4-22. 目的
「あぁそうだ。サーラさんサーキィさん、これ」
カイが差し出してきたのは、剣とサーキィの釼だった。
それに、ぱっきりと折れたもう一振りの剣も。
「川岸に落ちてたんで、拾ってきました。霊珠じゃないもので練合したから長持ちしなかったんですかね? 分裂しちゃってました」
「余の釼 霊珠の ちから なくなってる……」
サーキィはしょんぼりとした。
「そうみたいですね。使い果たしてしまったんでしょう。負荷がかかったのか、片方の剣は折れちゃいましたし。ぼくの一族の製造技術もまだまだですねぇ。ま、だからこそばらまいてるんでしょうけど」
よく見ると、折れたほうの剣は柄の宝石にヒビが入っていた。これでは反・幻動気の力は失われてしまっただろう。
「しょうがねえわな。残ったほうの剣はサーラにやるよ」
「む、そうか。ではありがたく受け取る」
反射的にそう言ってから、わたしの旅はもう終わりなのではないかと気づいた。この剣をこれから何に使えばいいというのだろう?
受け取った剣は、父の持っていたものだった。鍔にある小傷に見覚えがなかったので、そうとわかった。折れたのはわたしのほうだったのだな。
別に愛着があったわけではない。本来の愛用の剣は私室にちゃんとある。しかしこの折れた剣はわたしの旅の始まりとともにあり、難題の解決に役立ってくれた。それを思い起こせば、感謝の念は尽きない。たとえカイを打ち倒すために作られたものであろうとも。
もはや剣としての用を果たせなくなったその姿を見て、わたしは旅の終着を深く実感した。その無残な剣身は、わたしにとっては解放の象徴であるはずだった。成人の儀式という肩の荷がなくなり、わたしは大喜びしてもいいところなのだが、とめどなく寂しさが湧いてくるのは、どういうわけだろう。
「カイ殿はこれで脅威になるものが減ってよかったんじゃないか?」
「いやっはっはっは。どっちでもよかったんですけどねー」
……まったく、気楽だなこの者たちは。
「サーキィ、今一度になるが、その釼、返却するぞ。助かった。本当にな」
「うん」
サーキィは小さくうなずき、おそらくは感慨深くしばし釼を見つめてから、長衣の中にしまった。
「いやはや、とにもかくにも痛快な経験ではあった。これでまた旅を続けられる。サーラ、感謝するぞ」
「なんだ、父上のくせに殊勝だな」
「父親にはもっと敬意を払いなさい。いい嫁になれんぞ」
「父親らしいことをしてから言うものだ」
「はっはっは! ちがいない! ――――それじゃあ、達者でな」
「待たぬか」
わたしは立ち上がる父の外套をしっかとつかんだ。
「なにをしれっと立ち去ろうとしているんだ。儀式の件を忘れたとは言わせないぞ」
「……よく覚えてたな」
「ああ、そういえばそうでしたねぇ」
「それを わすれたら もとも こも ない」
げに。この旅のそもそもの目的はそれなのだからな。
「なんと抜け目のない娘に育ったことか。お父さんちょっとがっかりだなー」
「その機会を作りたもうたのは父上だぞ。ほかにもいろいろと訊きたいことがあるし、母上の前で申し開きもしてもらいたいと思っているんだ、わたしは」
わたしの頭に真っ先に浮かんだのは、もちろんファウラのことだ。
「ええぇー…………。成人と認めるって証文書くから、それでダメか?」
「ゆるさぬ」
爽快なさすらいの中にも、一抹の苦味は必要なものだぞ、父上。
そしてわたしはこの時、ある決意をしていた。
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