表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

第11話 勇気の心

「勇気の心」


大切な人を守りたい。


そう願っていても、現実には力の差や立場の違いによって、何もできないことがある。


葵を連れ去るダンを前に、ラックは初めて自分の弱さを思い知らされた。


悔しさ。


無力感。


そして、自分自身への怒り。


しかし、その苦しみの中でラックは気づき始める。


強さとは、相手を倒す力ではない。


誰かのために立ち上がる勇気なのだと――。


葵との出会いによって、少しずつ変わり始めた少年ラック。


その小さな心に灯った勇気の炎は、やがて大きな運命を動かしていく。


そしてリムラ村での新たな一日が始まる。

葵が父ダンに無理やり連れて行かれる。


突然の出来事に、ラックはただ立ち尽くすことしかできなかった。


目の前で少女が苦しんでいるのに――。


自分には何もできなかった。


大人の男性と、まだ14歳の少年。


その力の差を、ラックは痛いほど思い知らされた。


「くそっ……!」


ラックは拳を強く握りしめた。


(もし僕に、もっと力があったら……。)


(あんな威圧的な態度をするダンさんに、何か言えたはずなのに……。)


頭の中に父ヨーデルの姿が浮かぶ。


「父さんなら……。」


「父さんなら、何て言っただろう……。」


ラックは自分の無力さに打ちのめされた。


守りたいと思った少女を。


大切にしたいと思った人を。


目の前で助けることができなかった。


胸が張り裂けそうなほど悔しかった。


「僕は……男なんだ。」


ラックは震える声で呟いた。


「か弱くて、何も言えない女の子を守れなくて……。」


「それで何が男なんだ!」


「子供だから無理だなんて……。」


「そんなの、ただの言い訳じゃないか!」


確かに今の自分では、大人には敵わない。


力でも、経験でも。


でも――。


「たとえ勝てなくても……。」


「大切な人を守ろうとする気持ちは示せたはずだ。」


ラックは悔しさを胸に刻んだ。


しかし、このまま後悔しているだけでは何も変わらない。


「まだ……遅くない。」


「今からでもできることがある!」


「葵ちゃんを追いかけよう!」


ラックは決意した。


恐らくダンは、これからデムの実の運搬作業を始める。


ならば――。


「僕も葵ちゃんの力になるんだ!」


ラックは強い意志を胸に、走り出した。


人生には、逃げてはいけない瞬間がある。


自分の弱さと向き合い、


勇気を振り絞って立ち向かわなければならない時がある。


今回の出来事を通して、ラックは初めて理解した。


強さとは、力の大きさではない。


誰かを守りたいと願う心なのだと。


胸の奥に、小さな炎が灯る。


それは今までのラックにはなかったものだった。


「勇気」という名の、新しい力。


しかしラック自身はまだ気づいていなかった。


それが、葵という少女との出会いによって生まれたものだということを――。


■□■◆◇


ラックは葵達に追いつき、森林から戻ってきた。


するとヨーデルが声をかけた。


「ラック!」


「葵ちゃんの手伝いをしてあげなさい。」


「もちろんだよ!父さん!」


ラックは迷わず答えた。


今度こそ――。


自分にできることをする。


その思いでいっぱいだった。


ラックが手伝うことを、ダンは少し不満そうに見ていた。


しかし、ヨーデルという取引相手であり、村の有力者でもある人物の前では何も言えなかった。


渋々、了承する。


「葵ちゃん。」


「僕も手伝うよ!」


「ありがとう、ラック。」


葵は優しく微笑んだ。


その笑顔を見るだけで、ラックは嬉しかった。


二人は協力して、デムの実を運んだ。


重たい籠を持ち上げる。


ラックは何度もバランスを崩しそうになった。


それでも――。


「葵ちゃん!頑張ろう!」


「僕が手伝うから!」


必死に踏ん張った。


「うん!」


「ありがとうね、ラック!」


葵の笑顔が、ラックの力になった。


二時間ほどかけ、ようやく作業が終わった。


「よし!」


ヨーデルは満足そうに頷いた。


「ダン、約束の報酬だ。」


ヨーデルは銀貨3枚を手渡した。


そしてラックと葵には、それぞれ銅貨1枚を渡した。


「これで町に遊びに行っておいで。」


「いいだろ?ダン。」


「え……。」


ダンは一瞬戸惑った。


しかしヨーデルの言葉に逆らうことはできず、渋々頷いた。


「……分かりました。」


「葵。」


「夕方までには帰ってこい。」


「分かったな。」


「はい。」


「ありがとう、父さん。」


葵は少し戸惑いながらも、嬉しそうだった。


父が外出を許してくれたこと。


それだけでも、葵にとっては大きな喜びだった。


「疲れただろう?葵ちゃん。」


ヨーデルが優しく声をかける。


「いいえ。」


「大丈夫です、ヨーデルさん。」


「葵ちゃんは、ガデム村へ行ったことはあるかい?」


「いいえ……ありません。」


葵はこれまで、リムラ村からほとんど外へ出たことがなかった。


「じゃあ今日はラックが案内してあげるといい。」


「僕が?」


ラックは嬉しそうに笑った。


「うん!」


「葵ちゃん、僕が村を案内するよ!」


「とても美味しいランチが食べられる店があるんだ!」


(葵ちゃんに、少しでも栄養のあるものを食べてもらいたい。)


それがラックの本当の目的だった。


「いいでしょ?父さん。」


「ああ、もちろんだ。」


「えっ……。」


葵は申し訳なさそうな顔をする。


「そんな……悪いです。」


するとヨーデルは優しく言った。


「葵ちゃん。」


「人の好意は、素直に受け取っていいんだよ。」


「君は毎日、大人でも辛い仕事をしている。」


「働いた分には、それに見合った対価があるんだ。」


「君も、それを受け取る資格がある。」


「ちなみに、今回ダンに渡した報酬は銀貨3枚。」


「銅貨100枚が銀貨1枚と同じ価値だ。」


「大人が一日働いて得る報酬は、銅貨10枚ほどが相場だよ。」


葵は驚いた。


「では……。」


「私が1時間働いたら……銅貨1枚くらいですか?」


「そうだ。」


「葵ちゃんは賢いね。」


ヨーデルが褒める。


するとラックは、自分のことのように嬉しくなった。


「さぁ、着いたぞ。」


「ここがサラの店だ。」


「今日はワシがご馳走する。」


「ラックも葵ちゃんも、好きなものを頼んでいいぞ。」


店内は多くの客で賑わっていた。


そして――。


奥の部屋に、ちょうど一つだけ空いた席があった。


三人はそこへ案内される。


しかし、この穏やかな時間の裏で――。


葵の運命を大きく変える出来事が、静かに近づいていた。

「勇気とは、最初の一歩を踏み出すこと」


第11話では、ラックの心の成長を描きました。


これまでのラックは、優しく真面目な少年でした。


しかし同時に、


「人に嫌われたくない」


「失敗したくない」


という気持ちから、自分の行動に制限をかけていた部分もありました。


そんなラックが、葵という少女と出会ったことで変わり始めます。


誰かを助けたい。


誰かの笑顔を守りたい。


その想いが、ラック自身を強くしていくのです。


もちろん、すぐに大人のような力を持てるわけではありません。


ダンに立ち向かうこともできなかった。


それでもラックは逃げませんでした。


自分にできることを探し、もう一度葵のもとへ向かいました。


それこそが、本当の勇気なのだと思います。


また今回、ヨーデルが葵に伝えた「労働には正当な対価がある」という言葉には、物語上とても大きな意味があります。


葵はこれまで、自分が苦しい環境にいることを「当たり前」だと思っていました。


しかしラックやヨーデルとの関わりによって、少しずつ本当の優しさや、人として大切にされる意味を知っていきます。


そして訪れるガデム村での時間。


美味しい食事。


温かな人との交流。


それは葵にとって、失われていた「普通の少女としての時間」になるはずでした。


しかし――。


物語の奥では、まだリムラ村に隠された秘密が動き続けています。


ラックの勇気。


葵の過去。


そしてダンの心を覆う闇。


それぞれの想いが交わる時、物語はさらに大きな運命へ向かって進んでいきます。


第11話は、ラックが「守られる少年」から「誰かを守ろうとする少年」へ変わる、大切な一歩となる回でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ