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under rain  作者: 亮太 ryota
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第三話 「愛食む獣」 chapter 3

「ああいうタイプの女が好きなんだ。黒猫って案外むっつり?」

 何処から見ていたのか、白猫は店を出た後になって冷たい流し目を彼に送る。彼女の軽蔑に似た眼差しに対して黒猫は適切な距離感を測り取れずにいた。

「……俺は静かで包み込んでくれるような女が好きやねん」

 黒猫は独白するようにうわ言を吐露する。彼は決して異性に興味がない訳ではなく、関わる人間の悉くがそこから乖離しているように感じていた。人間関係は鏡写しでしかなく、そもそも大部分が彼に起因している事にも気付かない振りをして、願望ばかりが欲望となって膨らんでいた。


「ーー男って皆、馬鹿ばっかりってあながち間違ってない」

 何処かの誰かが言っていたような言葉が、白猫の頭をリフレインした。黒猫は馬鹿、そこだけは確実である。


 白猫は無駄に逸れた話を軌道修正すると、情報収集の成果を黒猫と共有する。黒猫もただただ酒を食らっていただけでなく、少なからず貢献していたのだ。

 宗教の勧誘を蹴った黒猫が、その女についてありのままを話す。男の連絡先を知っているかもしれない事と過去に何度も遭遇している事、協力を要請した結果どういう話になったのかを。

「何処にいるの? その子を利用する。それが一番手っ取り早いじゃない」

 黒猫と同じ帰結に白猫は足を止めた。目撃情報以上の成果がまさか黒猫から得られると思っていなかった彼女は急速に思考を巡らせる。

「せやから、あの女は宗教関係者や。ええか、まともに話が出来るとは思わん方がええぞ」

 忠告するように言った言葉を白猫はまるで聞いていないようだった。


「時間はないの。平和的に解決出来れば上々、無理なら強硬手段で行く。相手が何者でも関係ない」

 白猫は黒猫を放置して作戦の立案と決行を独断で決める。感情の起伏を余り表情に出さない彼女が、黒猫へ振り返って少しだけ笑った。


 一時間程して、ダンスクラブから足取りも不確かな一団が店を出る。その中に例の女を見つけた白猫は静かに尾行を始めた。

 酩酊状態と思しき一団は男女数名で何処かを目指す。大方釣果を持ち帰る漁師の船団さながらに、フィーリングの合う男女それぞれがその先へと勢いでひた走る道中である。

 繁華街の群衆は夜更けに掛けて少しずつ静けさに包まれる。燻る小さな火種は燃え上がる瞬間を今か今かと待ち受けていた。時間経過と共に人々の活気がほんの少しだけ町明かりに負けて、楽し気な一団からは男女のペアが散り散りに離れていった。


「黒猫、あの子がホテル街に入っていくから、手筈通りに動いて」

 白猫は別の場所から同じく監視している黒猫にメッセージを送り、作戦の決行を告げた。


 仲睦まじい二人の男女が一時の安息を求めて通りを歩く。自身の体を押し付けて男の腕にしがみ付き、恍惚の微笑みを向ける女。腕に当たる女体の柔らかさを噛み締めて、ゴールへの道のりを目指す男。最早誰も二人を邪魔出来る筈もない展開、心を弾ませる男は不意に女が躓き転ぶ動きに置いていかれた。

 酒にふら付く二人は互いを巻き込みアスファルトへ倒れた。硬い感触に体が痛む男は、それでも笑いが込み上げてくる。女も情けない声を上げながら軽い謝罪を述べた。

「ーーうわ、今の痛いわ。おい、いけるか?」

 哀れむような声を上げて、通り掛かりを装う黒猫は男に手を差し伸べた。

「ん? あぁ、ありがとう。全然大丈夫」

 男は警戒心なく黒猫の気遣いを遠慮して、立ち上がれず笑い転げたままの女を介抱に専念した。

「遠慮すなや、ふらふらしてるやん」

 優しい心遣いと言葉で黒猫は懐からコルト・シングルを取り出して、無防備に背中を向けた男の後頭部に銃口を突き付ける。言動の嚙み合わない彼に、男の酔いが徐々に覚めていく。

 人通りの中で余りに自然に行われる強迫行為。黒猫は状況を理解した男にだけ分かるように平静を取り繕って行動を起こす。

「歩けるか? まぁ焦らんでええから、さっさと立ちぃや」

 黒猫はあくまで気のいい通行人に徹して、命を握られている事を察した男へと静かに誘導する。欲望の高まりを唐突に邪魔された男は、それでも素直に従う他なかった。

「……俺が何したってんだ? こんな事して何になる?」

 混乱する頭を振り絞って男は黒猫に問い掛けた。当然の疑問をぶつける男に、黒猫は取り合う素振りも見せない。


 事態の急転に、泣き笑いを上げながら女は地面に伏している。酩酊の度合いは女が圧倒的に高かった。取り残されている事にも気付かず、ホテル街の通りで女は楽しそうにしていた。


「お姉さん、どうしたの? 転んじゃった?」

 白猫は黒猫が男を引き剥がした頃合で女に話し掛ける。この作戦の第二段階が始まる。


 抱き起こされた女は目の前にいるのが誰か分からず、少しの驚きを見せたが思うように動かない体で通りにしなだれる。火照る体に夜の風が仄かな寒さを感じさせた。

 何が何やら分からない女は、心配そうにあれこれと尋ねる目の前の少女に言われるがまま答えた。自身の携帯端末を起動して迎えを呼ぶよう促された女は、何故そんな事をしなければならないのか考えてからすぐにどうでもよくなった。

 連絡先のリストから適当な男を選択して通話する。位置情報を送信して他愛のない会話を終えると、女はやり切った達成感で途端に眠気が襲ってきた。


「その人が来てくれるまで一緒に待っててあげるから、大人しく寝なさい。大丈夫だから」

 白猫はうとうとする女の肩を摩って優しく介抱する。強引な作戦ではあったが、驚く程に上手く進んでいた。


 逃げ回るターゲットを追い掛けるのではなくこの場へと誘い込む。酷く単純でいて、最も合理的なやり方で白猫達は王手を掛けた。

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