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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第4章  永久平和のひととき
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4-11. 似霊

「父上、それは霊珠ではないか?」

「ほう、サーラ、よく知ってるな」

「以前見たことがある」

「そりゃあすごい。一生のうちでそう何度も見られるもんじゃないぞ」

「いや、それは霊珠ではないようですよ。ちょっと見せてください」

「そうなのか? 同じように思うが……。まあ俺が見たのはだいぶ前のことだからな」

 カイは父から霊珠、とおぼしきものを受け取り、眼前にかかげてじっくりと見た。常時軽い調子のカイが、いつになく真剣な表情で見つめていた。

 ――と、その物体は、カイの手の内で小さく音を立てて割れ、大猿のときのようにただの小石のごとき物へと変わってしまった。

「霊珠にしては力が弱い。よく似てはいますけどね」

 確かにこたびのものは簡単に力が失われてしまったようだった。大猿の霊珠は、大猿が死んだあとも力を残していたし、その力はナイフへと移ることもできたのに。

「まったくどうやってこんなものを作ったのか……」

 カイはそうつぶやきながら手のひらの小石をもてあそぶ。

「〝作った〟? カイ、そなた〝作った〟と言ったか?」

「はい。言いましたよ。見てみます?」

 カイが小石を投げて寄越したが、わたしに見分けがつくはずもない。

「ではこの霊珠――疑似(ぎじ)霊珠は、人の手によるものだと?」

「そうです。いわば人工霊珠というわけですね。今、この人工霊珠が宿していた力の流れを読み解いてみたんですが、これが体内にある説教師が街中をうろついているせいで、街全体が力場に包まれています。飛空船みたいなもんですね」

「じゃあ、こいつらを全員片付ければここから出られるのか?」

 父はそう言って砂を振り払い、剣を鞘におさめる。

 その時、父の腰元で何かがきらりと光った気がして、わたしは目をこらした。

 よく見ると、父の腰のうしろに、いま鞘におさめた剣よりはやや短い、もう一振りの剣が差してあるのに気がついた。それがどうも見覚えがある気して、わたしはじろじろと見た。

「全員といっても何人いるかわかりませんし、日が暮れちゃいますよ。やはり大元を叩いてみるべきでしょうね。つまりはそのオロイシュとやらをです」

「ではカイ殿はオロイシュが人工霊珠を作ったというのだな」

「と、思います。ほかならぬオロイシュ教の説教師がこうなってるんですから。で、オロイシュはどこにいるんです?」

「あーっ! そうだ! その剣!」

 わたしは大声をあげて父を指差した。

「なっ、なんだ突然。びっくりするだろ」

「それ、わたしに寄越した剣と同じものだろう」

 わたしは父からもらった剣を腰から引っこ抜いて示した。すると父も思い当たったようで、自分の腰元に手をやる。

「ああ、これか? これはな、」

 そこへ、二つの異質な声が飛び込んできた。

「見つけた」「見つけた」

 声は路地の両方向から聞こえてきた。挟まれたか。

 ゆっくりと近づく声の主二人は、例によって黒の僧服に身を包んでいた。説教師だ。

 さっきのやつは仲間を呼んでいたのか?

「暴力を振るって人に害を為してはいけません。永久平和を望むのです」

「説教を聞き、深く信心しなさい。永久平和を望むのです」

 やさしげな言葉とともに、またしても笑顔は異形(いぎょう)へと変身を遂げ、先ほどと同様、けたたましい音を立てはじめた。

 まったく、どこが永久平和だ。

「サーキィ、ナイフを返しておくぞ。身を守れ」

「しょうち」

 サーキィはわたしの差し出したナイフを素直に受け取った。

 たとえ固辞(こじ)されてもわたしはナイフを押しつけるつもりだった。どうやって()ぎつけたのか知らないが、この分では、この二人を打ち破ったとしても、またほかの者がやってくるかもしれない。もし分断されたら自分の身は自分で守らねばならぬ。


次回 >>> 「 報 酬 」

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