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第24話 覇気の力

人は時として、目の前にある出来事だけを見て判断してしまう。


しかし、その出来事の背後には、

本人さえ気づいていない大きな意味や、

誰かとの深い繋がりが隠されていることがある。


葵を救ったラックの行動。

サラが感じ取った不思議な力。

そして、葵自身の内側で目覚め始めた変化。


それぞれの想いが重なり合う時、

小さな村で起きている出来事は、

やがて世界を揺るがす大きな流れへと繋がっていく。


しかし、その第一歩は――

ただ一人の少女が、

「私はもう一人ではない」と気づくことから始まる。





「葵ちゃんの話を聞く前に……」


ラックは静かに立ち上がった。


「どうしても、みんなに聞いてほしいことがあります」


「何だい?ラック」


ヨーデルをはじめ、皆がラックへ視線を向けた。


ラックは少し緊張しながら、ゆっくりと話し始めた。


「僕が初めて父さんに連れられて、リムラ村へ行った時のことです」


「僕はまだ幼くて……あの村に漂う不思議な重苦しい空気に、正直……恐怖を感じていました」


「近くの村が廃村になり、人々が希望を失い、力を失っていく……」


「そんな弱ってしまった村を見て、僕は目を背けたかったんです」


ラックは拳を握りしめた。


「無関心って……本当に卑怯なことだと思います」


「自分には関係ないから見ないふりをする」


「子供だから何もできないと決めつける」


「今思えば、あの時の僕は……逃げていただけでした」


「だから、ずっと後悔していました」


静かな部屋にラックの声だけが響いた。


「今から話すことは、誰にも話したことがありません」


「聞いてください」


ラックは皆の顔を見渡した。


「僕は……何度も同じ夢を見たんです」


「夢の中で……誰かが助けを求めて叫んでいました」


「苦しくて……悲しくて……」


「誰かに助けてほしいと願う声でした」


ラックは葵を見る。


「今なら分かります」


「その声は……葵ちゃんだったんだと思います」


「えっ……私?」


葵は驚いた表情を浮かべた。


しかし、ラックの真剣な眼差しを見ていると、不思議と否定することができなかった。


「つまり……ラックは夢の中の声を無視できなくなって、僕と一緒にリムラ村へ向かったということだね?」


ヨーデルが尋ねる。


「はい……父さん」


「そして、そこで僕は初めて……」


「倒れている葵ちゃんを見つけました」


ヨーデルは静かに目を閉じた。


「あの日……もしラックが少しでも遅れていたら」


「葵ちゃんの命は失われていたかもしれない」


「そう考えると……神の導きがあったとしか思えないよ」


アニーが驚いた表情で呟いた。


「じゃあラックは……葵ちゃんの命の恩人ってことなのか?」


ラックは首を横に振った。


「そんな格好いいものじゃないよ」


「僕は怖がって、ずっとリムラ村から逃げていた人間だから」


「でも……あの夢だけは無視できなかった」


「きっと神様が、僕を葵ちゃんのもとへ導いてくださったんだ」


ラックの言葉には、確かな覚悟があった。


□◆□◇◆


「私からも……大切な話をさせてください」


サラが静かに立ち上がった。


「実は……葵ちゃんに初めて会った時」


「私は、とても不思議な感覚を覚えたの」


「まるで……幻の国『ワールドの息吹』を感じたような」


皆が息を飲む。


「これは妖精族に伝わる伝説なのだけれど……」


「妖精族の守護者の中には、時代を変えるほど特別な力を持つ者が現れることがあると言われています」


「初代巫女様も、もともとは妖精族の守護者だったそうです」


「しかし神に選ばれ、世界を救う使命を授かり……」


「『覇気』という特別な力を与えられた」


「覇気……?」


デルが小さく呟く。


「そう」


「覇気とは、巫女様や勇者だけが持つと言われる特別な力」


「時代の流れを見極め、人々を正しく導く力」


「大きな使命を背負う者に与えられる力なの」


サラは葵を見つめた。


「今回のダンさんとの問題だけを見れば……」


「ひとつの家族の問題に見えるでしょう」


「でも、もっと大きな視点で見るなら……」


「これは、これから始まる大きな時代の変化の一部なのかもしれない」


「リムラ村が衰退し、世界が混乱へ向かう時代だからこそ……」


「神は必要な人を備えられる」


サラの声には確信があった。


「葵ちゃん」


「あなたには、普通の人では背負えない大きな使命があるように感じます」


「そしてラックも……」


「あなたを導くために、神様から選ばれた存在なのかもしれない」


「だから……ダンさんとの問題も」


「必ず解決する道があると信じましょう」


サラは優しく微笑んだ。


「さて……」


「今晩は葵ちゃんのために集まったのだけれど」


「葵ちゃんの気持ちは……聞かなくても分かった気がします」


「ね?」


皆の視線が葵へ集まった。


□◆□◇◆


「私は……大丈夫です」


葵の声には、以前にはなかった強さがあった。


ラックの言葉に背中を押されたように、まっすぐ前を見ていた。


「今日、父さんが来たのは……」


「私を連れ戻すためではありません」


「それに……」


「私はもう、以前のような弱い人間ではありません」


「葵ちゃん……」


サラが優しく尋ねる。


「それは……どういう意味?」


葵は静かに答えた。


「ラックが私を助けてくれたあの日……」


「私は、人生で一番深い闇の中にいました」


「でも、その時……私を救ってくれた存在と出会ったんです」


「起源の存在……神様です」


葵は胸に手を当てる。


「あの日、私は初めて知りました」


「私は……本当はひとりではなかったんだって」


「失われていた心に、もう一度命を与えてもらったような……」


「そんな感覚でした」


「そして目を覚ました時」


「目の前にはラックがいました」


「私を助けてくれる人が……そこにいたんです」


□◆□◇◆


「あの日……」


「父さんとは少し言い合いになりました」


「でも、私は初めて自分の気持ちを伝えることができました」


葵は、あの日の言葉を思い出す。


『父さん、聞いて!!』


『私はこれからサラさんのお店で働いて、みんなの役に立つ人間になりたいの!』


『お願い……このまま働かせて!』


「父さんは……」


『……分かった』


『勝手にしろ』


そう言って、その場を去りました。


「私は安心した瞬間……」


「力が抜けてしまって……」


「バランスを崩して転んでしまったんです」


「だから……」


「今回の怪我は、父さんが暴力を振るったものではありません」


皆は静かに葵の話を聞いていた。


ヨーデルが頷く。


「つまり今回のことは……」


「不慮の事故だったということだね」


「みんな……それでいいかな?」


「はい」


ラック、アニー、デルが答える。


そしてサラ、カムイ、エリーも静かに頷いた。


葵は小さく微笑んだ。


その瞳には、もう以前の怯えた少女の姿はなかった。


そこには――


未来へ進もうとする、強い光が宿っていた。

今回の話では、葵を取り巻く人々が、

それぞれの立場から彼女を支えようとする姿を描きました。


ラックは、自分の弱さを認めながらも、

誰かを助けたいという想いによって一歩踏み出しました。


サラは妖精族の守護者として、

葵の中に秘められた特別な力を感じ取りました。


そして葵自身も、過去の苦しみに縛られるだけの存在ではなく、

自分の意思で未来を選ぶ力を持ち始めています。


父ダンとの関係は、まだ完全に解決したわけではありません。

愛しているからこそ離れなければならない時もあり、

赦すことと、傷つくことを許すことは決して同じではありません。


これから葵が歩む道には、

さらに大きな試練が待ち受けています。


しかし、彼女の周りには、

共に歩んでくれる仲間がいます。


小さな希望の灯が、

やがて世界を照らす大きな光となる――


そんな想いを込めて、第24話を終えたいと思います。

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