4-13. 悪癖
「それからな、この剣をくれた人はこうも言っていた。『この二本の剣は少しばかりではあるが幻動気に対抗できる力を持っている。よい媒介があれば、合わさってより強い力を発揮することができるはずなのだが、その練合術がわからない。練合術と媒介物、どちらか一つだけでも発見したら知らせてほしい』と」
「よい ばいかい? 父君 もしや」
「つまり、霊珠ならばその役を果たせるだろうと俺は踏んでいるわけだ。うまくいけば、より強い力を持った一本の剣ができあがるらしいぞ。実におもしろいじゃないか。ぜひ見てみたいと思ってたんだ」
目をきらきらとさせる父。
父上もまた悪癖の持ち主であったか。わたしはあきれてしまった。
そんなことより、ここから脱出することを考えねばならないというのに。
楽しげな父にわたしは頭をかかえつつ、一応訊いてやった。
「……それで、練合術というのは?」
「いやそれが俺はまだ知らんのだ。とりあえず霊珠だけでもと思ってたんだが、希少品だからなあ。忘れかけてたよ。な、な、いいだろサーキィ」
父はしゃがんでサーキィの頬をふにふに揉んだ。父はらんらんと輝いた目をしているが、サーキィは無反応である。
しょうがない人だ。だいたいその頬はわたしのものだぞ。
「あのなあ、父上。そんなことよりもここを出る方法を――」
と、わたしが言いかけた時、
「練合術ですか。それ、ぼく知ってますよ」
カイが言った。あまりにもあっさりと。
一瞬、あっけにとられる父。
「……へ? マジかカイ殿」
「はい。聞いてて思ったんですが、そもそもですね、その剣を作ったの、ぼくの一族だと思うんですよね」
あっけらかんと言い放つカイに、誰もまともに反応できなかった。
「たぶん、ぼくを追いつめるのに役立ちそうな人を探すためとか、そういうことでばらまいてるんじゃないですかね、その剣。いろいろ考えるなぁ……」
「いやいや待て待てカイ」われに返ったわたしは口を挟んだ。「もしうまくその、練合とやらができたとして、持ち主がカイに敵対してくれるとは限らないではないか」
「まあ、そうですけど。どうにかして懐柔する気なんじゃないですか? そうでなくても、剣を取り上げちゃえばいいわけですし」
わたしの脳裏にラーシュの放った術がよぎった。確かにあれほどの力があるならば、剣を一本奪うことぐらい、たやすいことだろう。
「だが、カイはどうなんだ。カイ自身がその剣を使って一族に対抗してくる可能性は考えてないのか?」
「彼らはぼくが武器を使う性格じゃないって、よく知ってますから。実際、ぼくが入手したとしたら、壊すか隠すかしますね。おもしろくなりそうなのは、隠すほうかな?」
「そんな……」
敵同士のあいだに成立する奇妙な信頼関係に、わたしは二の句を継げなかった。
だが、カイのこれまでの戦いにおける振る舞いを思い出すと、納得できる気がした。自分の危機を想定するそぶりすら見せず、身一つだけで苦境に飛び込むことを楽しんでいるかのような。ラーシュと相対したときでさえそうだったのだ。彼らの敵対のしかた、そこにひそむ「信頼」は、愛に似てさえいる。
「一族にはぼく以外に練合術が得意な者はいませんからねぇ。ぼくに知られる危険よりも、とにかく広く剣をばらまいて、誰かがうまくやってくれる可能性に賭けたのでしょう。おそらくほかにも剣を持ってる人はいると思います。世界のあちこちに。よくやったもんですよね」
うんうんとうなずくカイ。
「……カイ殿、感心していてよいのか? 敵が世界中にいるということだぞ」
父は唖然としつつ尋ねたが、カイは恬淡と答える。
「いいんですよ。楽しい博奕には乗ってあげないと」
カイの返答に父も絶句してしまった。
次回 >>> 「 酔 狂 」




