74.判明
「――お、来た来た……」
すっかり全滅した魔王軍の亡骸の中、ロクリアたちが……って、あれ? 来たには来たんだが、フェリルとクオンに背負われる格好になってしまっていた。しかも狼と狐の姿に戻ってしまっている。
そうか、やつらは恐怖と疲労のあまり気絶したのか。ただでさえここは異質な常闇が蔓延る異界フィールドだからな。
しかし、このほうが俺にとって都合がいい。自分たちのほうから眠ってくれるんだから、これでアリバイもできるし気兼ねなく暴れ回ることができる。
『グルルァ……オルドよ、やつは近い』
『オルド様、やつは近いです。ウミュァアッ……』
そうか、やつが遂に来たか……。相変わらず姿は見えないし音も聞こえないが、その代わりのように恐ろしい気配だけはビンビン感じる。
「――うっ……?」
転送魔法を使うのがもう少し遅れていたら、俺の体は真っ二つになっていただろう。例の化け物が接近際に発した気配には本当に驚かされた。やつの気配そのものが生きているかのように絡みついてきて、それで一瞬魔法を使う動作が遅れてしまったんだ。
これはつまり、スキルの効果範囲には迂闊に近付けないということで、相手を弱体化させるというような手段は通じないことを意味している。俺は試しに自分の姿を可視状態から不可視状態にして、気配も完全に消してみたんだが、それでもやつはまっすぐ一直線に向かってきた。
「くっ……!」
またしても間一髪で避けるような事態に陥る。なんてやつだ……一体俺を何で判断しているのか。もしやと思って匂いもなくしたが、ダメだ。
試しに殺気をぶつけてみても通用せず、やつは構わず猛然と俺に向かってきた。なんなんだこいつは……。とにかく死に物狂いで、戦いのことしか頭にないように見える……ん、待てよ? 死に物狂い……?
まさか、やつは狂ってるかそうでないかで獲物を区別しているのか……? そういえば、かつて魔族どもを永遠に破滅させるために、王国によってある化け物が生み出されたと聞いたことがある。狂戦士というもので、一度暴れ出すと、ターゲットや周りの生き物が死ぬ、または自己が完全に消滅しない限り、誰もが手がつけられないほどの強大な戦闘力と治癒力を発揮して戦い続けるのだという。
そうか……遂にわかったぞ、こいつはその狂戦士の末裔ってわけだ。だからこそあれだけおぞましい気配を帯びていたんだろう。非常に興味深い敵だが、どう対処しようか。ターゲッティングされないためにこっちが狂ってしまえば本末転倒なわけで、やつの狂気を受け止めつつ戦わなければならない。
狂戦士は戦えば戦うほど、傷を負えば負うほどに強くなり、ターゲットがいなくなったときに元に戻るそうだ。そういうことを考えれば長引かせるわけにもいかない。
しかし、これだけ強敵を前にしているというのに、妙に落ち着いていた。多分、リミッターを外して思いっ切り暴れられそうだからだろうな。俺は今まで一度も本当の意味で力を出し切ったことはなかったが、今回初めてやってやろうと思う。今までしつこく追尾されてきた恨みもあるしな。
「フェリル、クオン。聞こえるか」
俺は狂戦士の攻撃を避けつつ、フェリルたちに向かって呼びかける。透明の化け物が近くを通り過ぎるだけでヒヤヒヤもんで、思わず笑みが込み上げてきた。
『ああ、オルドよ、聞こえる』
『聞こえます、オルド様』
「俺本気を出すからさ、できるだけ離れててくれ。ロクリアたちを連れて。それと、二人とも姿が元に戻ってるから人間に化けておいてくれ」
『わかった』
『わかりました』
よしよし、これでいいんだ。魔法力を全開にできる喜びに、俺は脳に鳥肌ができるんじゃないかと思った。殺してしまっても復活させりゃいいから問題ないし、その勢いでやらなきゃこっちがやられるのは間違いない。そう確信できるほどに、やつはこの間にもどんどん強くなっているのがひしひしと伝わってくる。
「クククッ……」
だが、相手が悪かったなあ。本気になった俺の攻撃に果たしてどれだけ耐えられるのか、ほんの少しの間本来の目的である嫌がらせライフを忘れて、お前の体で試してやるとしよう……。




