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呪いの姫は祝いの王子に愛される  作者: 七賀ごふん
誓いの儀

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#5




明くる日。

マレードさんが戴冠式前に戻ってくるのを待つつもりだったけど、急遽予定を変えた。

やっぱり、本当の両親に会いたい。二人の顔が見たいし、心配してくれてるなら一刻も早く安心させたい。

リザベルさんには申し訳なかったけど、彼は快く了承してくれた。荷物をまとめ、遠く離れた地に護衛と共に向かった。

極寒で作物が育ちにくく、生きるには大変そうな国だった。けど一面の銀世界は息を飲むほど美しかった。

あんなことがなければ俺もここで育って、全く違う人生を送っていたのかもしれない。

でも“もしも”を考えても、俺が今幸せなことに変わりはない。胸の中の灯火はどこへ行っても消えることはなかった。


二十年ぶりに会った両親は少しやつれていたけど、俺を見ると涙を流した。

その瞬間、押し殺していた不安や緊張は消え去り。俺も彼らと一緒に涙を流した。


ちょっとしたことで一喜一憂したりして、やっぱり親子なんだな、と思ったり。マレードさんから祓いの術を教わったりもして、一ヶ月が経つ頃にはすっかり国にも馴染んできていた。


そして、クリスタッドの戴冠式前日を迎えた。


新たな時の王の誕生。国中がお祭り騒ぎで、どこもかしこも笑顔が溢れている。

空の明るさと相まって、誰もが幸せそうに見えた。

やっぱり、世界はこうでないといけない。車から降りて、後部座席に座っているマレードさんに声を掛けた。


「すみません、先に行ってても良いですか? 今すぐあのひとに会いに行きたくて……」

「あぁ。でも気をつけるんだよ。慌てて転ばないように」

「はい」


内心苦笑しながら車のドアを閉める。

確かに式に出席する為素敵なスーツを仕立ててもらったから、汚したら大変だ。人混みを抜けながら、慎重に先へ進む。

みっともないから走らないように……そう思っていても、やっぱり無理だ。体よりずっと、心が走り出してしまっているから。

招待状を差し出して王城に入ると、すぐにラルドさんがやってきた。


「ユノ様!」

「お久しぶりです、ラルドさん。お元気そうで良かった」


久しぶりの再会に喜んでいると、やはりいつもより立派な恰好をしたウォンさんとテラさんが駆け寄ってきた。

「ユノ、久しぶり!」

「お帰り、ユノ」

「ウォンさん、テラさん! ……ただいま」

頭を撫でられてちょっと照れくさかったけど、故郷で教わった挨拶をした。


「これからはクリスタッドで暮らせるの?」

「はい。両親もこっちに遊びに来てくれると言ってました。俺も様子を見に時々は帰る予定です」


皆としばらく談笑して、また後で、と言って別れた。

式の開始までまだ時間がある。足早に階段を上がり、目的の部屋に向かった。

ドアをノックしようとしたのに開け放されていた為、音を殺して中を覗く。

一番奥に位置するテラスに、会いたい青年の後ろ姿があった。


「とてもいい日だ」


声を掛けるより先に、彼は透き通った声を紡いだ。手摺に手をつき、下に広がる人々の様子を眺めている。

「おめでたいことは何人で祝っても、何度祝っても良いよね」

「ええ。……そうですね」

スキップするように駆け寄り、彼が振り返ると同時に抱き着いた。


「ただいま。リザベルさん」

「お帰り、ユノ。会いたかったよ」


互いの熱を確かめるように抱き合い、キスをした。


本当に、なんて良い日だろう。

どこまでも透き通る青空が、俺達を優しく見守ってくれている。

「一ヶ月がこんなに長いなんて知らなかった。……ユノはちょっと見ない間に大人びてるし、驚いたよ」

「あはは。衣装のおかげですよ」

彼から離れて翻り、踵を鳴らす。

王様の為の日だけど、今日は俺とリザベルさんにとっても新たなスタートを切る、大切な日だ。


「私の姫は、初めて会ったときから素敵だよ」


彼は眩しそうに目を細め、俺の額にキスした。


「そういえば、あれは受け取ってくれた?」

「はい。でも送らなくても、帰ってきたらすぐ書いたのに」


胸ポケットから白封筒を取り出し、彼に手渡す。

リザベルさんは封筒を撫で、中の紙を取り出した。

「ごめんね。最初はそのつもりだったんだけど、やっぱり待ちきれなかったんだ」

二つ折りにした紙をゆっくり開き、リザベルさんは悪戯っぽく笑った。

可愛いと思ったけど、用意していたペンを差し出す。

「これでよし。……この日を待ち続けていた。ありがとう、ユノ」

「こちらこそ。よろしくお願いします!」

彼のサインを確認し、微笑み返す。帰ったらすぐに提出しようと約束した、婚姻届だ。

もう互いの両親にも婚約の件は伝えている。戴冠式が終わったら結婚式の準備に取り掛かる予定だ。


「……さ。それじゃ、まずは王子様を祝いに行きましょ。貴方がいないと始まりませんから」

「そうだねぇ。気合い入れていこうか」


リザベルさんはぐっと腕を伸ばし、今度は俺を抱き抱えた。


「ち、ちょっと!!」

「お姫様の帰還も祝いたいし、最初だけ目立っていこうか?」


俺は目立ちたくない。

最後まで断固拒否しようとしたけど……、言うだけ無駄か、と苦笑した。

どうやったって、自分はこの青年には敵わない。

「もう、お好きにどうぞ」

額に手を当て、瞼を伏せる。投げやりな言い方だけど、嫌なわけじゃないんだ。

今はこの強引さの虜になってる。

一瞬だって目を離せない。少しの風にも揺れてしまいそうな自分をしっかり捕まえて、攫ってほしい。


「その代わり、絶対離さないでくださいね」

「もちろん。一生愛し抜くと誓おう」


白い服が宙に舞う。

地上から吹き上げるお祭りの花吹雪に包まれ、互いに笑い合った。

困ったことに、明るい未来しか見えない。


……孤独だった俺も見てるだろうか。


暗い過去を空に透かし、手をかざす。

大切な人と“幸せ”を祝う、愛しい愛しい今日が始まった。





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