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under rain  作者: 亮太 ryota
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幕間 「職人気質と現代の侍事情」 chapter 1

 銃火器を含む兵器の発達は人間の戦争とその歴史を急成長させる。世界を巻き込む戦争が何度か続いた後、日常にまで銃火器が浸透した現代では自衛の手段が必要になる。

 需要が高まれば市場は潤って、そこに更なる成長が見られる。しかし急速な成長が望まれた市場には濫造品も多く蔓延り、まともな製品にありつくには確かな知識と経験が所有者には必要である。

 粗製濫造の煽りで銃火器よりも更に注目されたのが近接武器で、中でも刃物は単純な攻撃力と古来からの信頼により人気を博した。裏社会にはそういった武器職人が日夜技術の粋を追求している。黒猫が多くの人間を屠ってきた虎徹も、そんな武器の中の一つに過ぎない。


 オフィス街から離れたあばら家からけたたましく鋼を鍛える音が響く。時代錯誤の武器職人の工房は、鋼を溶かす炉の影響で途轍もない熱気に包まれている。

 銀猫を通して連絡が回って来た黒猫は、電子機器を嫌い世捨て人のように生きる男の元を訪れた。

 滑りの悪いモザイク柄の引き戸を開けて、頭にタオルを巻いた作務衣の後ろ姿が見える。ハンマーを何度も振り下ろす腕は大木のように太く、衣服の上からで分かる程に鍛え抜かれた背中は記憶の中と何ら変わっていない。

「ーー用事って何なん?」

 黒猫は男に問い掛けるも、周りの騒音に紛れて全く相手には聞こえていなかった。

 背中に担いでいた虎徹を抜き放つと、黒猫はいつもの仕事をするように男へ斬り掛かった。躊躇いも加減もせず、本気で殺すつもりでその刃を振り抜く。


「おぅ、来てたのか、少しはまともな扱い出来るようになったもんだ」

 久々に会う知人と挨拶を交わすように、男はこちらを見ずにハンマーで虎徹の刃を受け止める。相変わらずの達人めいた動きである。全く相手にされていない鍔迫り合いは虚しくさえあった。

「……簡単に止めよって、自分がアホらしくなってくるわ」

 黒猫は仕方なく虎徹を引くと、男は再び何事もなかったように作業に戻る。響き渡る甲高い音は不思議と不快感を掻き立てない。

「今、手が離せない。焼き入れ前だ。ちょっと待ってろ」

 黒猫を一瞥すらせず、男は鋼と一心不乱に向き合ったまま鋼を打ち続ける。目の前の、その信念を貫くその姿勢は多くの人間と反りが合わないと言う事を彼は知っていた。


 作業場を出た黒猫は痛みの進んでいるあばら家を眺めながら煙草に火を点ける。住居と工房を兼ねた木造の建物。かつて黒猫はここで過ごして、刀の扱いを享受された。望んでそうなった訳ではなかったが、その日々がなければやくざ者としての人生は早々に終わっていたと思える。

 刀匠でありながら剣豪の名を欲しいままにする男は、黒猫にとっての師匠にあたる人物かもしれない。それと言うには余りに殺伐としているが、二人のコミュニケーションの殆どは刃を交えて行われてきたのだ。

 庭先に転がる木刀を見つける。咥え煙草でそれを拾い上げると、懐かしい程の忌々しい記憶が蘇る。木に吊るされたトラックのタイヤを打ち付ける日々、虎徹を完全に扱えるようになるまで只管鍛えていた三年間が頭を駆け巡る。

 挑戦と失敗の繰り返し、対人戦闘の基礎はこの男との戦いで培われた。未だに超えられない大き過ぎる壁としてあり続ける存在を思い描いて、黒猫は古くなったタイヤを打ち払う。懐かしい感触と重みを噛み締めて、煙草の煙を吐き出した。


「ーー鞘を作り直す? 急な話やな」

 作業が一段楽した男は黒猫の背中の虎徹を指差して、態々彼を呼び出した経緯を伝えた。

「刀身の長さとお前の体は合ってない。分かり切ってた事だが、普通には抜けないだろ? 普段はどうしてるんだ?」

 刀鍛冶の白虎が腕を組み、不揃いな身形を今更ながらに指摘する。

「どうもこうも、普通に抜いてるぞ」

 普段の動きをやってみせる黒猫。背負ったままでは抜けない彼は、鯉口を切り鞘紐を引いて虎徹を抜く。鞘は邪魔でなければ背負い直すが、近くの手頃な場所に置いておく事が殆どである。

「そんな事だろうと思った。鞘も拘って作ってる身としては、そんな扱いに文句でも言ってやりたい所だ。まぁしかし、虎徹を背負ったまま抜刀と納刀が出来るような構造を思い付いたんだ」

 組織に所属する人間には様々な役割があり、白虎は技術系のトップに君臨している。兵器の研究もとい刀作りの極致を目指す彼は全てを自己完結する変わり者である。

 その技術を見込んで弟子入りを志願する者も多いが、彼の浮世離れした執念と電子機器を嫌う生き方は誰しもにとって受け入れ難い。

 手解きさえ苛烈で、黒猫はほぼ反骨精神で三年間を一緒に過ごした。刀鍛冶としての腕と達人と呼ばれる程の剣技だけは認めざるを得ないが、それ以外の全ては破綻していると言っても過言ではない。


「まずはお前の体を計測したい。腕を伸ばせ」

 木製の定規を取り出した白虎は黒猫の了解を取らないままに話を続けた。


「そんなもん、カメラで測定出来るやんけ」

 黒猫は携帯端末を取り出すと人工知能のエルにカメラを起動させる。その場で撮影した画像データは身長から何からミリ単位の正確な数値を算出する。

「やめろ! アレルギーが出る! 俺は電波に敏感なんだ」

 白虎はホログラム投射されたデータから目を背けて、実在しないアレルゲンを神経質に毛嫌いした。この厄介な体質がある所為で彼は組織のビルに居着く事がないのだ。

「定規で測るよりは正確やねん。ちょっとぐらい、我慢せぇや」

 付き合っていられない黒猫は顔を背ける白虎にホログラム画面を大量に展開させた。視界を覆い尽くすホログラムに何故か震える彼を黒猫は勝ち誇ったように眺めていた。こんな事でもない限り、彼の情けない姿は見られない。


「……電波どうこうで言うたら、ここも充分電波届いてるやん」

 白虎の矛盾に黒猫は突っ込み、仕方なく白虎の知りたいデータを紙に書き出した。アナログな作業に辟易しながら、話が進まない現状を打破するべく行動に移す。

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