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第16話 5人の使徒

「5人の使徒」


リムラ村――。


そこは、ただの小さな村ではなかった。


2000年前、初代巫女が訪れたとされる聖なる地。


長い年月の中で、人々はその意味を忘れかけていたが、古き時代から受け継がれた「神への信仰」は、確かにこの地に残されていた。


そして今――。


世界の闇が再び動き始める。


悪根の呪術者達の目的。


リムラ村に隠された秘密。


そして、12年前に預言者アブラハが託した5人の使命。


全ての出来事は、偶然ではなかった。


葵が「最後の巫女」として目覚めた時、世界を救うための新たな物語が始まる。


しかし――


光が生まれる時、必ず闇もまた動き出す。


果たして5人の使徒は、迫りくる運命から葵を守ることができるのか。


そして、ラックに秘められた「勇者」としての力とは……。

リムラ村は、人口わずか300人足らずの小さな村である。


しかし――


この村には、2000年もの長い歴史と、他のどの村にもない特別な意味が存在していた。


かつて大陸エデンより訪れた初代巫女。


彼女が残した聖なる言葉が刻まれた「聖石」が、今も村の各地に残されているのだ。


なぜ大陸エデンで生まれた初代巫女が、遠く離れたこの地を訪れたのか。


その理由を知る者は、誰もいない。


しかし――


古くから村に伝わる言い伝えでは、初代巫女は未来を予知していたと言われている。


いつの日か、自ら封印した魔王が復活する時。


その時代を変える存在が、このリムラ村から生まれることを……。


だからこそ、この村の人々は2000年もの間、神への信仰を失わなかった。


悪に心を奪われることなく、互いに助け合いながら生きてきた。


妖精族の守護者の力を必要とすることなく、人々自身の心の力で支え合ってきたのだ。


このように純粋な心を持つ民は、世界中を探しても数少ない。


大陸エデンの民。


そして――


名もなき小さな村、リムラの民。


この二つの民だけであった。


□◆□◇◆


その夜――


葵はダンの元へ帰らず、サラの店の二階にある住居で一晩過ごすことになった。


「サラ、葵ちゃんは眠ったのか?」


ヨーデルが心配そうに尋ねた。


「ええ、ヨーデルさん。


今はぐっすり眠っているわ。


でも……少し気になることがあるの」


「気になること?」


サラは何かを言いかけた。


しかし、その時――


店の扉が開いた。


「遅くなったな」


姿を現したのは、ガデム村の村長ガンメル。


そして妻であるルスタだった。


「ガンメル村長!」


ヨーデルは立ち上がった。


「お久しぶりです。


5人で集まるのは……一年ぶりですね」


「ああ……そうだな、ヨーデル」


ガンメルは静かに頷いた。


「我々が最後に集まったのは、リムラ村で事件が起きる前だった」


12年前。


我々5人は、預言者アブラハ様の命によって、このガデム村へ派遣された。


アブラハ様はこう言われた。


『あなた達には、未来に関わる重要な使命がある』


しかし――


それ以上の説明はなかった。


何が起こるのか。


何を待つべきなのか。


我々には分からなかった。


年月だけが過ぎていった。


正直に言えば、半信半疑になった時もあった。


だが……。


一年前。


リムラ村で起きた事件によって、すべてが変わった。


□◆□◇◆

~一年前~


ガデム村をはじめ、近隣の村々で奇妙な現象が起こっていた。


リムラ村に生息していた動物達が、突然村から逃げ出していったのだ。


普段は人を恐れない森の動物までもが、何かに怯えるように逃げていた。


「一体……何が起こっているのだ?」


人々は不安を感じていた。


「森全体が……怯えているようだ」


地震の前触れなのか。


それとも大きな災害の兆候なのか。


誰にも分からなかった。


しかし――


ガンメルだけは、胸騒ぎを感じていた。


「私の心が警告している……。


これは自然の異変ではない」


彼はかつて、スンツヴァル王都の戦士長を務めていた。


戦場で数多くの危機を経験してきた彼だからこそ分かった。


これは――


悪しき存在の動きだと。


ガンメルはヨーデルを呼び、妖精族の守護者であるルスタ、サラと共に対策を話し合った。


「今回の異変……」


ヨーデルは静かに口を開いた。


「預言者アブラハ様が、我々をこの地へ送った理由。


それは、この時のためだったのでしょうか?」


ガンメルは頷いた。


「その通りだ。


しかし……今回の出来事は始まりに過ぎない」


するとルスタが静かに語り始めた。


「以前、王都から盗まれた古典書。


そこには世界の終わりへ向かう兆候が記されていました」


「世界の終わり……」


ヨーデルは息を飲んだ。


「私は一度、その預言書を読んだことがあります」


ルスタは続けた。


「そして今……」


「預言書に書かれた出来事が、現実になろうとしているのです」


「やがてスンツヴァル王都をはじめ、


世界七つの大陸で悪の力が増大していくでしょう。


人々は混乱し、希望を失っていく……」


しかし――


ルスタの瞳には、強い光が宿っていた。


「ですが、絶望する必要はありません」


「聖典には、希望の存在が記されていました」


「希望の存在?」


ガンメルが尋ねる。


ルスタは静かに答えた。


「巫女様です」


「……!」


その場にいた全員が息を止めた。


「伝説の……救世主となる巫女様か?」


「はい」


ルスタは頷いた。


「巫女様は、人々を救うために現れる存在です」


「だからこそ……」


「魔王に仕える悪根の呪術者達は、巫女様の誕生を恐れているのです」


その時、ヨーデルが尋ねた。


「しかし……なぜリムラ村なのです?」


ルスタは静かに答えた。


「調査隊から報告がありました」


「スンツヴァル王都で悪行を重ねている貴族――」


「ハイド伯爵」


「彼が動き始めています」


「奴の配下であるジキルが、リムラ村で目撃されました」


ガンメルの表情が険しくなる。


「まさか……」


ルスタは頷いた。


「彼らの目的は――」


「リムラ村の廃村化計画です」


「廃村化……?」


ヨーデルは驚きを隠せなかった。


「なぜだ?


リムラ村の人々は善良な者ばかりだ。


悪に染まる理由などないはず……」


ルスタは静かに目を閉じた。


そして――


恐ろしい真実を告げる。


「彼らの目的は、村そのものではありません」


「狙いは……」


「ここから生まれるはずの――」


「最後の巫女様なのです」

第16話 後書き

「受け継がれる使命」


今回のお話では、リムラ村がただの舞台ではなく、2000年前から続く大きな運命を背負った場所であることが明らかになりました。


葵は偶然、巫女に選ばれたのではありません。


彼女がこれまで経験してきた苦しみ。


それでも憎しみに心を染めず、人を信じ続けた優しさ。


その全てが、神に選ばれる理由となったのです。


また、ヨーデル達5人が12年間待ち続けていた「使命」も、ついに動き始めました。


彼らは強大な力を持つ英雄ではありません。


しかし、人を守る心、信じる心、そして未来へ希望を託す心を持っています。


それこそが「使徒」と呼ばれる者に必要な力なのかもしれません。


そして今回、もう一つ大切な変化があります。


それはラックの成長です。


以前のラックは、自分に自信がなく、困っている人を見ても行動できない少年でした。


しかし葵との出会いによって、彼の中に少しずつ「守りたい」という強い心が芽生えています。


勇者とは、最初から強い者ではありません。


誰かを想う気持ちから、一歩を踏み出せる者。


その心こそが、勇者への第一歩なのだと思います。


次回――。


葵の秘密。


サラが感じ取った真実。


そして5人の使徒が決断する新たな使命。


物語は、いよいよ大きな運命の流れへ進んでいきます。

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