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46話 水泳


 エニグマが他のパーティーメンバーに話をつけている間に、先にアズマと共に泳ぎの練習、水泳のスキルを習得するために湖で泳ぐ。

 もちろん軍服ワンピースでは重く水中では動きにくくなってしまうため、プライドを捨ててまで性能を取った水泳用の衣服を身につける。


 その衣服とは――



「――スクール水着だ!」



 黒いスクール水着。胸には「りん」と名前が書かれたゼッケンが貼られている。

 露出が少く、紐が外れて裸体を晒すような事がほぼ確実にないと言える水着。ダイビングスーツのちょっと露出が多い版とでも思えばいい。


「あー、似合うな」


 全然嬉しくないんだけど。


「いや違うぞ! あのー、あれだ。その…見た目が小学生だから似合うって意味でだな?」


「どっちにしても嬉しくないよ」


 精神が高校生男子なのに見た目が小学生女児と言われて喜ぶ人間はまず居ないだろう。僕とてそれは例外ではない。


「はぁ、性能を優先したのは間違いだったかなぁ…」


「裸で泳がれる方が困るんだけどな」


「下着は外せないらしいよ」


 そういう点で言えばビキニタイプの水着が外れたりするのもないかもしれないな。……いや、お腹を露出したくないしどっちにしてもこのスクール水着に落ち着くだろうけど。

 昨日アリスさんに頼んだ僕は水着があるが、アズマはさっき話したばっかりで水着を持ってない。下着で泳ぐと思ったが、初期装備の服に着替えた。


 服着てたら泳ぎにくくない? なんて雑談しながらアズマと準備体操をして、湖へ入る。


「ひょおわぁっ!?」


 水が思っていたより冷たくて変な声が出てしまったが、この冷たさなら少し慣れれば平気だろう。

 そのまま足の着く所で肩まで浸かり、水の中で動き回って体を温める。


「リン、凄いぞこれ! 水の中で目開けてても痛くない!」


 水温に慣れようと頑張っている僕を差し置いて、アズマは既に泳ぎ始めて気付いた事を教えてくれる。水の中で目を開けていても平気だとか、現実より泳ぐのが速いとか。

 まだ若干震えるが、大体慣れてきたので僕も泳ぐ。


「おぉ、確かに速く泳げる…」


 水中の移動にもAGIが適用されるのだろう。

 そうなると、息を止められる時間が限られた中でよりスピーディーに湖底遺跡を調査するためにはAGIが高い方が良い。レベルが高いから上がりにくいエニグマとアズマよりも、まだ9の僕の方がレベルが上がりやすいし、上がりにくくなる13までに貰えるステータスポイントを合わせて2人のどちらかよりAGIが高くなるならレベル上げに専念するのもいいかもしれない。


 しばらく泳いでみたが、現実よりも格段に疲れが少ない。ちょっとランニングした程度の疲れしかないので、まだまだ泳げそうだ。


「リン、どっちが長く潜ってられるか勝負しようぜ」


 足が届くか届かないかという所で泳いでいたのだが、それは今の僕にとってそうであるだけでアズマは余裕で立ってるし、何なら上半身はほとんど浸かってない。


「いいよ」


 アズマも潜るとなるとそれなりの深さが必要になるので、僕の足が完全に着かない所まで行って2人同時に潜水する。

 水の中で息が切れるまで暇なのでジャンケンしたり、アズマを蹴ってすいーっと泳いだりしていた。体感で数分経ち、先に息が持たなくなったのは僕だった。


「勝ったな」


 水面に上がって空気を吸い込み、息を整えているとアズマが寄ってくる。

 アズマはまだまだ余裕らしい。僕が女の子になってどこかが変化したから息を止めていられる時間が短くなったのか、水中移動にAGIが関係するように息を止めるのも何かステータスが関係してくるのか。

 アズマが数十分潜っているのを見るに可能性は後者の方がありそうだ。


《スキル:『水泳』を取得しました》


 潜ったり泳いだりしているとシステムメッセージが現れる。

 水泳スキルの詳細を開くと、魔術やタロット占いとは違いレベルがあり、今は『水中移動』『水中呼吸』というアビリティだけがある。これらアビリティは常に発動していて、水泳スキルのレベルと連動して水中での移動と息を止めるのに補正が掛かるというアビリティだ。


「説得してきたぞ」


 引き続き魚を追いかけてみたり、潜水してアズマの足を掴んで引っ張ってもらっているとエニグマが湖に入ってくる。

 結構時間がかかったが、ちゃんと話はしてきたらしい。


 エニグマが来るまでの間に水泳スキルを取得した事を話すと、エニグマから提案というか意見をもらう。


「水泳スキルもそうだが、泳ぎ方もあれだな。リンはクロールしかできないんだろ?」


「うむ」


 エニグマ曰く、クロールは水面付近を泳ぐような泳法だから完全な水中を泳ぐには向いてないとのこと。しかし僕はクロールしか泳ぎ方を知らないので2人に教えてもらうことにした。


「まあ簡単なので良いだろ。蹴伸びの腕で抵抗を減らせば割とどうにでもなる」


 湖底遺跡を調査するなら呼吸を長持ちさせる事を優先するべきだろうとの事で、息が持たなくなった時だけ呼吸のために水面に上がり、それ以外は水中で活動してみようということになった。

 水中では話せないため、ジェスチャーでそれとなく思っていることを伝えたりしてみる。あとは暇なのであっち向いてホイをやったり。


 エニグマは僕よりAGIが高く、泳ぐのが僕より速い。逆に、僕よりAGIが低いアズマより僕の方が泳ぐのが速い。やはり水中移動の速さはAGIが顕著に出るようだ。

 現実では水中に居ないため、苦しくても息を止めていられるのではないかとも考えたが、そうしたらかなりの速度でHPが減り始めた。流石にドMだけが有利になるようなシステムではないようだ。


 そして息が続く法則性だが、僕よりエニグマの方が長く息が続き、エニグマよりアズマが長い。呼吸で水面に上がった時にエニグマと話したら、恐らくVIT値が関係しているという仮説がエニグマの中で立っているらしい。

 確かに、この3人の中ではアズマが1番VITが高いし水着の装備ボーナスがあっても僕が1番低い。





 何時間も湖で泳いでいるが、ゲームだから体温の低下とか肌がふやけるとかもない。夜になると真っ暗になってしまうけど、水の中から星空を見るといつもの星空と違って面白かったりする。


「なんか潜れる時間長くなってきてる気がする」


 ご飯や休憩なんかでたまに水から離れる事がある。ゲーム的な処理で、水から出て3秒ほど経つと服が乾くが、毎回入り直すと冷たい水に慣れなきゃいけないから辛い。

 今はエニグマと共に休憩している。


「水泳スキルのレベルが上がらなくても熟練度みたいな判定があるんだろ」


 VITだけでなく水泳スキルの『水中呼吸』でも水中で息を止められる時間は引き延ばせるが、水泳スキルのレベルは2に上がってから変動していない。しかし水中に留まれる時間は着々と長くなってきている。

 そしてVITの高いアズマだが、1時間ほど前に下を指さすジェスチャーをして深く潜って行った。息を止められる最大限まで潜ってみよう、というのを3人でやった時にアズマは1時間を越えて潜っていたが、最大限というのは限界という事であり、その限界の時間が迫ってきている。


「アズマは無事かな」


 アズマを待っている間に、エニグマがトランプを使ったマジックを見せてくれるとの事なので付き合う。


「1つだけ覚えてくれ」


 束になっているトランプのカードがパラパラと捲られ、言われた通りに1枚だけ絵柄を覚える。今回のはスペードのエース。


「これだな?」


 覚えた事を伝えると、トランプの束から1枚引き抜き見せてくる。そのカードは僕が覚えたのと同じスペードのエース。


「合ってる! なんで?」


「タネ明かしするか?」


「うん」


「いいだろう。これはマジックと言えるかは分からない技術だが、まあ脳の仕様を使ったトリックだな」


 エニグマはトランプの束を捲る際に、意図的にある1枚だけ捲るのを遅くした。それが、僕が覚えたスペードのエース。あの速度で捲られる中、1つだけ他よりも長い時間見せられた事により、脳がその1枚を覚えたと勘違いする。

 つまり、僕が選んだスペードのエースは僕が選んだのではなくエニグマに覚えさせられたという事である、らしい。


「よくできたねそんなの」


「ちょっと練習すればできる」


 簡単に言っているが、意図的に1枚だけを長く見せるというのはかなり難しい筈だ。それを簡単そうに言うのは、才能なのか努力したのか…。エニグマの性格からして才能の方が有りそうだ。


「お、アズマ」


「出てきた?」


「帰ってきた、だな」


 湖を見るが、アズマは出てきてない。エニグマに文句を言おうとすると、エニグマの視線は湖ではなく森の方向へ向いている。その視線を追うと、森からこちらへプレートアーマーが歩いてくる。

 何時間かぶりに見た、アズマの鎧だ。湖からではなく、森から来たという事は…


「死んだ?」


「遺跡にすら入れなかったぞ」


 やはり、死んでから戻ってきたらしい。しかし遺跡に入れなかったというのは一体どういう事だろうか。


「何かギミックがあったか?」


「いや、遺跡の近くにめっちゃデカいウツボが居た。戦ったんだが硬くて。VITが高い分STRに割いてないから泥沼だった」


「んで、死んだのか」


「そこまで強くはないと思う。HPとVITが高いから泥沼になって溺死しただけだし」


 死因はウツボじゃないんだ。

 だがウツボがそこまで強くないのであれば、エニグマも同行すれば突破できるはずだ。

 しかし……肝心の遺跡の情報が一切ない。日記にもただ『遺跡である』という事しか書かれていなかったし、アズマも入れずに死んでしまった。そこはアドリブやトライ回数でカバーするしかないだろうか。


「とりあえずスキルのレベル上げ優先だな。息が続かん事には無理だ」


「だねー」


 こうして何日間か湖へ通い続け、スキルのレベルを上げるのだった。


感想にてある作品に要素が被っている、という指摘がありましたが書き始めた理由がその作品なので影響された部分は多いと思います。ですが大体趣味です。VRゲームにした理由もありますが説明が面倒なので気になるならTwitterでも見てください。「興味ないね。」って方は別に気にしなくて平気です。

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