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第10話 島津マンション

第10話 島津マンション


「あんたどこの男や? 留津おるんやろ、早よ出し!」


この老女は子安どんが言ってた、「子供に金をたかる親」か。

確かにこれじゃ子安どんも逃げたくなるわな。


「おいはフライド丸、こん子安家ん家臣じゃ。

子安どんは今おきゃっさあの相手しちょる、またにしてくいやんせ」


俺はそう言って扉を閉じようとした。

すると子安母は扉を掴み、足先を扉の中に入れてぐいと強引にこじ開けた。

子安どんが何事かと玄関に出てきた。


「あかんあかん! 金や金、金もらうまで帰らん!」

「嫌じゃ、早よ帰りい! 子安どん、今出よったらいけん!」

「あかん! 何やのんあんた!」


そこへ島津の小さいのが隣の家から出てきた。

出かけるらしい。

何やら長い物の入った袋を肩から提げている。


「島津の小っさいのん!」


俺は島津の小さいのに助けを求めた。


「あ、お隣さんの武士。どないしたん?」

「フライド丸じゃ、ちょと手え貸して欲しかと。

子安どんの悪りか悪りかおかんが、子安どんに金せびりに来よったど! 敵襲じゃっど!」

「金え! 金え!」


俺は金々うるさい子安どんの悪いおかんを食い止めようと必死だった。

島津の小さいのは背中の長い袋から、黒の地味な鞘に収まった刀を出し、

それを抜いて隣の扉の前から走って、俺と子安どんの悪いおかんの間に割って入った。


「日本刀…! こん『ねお薩摩』にもあったとか!」

「『からいもキャラメリゼ』かちかち! ここは通さん!」


島津の小さいのは刀を横に構え、子安どんの悪いおかんの太い腰を斬った。

ところが子安どんの悪いおかんは尻餅をついてがたがた震えるだけで、

実際には斬れていなかった。

峰打ちではない、ちゃんと刃で斬ったはずだ、どういう事なのだろう。


「なして? なして斬れてなかとね?」

「稽古用の刀や、刃あは付いてへん」


そう言うと、島津の小さいのは子安どんの悪いおかんの首を取った。

動きに無駄が無い、相当の猛者なのだ。

子安どんの言うところの「さいばあぱんく」よろしく、

何もかもが進化してしまった、この「ねお薩摩」にもまだ剣士がいたとは。

しかもこれほど腕の立つ者がいたとは…!

俺は嬉しさにぞくりとした。


「どうした揚弘、襲撃か!」


島津家の玄関の扉がばたりと開いて、島津の大きいのが飛び出して来た。

スーツなる着物の懐から、短い火縄銃らしき銃を抜きながら近づいて来る。


「敵襲や兄さん! 子安っさんの悪いおかんが攻めて来よったで!」


「揚弘」と呼ばれる、島津の小さいのが叫んだ。

島津の大きいのは短い銃を子安どんの悪いおかんの頭に突きつけた。


「島津マンションへようこそ、私が大家の島津幸弘だ」

「ひっ…ピストル!」

「うちの住民は夜の仕事をしている者が多い、この時間に騒がれると困る。

お引き取り願おうか」

「嫌や、金! 金もらうまで帰らへん!  金や金!」


子安どんの悪いおかんはそれでも喚き続けた。

その騒々しさに城の住民らが集まりだした。

一人、また一人と集まる住民らの手にはそれぞれ、

短刀や鈍器、短い銃や長い銃、武器が握られてあった。


「オーナー、敵襲すか?」

「ああ、子安さんとこの毒母が襲撃だ」

「とうとう見つかっちまったんすね…俺らもやるっす」

「私に出来る事は?」


住民らは島津の大きいのを大将に、軍をなした。

そして、暴れる子安どんの悪いおかんを部屋の前から引きずり、

武器で脅しながら城の外まで連れ出して、

全員で武器を向けて追い出した。


「二度と来るな!」

「来たらぶち喰らすぞ!」

「すまきにして沈めるぞ!」

「お前こそ臓器抜いて子安さんに金よこせ!」


子安どんの悪いおかんがいなくなったのを見届けて、

城の住民たちは笑い合い、それぞれの部屋へと戻って行った。


「こん城に軍があっとち知らんかったなあ、みんなで子安どんの事…」

「このマンションは事情のある者が集まって、みんなで一緒に暮らしている。

警察なんか呼べないやつらだから、みんな自分の住処を守るのに必死だ。

俺たちマンションの住民はお互いを守り合って暮らしているのさ」


あっけに取られる俺に、島津の大きいのがそう説明してくれた。


「事情んあっ…?」

「お前もだろ、子安フライド丸」


島津の大きいのは俺の肩をぽんと叩いて、部屋へと戻って行った。

そこへ島津の小さいのがやって来て、肘で俺を突いた。


「よかったなフライド丸」

「お、おおきに小っさいのん…そういや、何刀持っちょったとね? なしてあげん強かね?」

「ああ…あれな、兄さんに習わされとんねん。兄さんヤクザやろ、そやからな? 

まあ自分の身いは自分で守れて、兄さんの愛情ちゅう事や。

お前も武士言うなら戦えるんやろ、今度手合わせしよや」

「え…おいもう…」


島津の小さいのは刀を提げて少し駆け出すと、くるりと何か思い出したように振り返った。


「そうや。俺、揚弘…島津揚弘。『揚弘』でええで。

そろそろ行かな! ほななフライド丸!」


島津の小さいの…揚弘は明るく笑って出かけていった。

俺は「ねお薩摩」の剣士の後ろ姿を見えなくなるまで見つめた。



「どこ連れてくとね、揚弘」

「まあお楽しみや」


その数日後の夕方、俺は揚弘に誘われて連れ出された。

その事を話すと子安どんは、揚弘の誘いならと小遣いを渡してくれた。

冷たい灯りに隣を歩く揚弘の耳飾りがきらんきらんと揺れて光る。

この国の衆道の者はかぶいた者が多いのだろうか。

俺は思い切って揚弘に聞いた。


「おい、衆道んもんらが茶屋かなんかに連れてかれっとか?」


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