第12話 戦国の武将、島津揚弘
第12話 戦国の武将、島津揚弘
「ほんなら揚弘、おまんさが代わいに行って来い。頼むわ」
「なんで俺が! フライド丸お前を迎えに来たんやろが!」
「嫌じゃ、ここは異世界経験者ん揚弘が行って来てくいやんせ! 頼むう!」
「俺も嫌や、フライド丸が行き!」
俺は有無を言わせず、嫌がる揚弘を穴の中へ突き飛ばした。
「…ごめん揚弘」
揚弘は悲鳴をあげながら穴の中に落ちて行き、見えなくなると穴は閉じて、
元の砂を固めた地面へと歪みながら戻って行った。
それから明け方に島津の大きいのから、揚弘を見ていないか聞かれたので、
「城の近くで別れた」と嘘を言って誤魔化した。
子安どんは俺の嘘を見抜いており、
「島津の小さいのはどうした?」
と、怖い顔して俺に改めて聞いた。
俺は正座して小さくなった。
「…異世界への扉が開いたからそこん突き飛ばして放り込んだとね。
おい、帰りたなかで。子安どんか側にずうっとおりたか…」
「アホかフライド丸! 島津の小さいのがこのまま戻って来れなかったらどうする?」
「だって揚弘が、扉は誰かば取り込まんと閉じん言うしい…」
「アホか!」
小さくなる俺を子安どんは怒鳴った。
「お前はまたもめ事を起こす気か! こんな事が島津の大きいのに知れたらどうする、
仕事に続いて住むところまで無くなるぞ!」
俺は自分のした事の重大さに気付かされた。
「うわあ、子安どんすんません! すんません! おい、何ちゅ事を…!」
「大体お前は考えなしに突っ込み過ぎる、
今どきゲームの脳筋プレイヤーですら作戦は大事にするというのに…。
お前は戦国の世界でも考えなしに突撃するアホだったのか?」
「すんません…」
俺は正座したまま、消え入るように謝った。
確かに俺は戦国の世界でもアホだった。
あの肥えた殿を逃がしたのが、俺のしでかした最大のアホな事だった。
子安どんのお説教に小さくなっていると、外がごちゃごちゃ賑やかになって来た。
そしてその音源はだんだんと近づいて来て、うちの前で最大になった。
玄関の呼び鈴の変な音が、ぴんぽんぴんぽん連続して激しく鳴り続ける。
「誰だ?」
「フライド丸出て来いコラ!」
外から男の叫ぶ声がする。
子安どんが玄関の扉を開けると、武士が突進して来た。
俺は驚いて子安どんにしがみついた。
「ひー! 武士じゃ、武士! 戦国ん武将が攻めて来よったど!
島津ん襲撃じゃっど、殺されるう!」
「よく見ろフライド丸、あれは島津の小さいのだ」
武士の顔をよく見ると、それは揚弘だった。
揚弘は鎧兜を着け、腰に大小を提げた戦国の武将になっていた。
俺は涙を流してげらげら笑った。
「似合うちょっとね揚弘、立派な戦国武将じゃっど」
「何やねんなあの世界は! お前のせいでえらい目えに遭うたわ!
フライド丸、俺に何させんねや!」
揚弘は俺に掴み掛かった。
「着いたらいきなり敵に追われとる軍のど真ん中やぞ、もうアホかと! バカかと!
ああ、もう戦うたわ、戦のど真ん中や、しゃあないわ。
いくら苗字が島津やからって、なんで俺が島津軍のしんがり務めなあかんねん、駄洒落か、
なんで俺があのデブ逃がさなあかんねや、ああコラ?」
揚弘は俺をぶんぶん揺さぶった。
俺は笑って、揚弘の手をほどいた。
「揚弘もデブ見たとか?」
「俺が突っ込まされたんは島津軍やったし、あれがお前の言うデブかどうかはわからん。
でもお前の気持ち良うわかったで、小便しとる時島津軍のデブに衆道されそうなったわ」
「そらあ気色悪りかあ、身いに染みっせえ分かりよったか」
俺はまた声を立てて笑った。
揚弘はそんな俺の両頬をつねった。
「笑てる場合かコラ、俺がどんな辛い目に…!」
「ちょっと待て。島津の小さいのがいた島津軍には、殿を務める武将がいなかったのか?」
子安どんがふと気付いて口を挟んだ。
「島津軍は逃げ切るから、誰かしらいたと思うんだが…」
「そんなんおらん。誰もやれるもんがおらんで、どうするどうする揉めとったで。
そうしとるうちに敵が追いついてしもて、戦が始まってもうてな、
その流れでいつの間にか俺がしんがりになっとったんや」
「変な戦国世界だな、殿も決められない軍とは。
アホのフライド丸でさえ主君を逃がしていると言うのに」
子安どんは言いながら俺を冷たい目でじろりと見た。
嫌味かいな。
俺は死ぬちょっと前の事を思い出しながら言った。
「おいんとこも援軍来んかったし、殿やれるもんもおらんかったと。
みんなで貴様がやれ、貴様がやれて、役目ばなすり付け合うたとね、
最終的においは逃げえ言うたけんど、言い出しっぺじゃったし、
殿んお気に入りっちゅうて、俺ん隊になすり付けられたとね」
「んで、フライド丸はその後どうなったん、俺はそのまますぐ、死んで戻て来たけど…」
俺は忠実な家臣らや、優しかった美濃の村人らを思い出した。
涙が自然と溢れて来る。
「…話したなか、思い出すだけで辛かと」
それから揚弘はその先のことを子安どんから聞いて、
「辛い事聞いて悪かった」と謝り、武装を解いて帰って行った。
そんなもん置いてくなや、邪魔やろが、そうこぼしながら、
残された鎧を撫でて、昔の事を思い出し感傷に少し浸って、そしてまた涙した。
翌朝ごみ出しに行くと、揚弘から戦国世界の事を聞いた島津の大きいのが、
「いいなあ、俺も戦国時代に行きたいよ」
と、頬を染め、目をきらきらさせて言うので俺は反発した。
「なんで? あんな殺し合いの世界!」
「男同士の愛が許されるって言うなら、俺は殺し合いでもいいよ」
…アホか島津の大きいのは。
はっきり言って、アホの揚弘よかアホだ。
島津の大きいのは急に真面目な顔をして言った。
「…揚弘の事、よろしくお願いします。あいつは今まで淋しい人生を歩んできた男だから、
フライド丸みたいな友達が出来て本当によかったよ…」
家に帰ると、子安どんが慌てた様子で近寄って来た。
「これ見ろ、フライド丸」
子安どんは俺に重みのある、薄い小箱を差し出した。
これは「スマートフォン」と言う、情報を取り出す電気の脳だと説明してくれた。
そこには文字が映し出されてあり、「島津揚弘」という名前が記されてあった。
「あっ…揚弘が!」




