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73.種


 こうして俺と魔王軍の戦いが幕を開けた。


『人間、ぶち殺してやるぞっ!』

『食らいつくしてやるっ!』

『くたばれぇっ!』

『『『ブヒャヒャッ!』』』

「……」


 やはり、戦前感じたように魔族ら異形の者たちの目の色が違う。とにかく必死だし、活き活きとしているのだ。以前だとただの捨て駒感がひしひしと伝わってきたもんだが、今は少しでもミスをしたらまずいんじゃないかと思えるくらいの波状攻撃を仕掛けてくる。


 しかし雑魚相手にこれ以上遊んでる暇はない。無駄な時間を浪費していたら、それこそジルベルトとかいう骸骨野郎の思うツボだからな。


「魔族たちへのささやかなプレゼントだ。心を込めた手作りの品でな……さあ受け取れ」


 以前にもやったが、まず俺は小さな闇魔法を手の平の上に出現させる。それも一つだけ。当然だが、闇魔法を魔族ども向かわせる際、大きさと数を【逆転】し、さらにやつらの体に馴染ませてから属性を光に変えてやった。


『『『モッギャアアアアァァァッ!』』』


 そこら中から聞こえてくる複数の悲鳴を筆頭に、あらゆる場所から痛々しい叫び声が次々と湧き上がってくる快感。前回の魔王討伐時は不快でしかなかったのになあ。俺自身、嫌がらせに抵抗がなくなったことも大きいんだろうか。


『――さすがは賢者オルド、以前にも増して強くなられましたな』

「おいおい……これから死ぬかもしれないっていうのにヨイショしてる場合か? 死霊王」


 俺はやつに向かってこれ以上ない極小の闇魔法を放ち、寸前で甚大な威力の光魔法に変えてやる。


『ジルベルト様ぁっ!』

「……」


 ん、あのダークエルフも以前見たやつだな。なんか無気力そうな女に見えたが、骸骨野郎のことが余程心配なのか必死の形相で面白い。


『心配はいらぬ、ティアルテ』


 おっ……あいつティアルテっていうんだな。こういったどうでもいい情報がポンポン飛び込んでくるのも、それだけ今回のクーデターがやつらにとって熱量が高いっていう証拠か。もう死ぬけどな……ってあれ? ジルベルトの中で極大の光魔法が生じたはずだが、普通に生きていた。


「へえ、あれを消したのか。やるな……骸骨」

『カカカッ……それがしの抱える闇はそれだけ懐が深いということだ……』


 上手くはぐらかされたが、骸骨野郎がやったことはかなりの高等テクニックで、俺が闇魔法を光魔法に変えた瞬間、やつはそこに凝縮した闇を被せて、その際に生じた反動さえも利用して逆らおうとせず巧みにかわしたんだ。


 あれを少しでも受け止めようとしたり、反動をもろに受けたりしたらバラバラになってしまうわけだからな。さすが死霊王。やたらとタフなだけでほぼ一方的に倒せた魔王とは一味も二味も違う。


 だが、それでも倒すのにあまり時間はかからないはず。手加減はしてないが、だからといって今持てる力を全て発揮しているというわけでもないからだ。敵はこいつだけじゃないから配分を考えていて、その割合の中で本気を出しているだけであって、比率を少しこっちに偏らせるだけでいい。


「じゃあ、これはどうだ」


 俺はそよ風程度の風魔法を放出し、やつの間近で猛烈な颶風に変えてみせる。


『ぐっ……』

『ジ……ジルベルト様っ……!』

『『『ギョッ……ギョエエエエエエェェッ!』』』


 さすが、ジルベルトとティアルテは耐えているが、多くの魔族たちは次々とバラバラになりながら吹き飛んでいる。ただの強風じゃなくて、魔法によるものなので威力は桁違いだというのに大したもんだな、死霊王とその忠実な部下は……。


『……な、なんのこれしき……』

「おおっ……」


 思わず声が出てしまう。ジルベルトはこの短い間に風の中心を見抜き、杖で突くようにして体ごと向かってきたのだ。


『覚悟っ!』

「面白い……なら、これはどうだ」


 飛び込んできた骸骨野郎に対し、水魔法による特大の噴水をプレゼントしてやる。


『うぬっ……!』


 だが、やつはそれでも寸前で体を捻って避けたかと思うと、身軽に回転しながら着地した。少しでもズレていたら粉々になっていてもおかしくないのによくやる。しかし、もう終わりだ。


「さすが死霊王だが、噴水を隠れ蓑にしてお前の体内に土魔法の贈り物を入れてやったことには気付かなかったみたいだな?」

『……はっ……』


 ジルベルトの体から芽が溢れ出し、それがまたたく間に成長していく。立派な大樹の一部になったわけで、もう動くことはできまい。


『……ぬ、ぬおぉっ……』


 姿すら見えず、声だけがこだますのがなんとも憐れみを誘う。


『ジ……ジルベルト様……!?』


 可哀想だが仕方ない。俺は小さな火を放り投げ、一気に火力を上げてやった。不毛の地だし、どうせすぐ枯れるからその前に焼却処分してやるんだ。


『ガッ……ガアアアァァッ!』

『ジルベルト様ああぁっ!』

『ティアルテ……来るな……それがしを、お前の心の中で長く存続させるためにも……まだ……死ぬ、な……』

『……うぅ、ジルベルト様……』


 ん、まさか魔族同士のドラマを見られるとはな。人間顔負けのヒューマンドラマだ。しかしこれじゃあ、どっちが魔族なのかわからなくなってくるなあ……。


『仇っ!』

「……」


 ティアルテが長剣を振り回して攻撃してきたところで、俺は抜群の身体能力を生かし素早く彼女の背後に回り込む。


『隙ありっ!』


 読まれていたらしく振り返りざま剣を振り下ろしてきたが、やつと俺のいる場所を【逆転】させると、間髪入れず転送魔法で背後に回り込んで拳を頭上に叩き込んでやった。


『……かはっ……』


 こいつは気絶させて、あとで被追放者の村に持ち帰ろうと思う。


 魔族とはいえ美しい女で思考もまともっぽいし、村の看板娘の一人になりそうだからだ。魔王に対してクーデターを起こすくらいだから孤立してたんだろうし被追放者みたいなもんだろう。ジルベルトの遺言は守ってやるんだからありがたく思ってもらいたいものだ……。

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