表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第4章  永久平和のひととき
74/79

4-22. 目的

「あぁそうだ。サーラさんサーキィさん、これ」

 カイが差し出してきたのは、剣とサーキィの釼だった。

 それに、ぱっきりと折れたもう一振りの剣も。

「川岸に落ちてたんで、拾ってきました。霊珠じゃないもので練合したから長持ちしなかったんですかね? 分裂しちゃってました」

「余の釼 霊珠の ちから なくなってる……」

 サーキィはしょんぼりとした。

「そうみたいですね。使い果たしてしまったんでしょう。負荷がかかったのか、片方の剣は折れちゃいましたし。ぼくの一族の製造技術もまだまだですねぇ。ま、だからこそばらまいてるんでしょうけど」

 よく見ると、折れたほうの剣は柄の宝石にヒビが入っていた。これでは反・幻動気の力は失われてしまっただろう。

「しょうがねえわな。残ったほうの剣はサーラにやるよ」

「む、そうか。ではありがたく受け取る」

 反射的にそう言ってから、わたしの旅はもう終わりなのではないかと気づいた。この剣をこれから何に使えばいいというのだろう?

 受け取った剣は、父の持っていたものだった。鍔にある小傷に見覚えがなかったので、そうとわかった。折れたのはわたしのほうだったのだな。

 別に愛着があったわけではない。本来の愛用の剣は私室にちゃんとある。しかしこの折れた剣はわたしの旅の始まりとともにあり、難題の解決に役立ってくれた。それを思い起こせば、感謝の念は尽きない。たとえカイを打ち倒すために作られたものであろうとも。

 もはや剣としての用を果たせなくなったその姿を見て、わたしは旅の終着を深く実感した。その無残な剣身は、わたしにとっては解放の象徴であるはずだった。成人の儀式という肩の荷がなくなり、わたしは大喜びしてもいいところなのだが、とめどなく寂しさが湧いてくるのは、どういうわけだろう。

「カイ殿はこれで脅威になるものが減ってよかったんじゃないか?」

「いやっはっはっは。どっちでもよかったんですけどねー」

 ……まったく、気楽だなこの者たちは。

「サーキィ、今一度になるが、その釼、返却するぞ。助かった。本当にな」

「うん」

 サーキィは小さくうなずき、おそらくは感慨深くしばし釼を見つめてから、長衣の中にしまった。

「いやはや、とにもかくにも痛快な経験ではあった。これでまた旅を続けられる。サーラ、感謝するぞ」

「なんだ、父上のくせに殊勝(しゅしょう)だな」

「父親にはもっと敬意を払いなさい。いい嫁になれんぞ」

「父親らしいことをしてから言うものだ」

「はっはっは! ちがいない! ――――それじゃあ、達者でな」

「待たぬか」

 わたしは立ち上がる父の外套をしっかとつかんだ。

「なにをしれっと立ち去ろうとしているんだ。儀式の件を忘れたとは言わせないぞ」

「……よく覚えてたな」

「ああ、そういえばそうでしたねぇ」

「それを わすれたら もとも こも ない」

 げに。この旅のそもそもの目的はそれなのだからな。

「なんと抜け目のない娘に育ったことか。お父さんちょっとがっかりだなー」

「その機会を作りたもうたのは父上だぞ。ほかにもいろいろと訊きたいことがあるし、母上の前で申し開きもしてもらいたいと思っているんだ、わたしは」

 わたしの頭に真っ先に浮かんだのは、もちろんファウラのことだ。

「ええぇー…………。成人と認めるって証文(しょうもん)書くから、それでダメか?」

「ゆるさぬ」

 爽快なさすらいの中にも、一抹(いちまつ)の苦味は必要なものだぞ、父上。


 そしてわたしはこの時、ある決意をしていた。



次回 >>> 終章「 尾 行 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ