まらせる際に、爪による怪我防止の為に厚いグローブをするが、ピーちゃんにその心配は無用の様である。


 と言うのも精霊種と言うのは、肉体こそ存在するが、大部分が魔力の塊であり、使い魔、と言うより守護獣としての意味合いが強く、決して主へ害が加わる事が無い様に調整されている。


「何ともほっこりする光景だな……レオナ、フィリアはどうだ?」

「少なくとも、もう少し修練を積めば、と言う所だね。でも、あのピーちゃんと一緒に育って行けば、きっと大丈夫」


 無事精霊種との契約を果たしたフィリア。修練次第では更なる高みに到達出来るだろう。その後はフィリアとピーちゃんを含めた連携で、数多のモンスターを討伐して行った。


 それと念の為にギガントドリルブレイカーは封印。確かに効率良くレベリングが可能ではあるが、素材が一切回収出来ない上に、自然破壊と言うおまけが付いている。余程の非常事態でもない限り使わない方が良いと、満場一致で決定した。


 最終的に、安芸がレベル167から172に、フィリアが50から104に、俺が78から93でパワーレベリングは終了した。大成果である。





一昔前は、MMORPGの全盛期だった気がしますが、今はどうなんでしょうね?

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