表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第2章  はじめての死威
28/79

2-9. 打撃

 カイのところへたどりつく前に、穴から巨大な影がずるりと出てきた。

 なんたる、

 なんたる大きさ。

 白い毛におおわれた大猿は、姿を現した瞬間はかがんでいたものの、全身が外へ出ると、威嚇(いかく)するように体を伸ばした。その背の高さは、わたしの倍以上、いや三倍はあるかもしれないほどだ。

 体全体が怒張(どちょう)して総毛立ち、口の端からは(よだれ)がだらだらとこぼれている。両の眼球は真っ赤になって、いまにも眼窩(がんか)から飛び出しそうなほどに膨張していた。真っ白い体毛に包まれて燃える目玉は、あまりに恐ろしく映えた。

 まったく化け物というにふさわしい!

 息もつかせず大猿は極太の腕をカイに向かって振り下ろした。風を切る音が耳を突くほどの高速で、特大の拳がみるみる迫る。

 カイ!! 何をぼやっとしてるんだ! よけろ!

 しかしどういうわけか、猿の腕はカイのすぐ横へと()れていき、地面に拳の形のくぼみを作るに終わった。ドォンと盛大な打撃音が響き渡る。

「ふーむ」

 張り詰めた筋肉の塊を横目に見て、カイは不思議そうな顔をしていた。

 なぜ攻撃がずれたのかわからず、大猿は呆気にとられている。その隙を突いて、わたしはカイに体当たりするようにして、もろとも脇の木の陰へと倒れこんだ。

「何をぼーっとしているんだそなたは!」

 胸ぐらつかんで怒鳴るわたし。しかしカイは、

「ちょっと効きが悪い感じですね。逸れただけでした」

 と、よくわからぬことを平静に答える。

 瞬間、隠れていた木が横にすっ飛んでいった。

 大猿の横()ぎが簡単に木を折ってしまったのだ。

 飛び散った木の破片がわたしの左腕をかすめていった。じわりと痛みが走る。

「くそっ」

 わたしは振り向きざま、間近に迫っていた大猿の手に斬りつけた。

 ――がっ、まるで傷がつかない!

 といって、強固な表皮に阻まれたという手応えでもなく、柔らかくすり抜けてしまったような、奇妙な感覚が手に残った。なんだこれは?

 疑問に思う間もゆるさず、大猿はもう一本の腕を振り上げ殴りつけようとしてきたが、突如動きが止まる。あ、危なかった……。心臓がばっくばっくと鳴ってしかたない。

 いったい何事だ?

 すばやくあたりを見回すと、サーキィが地面に手を置いて、ぶつぶつと口を動かしているのが目に入った。

「おお、地霊人(ノーム)の動術ですね。地を操り足の自由を奪っているようです。おみごと」

 あいかわらず落ち着いた口ぶりのカイ。そして手をかざし、

「よーいしょっと」

 と言って手をぶんと振ると、大猿はカイの手の動きに同調したようにバランスを崩し、坑道の中へと転げていってしまった。

 どこまで転がっていったのか、一旦は静かになる。今のは……カイの動術か? とすると、さっきのカイへの攻撃が逸れたのも、動術のせいということ……か。

 今のうちにとわたしとカイはサーキィのもとへ移動した。

「なぜか動術は効き目が薄いようですね」

「うん いちじのあしどめが げんかい おかしなちから まとってる」

 カイとサーキィは冷静に語り合う。わたしだけが動揺しているようで気に食わない。

「ど、どうする? 刃も通らぬ。妙な感じだ、まるで刃物を寄せつけないかのようだぞ」

「あれ、そうなんですか。どうしましょう」

地霊人(ノーム)の釼ならば おそらく」

「なるほど。幻動気が()もった刃ならいけるかもしれませんねぇ」


ギョエアエイイイイエエアアア!!!


 明らかな怒気に満ちた吠え声が坑道の奥から鳴り響いた。動悸がいや増す。

「く……すぐにも出てくるぞ!」

「ということでサーラさん、サーキィさんからもらったナイフでいってみましょう」

「どうやってだ!? あの刃渡りではかなり近づかなくてはならぬ。とても無理だ!」

「どうにかします。だいじょうぶ、命は守ります」

「今度は本気であろうなその言葉!」

「もちろん。サーキィさん、足止めをお願いします」

「しょうち」

 サーキィが答えたかどうかというところで、大猿が再度坑道から姿をのぞかせた。


次回 >>> 「 飛 躍 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ