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かくも心地よきさすらい  作者: 北条三蔵
第1章  父を殴りに三千里
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1-16. 銀光

「安定飛行に移りました。どうです? サーキィさん」

「む むむ? おおー」

 サーキィはふっと立ち上がり、元気にあたりを歩き出した。何もない空中をあちこち見つめては、納得顔をしている。

「なるほどー なるほどー」

「何がなるほどであるか」

「幻動気じゅうまん あんしん」

 サーキィはこちらを振り返って、なんだか自慢げに言う。

 幻動気というと、動術家が力を引き出す元になるあれか。

 わたしがわからない顔をしていると、カイが口を挟んだ。

「船を飛ばす風霊人(シルフ)の術が安定的に稼働すると、船全体が幻動気の力場に包まれるのです。精霊人(スプライト)にとっては、生まれ故郷に帰ったような安堵感があるんでしょう」

「そういうものなのか……」

「われら 幻動気のこごりから うまれたるものども ゆえに」

 何を示しているつもりなのか、サーキィは人差し指でくるくると円を描いて見せた。

 幻動気は動術家だけでなく、精霊人(スプライト)にとっても重要な、いうなれば活力の源ということか。わたしには何も見えないが、この空間に「何か」があるのだろう。ふしぎだ。

「すばらしい すばらしい ちょっとあいさつ してくる」

 そう言ってサーキィはどこだかへ出かけようとする。

「おおいどこへ行くんだ」

 足早のサーキィにわたしが声を張ると、

風霊人(シルフ)に あいさつ」

 と言い残してさっさと船室を出て行ってしまった。

 わざわざ知り合いでもない漕ぎ手の者たちのところへ行くつもりか。精霊人(スプライト)の交遊のしかたはよくわからぬ。

「具合がよくなってよかったですね。ああ、そうだサーラさん」

「なんだ?」

「バダルさんからこれも預かったのを忘れていました」

 カイは黒っぽいローブの中から一振りの剣を取り出した。

 長剣というには短いが、短剣というには少し長いであろうか。刃はわたしのひじから指先までほどの長さだ。

 なかなか豪奢(ごうしゃ)(さや)で、さまざまな宝飾によって彩られている。多くの色がきらきらと輝いて美しいが、どうも配置が無軌道に思われ、ちと美観に欠けるなと感じてしまった。

「誕生日祝いのつもりか?」

 カイから剣を受け取ってよく見てみると、鞘の華やかさに比べると、(つか)の部分はあっさりした装飾だし、似つかわしくないくぼみがある。

 このくぼみ、もともと何かがはまっていたのではなかろうか。

「カイ、この剣については何か聞いているか?」

「いえ。単に祝いの品なのではありませんか」

「ふーむ」

 剣を抜いてみると、しゃりんと小気味よい音がする。

 玲瓏(れいろう)な銀光を発する、両刃の、まっすぐの剣身。

 角度を変えて刃の照り返しを見てみると、銀色の中にほのかな紫色と金色が混ざり合う。

 切れ味のほどはわからぬが、良い品ではあるようだ。金銭的な目で見るなら、鞘のほうがよほど価値がありそうであるものの。

 旅先で偶然入手した物を寄越(よこ)したのであろうが……わたしが父の言い分に忠実に旅立つと見越して、護身用の意味で手紙に添えたのかもしれぬ。

 そんな親心があるのかどうかあやしいものだが。

 柄のにぎり具合は意外にも悪くない。ちょうど剣を調達したいと思っていたところだ。ちょっと短いが、使い勝手は良さそうだ。

「とりあえず持っておこう。ありがとう、カイ」

 わたしが剣をどうやって身に付けるか、腰のうしろに差すかどうするか……などと思案していると、

「ところで訊きたかったのですが、サーキィさんは女性なんですね。見たことのある地霊人(ノーム)はこれまで男性ばかりでしたので、新鮮です」

精霊人(スプライト)にとって、肉体の性別には大した意味はないようだぞ」

「へえ」

「サーキィ自身が言っていたように、精霊人(スプライト)は幻動気のこごりによって偶発的に生まれいずるもので、肉体のありようはその時に自然に決まるのだと。そしてそれは外見だけのことであって、人格にとっては何の意味もないらしい」

「それは興味深い」

「幻動気に包まれることによって、地上を離れても気にならなくなるとは知らなかったが」

「またひとつ知見を得ました。実に旅の醍醐味ですね」

 そのとおりだな。わたしもサーキィの新しい一面を知ることができている。それは素直にうれしい。


次回 >>> 「 霊 果 」

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