第1話 『——に堕ちた』
———天使は地界の者に『平等』であり、守護するべき存在である。
それは天界に住まう天使たちの絶対的なルール。
地界に生きる者たちの信仰心を糧に生きる天使にとって、それはとても大切なことだった。たとえ奴隷だろうと、大商人であろうと、はたまたそれが王族であろうとも、彼らは必ず皆を平等に扱った。
もし、このルールを破ってしまうと彼らは堕天する。
頭上の光の輪は消え、背中の翼は崩れ落ちる。
そしてその者は堕天使となり、地界に落ちるのだ。
◇◇◇
——〈天界〉——
『天界』、天使たちが住まう地界の上に存在する世界。
天界のほとんどは果ての見えない空が覆っており、点在する雲の上部には陸地が形成され、天使たちは主にそこで暮らしている。
中でも一際大きな雲、積乱雲とも呼ばれる巨大な雲には大きな神殿が建っていた。
ここは天使たちの集まる天界の中心部。彼らはここを『大神殿』と呼んでいる。
そして、その大神殿に彼はいた。
「あ、サエル様!今から地界に行くんですか?」
「ああ。今日が可地界日だからね」
「聞きましたよ。権天使になられたんですね。尊敬します」
「いやいや、僕はそんなに凄くないよ。尊敬されるなら悪魔と戦う能天使や力天使、主天使の方さ。僕にそんな勇気はないからね」
そう言って話す男天使の名前はサエルだ。
彼の階級である権天使は国や都市の守護を担うものである。
天使には階級が9つ存在し、階層の数字が小さいほど高位となる。
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第1階層天使 (各階級に一人のみ)
《熾天使》
6枚の翼を持つ最高位の天使であり、『神』から神命を授かる天使。
《智天使》
4枚の翼を持ち、英知と知識を司る天使であり、天界の番人。
《座天使》
『神』への信仰を地界に広める天使であり、天界の布教者。
第2階層天使
《主天使》
下位の天使たちを統率し、『神』からの神命を伝える天使。
《力天使》
勇気を授け、奇跡を起こす天使。
《能天使》
悪魔や邪悪な存在と戦い、世界の秩序と平和を守る天使。
第3階層天使
《権天使》
地界の国や都市の守護を担う天使。
《大天使》
地界の教会や神殿に座する天使。
《天使》
最も身近な天使。地界に小さな祝福をもたらす。
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ちなみに、可地界日とは天界と地界が繋がる日である。
この時、魔界と地界も繋がるので戦争になることが多い。
「サエル様、お見送りいたしますよ」
「ああ、ありがとう」
そう言うとサエルと一人の天使はある場所に向かった。
風が強くなってきた。その風はかなり荒れていて、足元の雲は少し黒くなっている。そこからしばらく進むと大きな渦巻き状の穴が姿を現した。
「はー、やっぱりいつ見ても繋界穴はちょっと怖いですね。本当にあの中心の穴に飛び込むんですか?」
「確かに少し怖いがこれも仕事だ。頑張るよ。あ、そうそう。この前知り合いの権天使に聞いた話なんだが地界の人間は繋界穴を“台風”と呼ぶらしいぞ」
「へー。地界の人間は面白いですね」
「じゃ、行ってくる」
「はい。いってらっしゃいませ!」
そう言った後、サエルは繋界穴に飛び込んで行った。
◇◇◇
———〈地界〉———
「…………っ」
繋界穴を抜けたサエルは顔にかかる暴風雨に目をつぶっていた。
ここから目的地である国までは飛んでいく。しかし聞いていたとはいえ繋界穴周りは雨が激しく降っていた。
サエルは濡れた顔を手で拭きながら辺りを見渡す。
向こうのほうには木々が立っており、地上は背の高い草が伸びている。
「ほう、話には聞いていたが本当に自然豊かだな———⁉︎」
サエルはしばらく自然を見た後、急にスピードを上げた。
先ほどの方向をもう一度見る。………悪魔だ。
『悪魔』、地界のさらに下、魔界に住まう邪悪な種族。
悪魔と天使は太古の昔から戦争をしており、それは今もなお続いている。
恐らく今日が可地界日であるから出てきたのであろう。
ここは無視して逃げるのが得策だ。
サエルは目的地に急ぐのだった。
エウロア王国。海に面した非常に豊かな国だ。
今回、サエルが権天使として守護するのがこの国だ。
サエルは王国の上空で地上の人々を眺めていた。
人間とは一人一人が個性的で面白い。ずっと眺めていられそうだ。
ちなみに、天使や悪魔は人間には見えていない。
と言うよりは見えないのだ。天使や悪魔は実体を持たないのである。
なのでサエルが数時間上空に居ようとも気づく者はいないのだ。
サエルは数時間見た後、場所を移動した。
何やら祭りが催されているようだ。中央の台には高貴な身なりの人間たちが座っていた。あの感じからしてこの王国の王族だろう。
サエルはせっかくなので王族の顔くらい覚えておこうと思い近づいた——その時だった。
「………———!」
その姿が瞳に映った時、時間が、止まったように感じた。
心臓が、今まで感じたことのないほど鼓動を打っている。
いけない事だ。これは、天使である自分には不要な感情のはずだ。
なのに、それなのに、その人間、その女性から目を離せない。
「———」
気づけば、その人間を『特別』なものとして見ている自分がいた。
頭上の光の輪が消え、背中の翼が崩れ始める。浮力を失った体はゆっくりと落ち始めた。
落ちて、おちて、堕ちてゆく。
その日、僕はその人間に、その美しい女性に——————恋に堕ちた。




