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45話 「徒労」と「成功」


「アズマの準備が終わったらしいぞ」


 ババ抜きがすぐ終わってしまうという事で神経衰弱をエニグマと2人でやっていたら、アズマからフレンドメッセージが届く。エニグマの反応からして僕とエニグマの両方に送ったようだ。

 トランプを片付けて箱にしまい、泳げないうさ丸は店で留守番させてエニグマと2人で店を出る。アズマからのメッセージでは店の前にいるとの事だが、アズマの姿は見えない。


「さては早めに連絡したな?」


「いや、いるぞ」


 エニグマがニヤリと歯を見せながら横に立っている肌や布部分が一切見えないプレートアーマーといわれる鎧をコンコンと叩く。


「…アズマ?」


「正解!」


 くぐもったアズマの声が兜の中から聞こえてくる。初日に言っていたような鎧を手に入れたのか。マントは付いてないようだが。


「水の中入れるの?」


「流石に脱ぐぞ」


 そりゃそうか。


 2人と並んで歩き、迷宮都市サスティクでのダンジョン攻略について色々と話を聞きながら南西門から街を出て東へ向かう。


 エニグマとアズマ、それとアクアさんとエアリスさんの4人のパーティー、というのが僕が知っているパーティーだったが、あれから1人増えたらしい。前にエニグマが話していたヒーラー役かと思ったが遊撃担当で、ヒーラーはまだ確保できてないとか。

 パーティーを組む人数の上限が6人なので、あと1人は絶対ヒーラーを入れたいと言っていたが、いいヒーラーは見つかるだろうか。


 ダンジョンの攻略は順調とも言えるが制覇はできてないらしい。サスティクのダンジョンはかなり力が入っていて、まだ誰も攻略できてないし、そもそも何層まであるかも不明なんだとか。10の倍数の層がボスとの戦闘のみの階層で、ボスとボスの間の層はそれぞれテーマが違うらしい。

 テーマは坑道と森が確認されているが、20層より下の情報は出てないので誰も行ったことがないんだろうと言われている。

 キリが良い数字で言えば50層か100層くらいはありそう。



 そういった話をしているといつの間にか森に入っていた。


「オルァ!」


 森の中に入るともう見慣れた狼との戦闘が度々起こるが、初期の街付近で狼が低レベルかつエニグマとアズマが2つも先の街で活動してるだけあってレベルが高く、ステータスの差でぶん殴っているため、めちゃくちゃ楽だ。

 襲いかかってくる狼はアズマの盾で殴られそのまま倒される。兜で視界が制限されるアズマが気付かなかった狼なんかも、アズマが攻撃される前にエニグマが倒すためダメージはない。そして僕の出る幕もない。


「シールドバッシュばっかじゃなくてその腰に携えてる剣も使いなよ」


 先程から攻撃手段が盾で殴るだけなアズマに、思ったことをそのまま口にしてみる。


「いや、強い敵相手だと練習できなくて。こっちが最小限、相手に最大限に返す感覚を練習したいんだ」


「そうなんだ。それはごめん」


 不安定な技をぶっつけ本番でやるのは危ないからほぼ安全な今のうちに練習しておこう、という算段なんだろう。


「にしても、かなり進んだが湖なんて見えねぇぞ」


「そうだな」


 エニグマの口から零れた文句に便乗するようにアズマも同意し、2人してこちらを見てくる。

 そんなに見つめられても、僕だって前回は迷って辿り着いたんだからどれくらいで着くかなんて知らない。


「まあ、だろうな。とりあえずマップには山が見えるが」


 また狼を殴っているアズマを尻目に、エニグマがそんな事を言い出す。

 …マップ?


「マップなんてあるの?」


「冒険者ギルドで買えるぞ。知らなかったのか?」


 エニグマから渡された薄い水色っぽい透明な板。持ってみると、スマートフォンのような感じであたりの地形が映し出される。モリ森と書かれている緑の区域から東の方に「ベム山」と書かれた灰色の区域がある。

 拡大や縮小はできず、一定範囲しか表示できないっぽいが、表示されている範囲に湖らしきものはない。

 街に帰ったら買おう、そしたら迷子とはさよならだ。


「でも山なんて越えてないよ?」


 昨日迷って歩いていた時に山と言えるほどの斜面は通った記憶がない。迂回して進んだ可能性はあるが、山1つを迂回して通るほど歩いてもないと思う。


「1回帰るか」


 エニグマが戻ることを提案し、来た方向をそのまま逆に引き返す。1回通った道だからか、帰りは狼との戦闘が少なかった。





 ルグレまで帰ってきて、雑貨屋ぐれ〜ぷの店主さんの部屋で会議をする。今度はアズマは鎧を着たままだ。


「徒労だったな」


 兜越しに聞こえてくるくぐもったアズマの声。ため息混じりに出てきた言葉に固まる。

 徒労。先程、タロットカードで占ってみた時に出た結果と同じ。エニグマを見ると僕と同じようにに驚いた顔をしている。


「…どうした、2人とも」


「ああ、いや。何でもねぇ」


 まさか占いの才能でもあるのか、と考えているとエニグマからニアさんにもう一度聞いてみて欲しいと言われる。

 湖へ向かったがなかったという旨のメッセージをニアさんに送り、アズマの準備中にやっていた神経衰弱を今度は3人でやりながら返事を待つ。


「よし、見えるようになった」


 エニグマがアズマの見えない所でカードを捲るのでアズマは兜を外して神経衰弱を再開する。


「あ、返事来た」


 ニアさんからの返事を確認すると、大体東南東に行ったけど普通にあった、という物だった。

 おかしい。僕達も東南東へ向かったが、湖には着かなかった。山を越えたかどうかを聞いてみたが越えてないらしい。


「どういう事だ?」


 アズマが首を傾げるのにつられて僕も傾げる。僕達かニアさんが方角を間違えているとか? でも僕達はエニグマのマップでルグレから東の方へ向かっていたから間違ってない筈だし、ニアさんに聞いても南西門を出て左に行ったとの事なので、行った方向は間違ってない。


「何か条件がある、ってのが濃厚そうだな」


 アズマと2人で疑問符を浮かべている所で、エニグマがポツリと言う。


「「条件って?」」


「分かんねぇから何かって言ってんだろ。ヒュプノスとニアって奴、それとリンに共通して、俺達が加わると満たされない条件だ」


 なるほど。ヒュプノスさんとニアさんの共通点。


「レベルとか?」


 フレンド欄からレベルを確認しながら言ってみるが、ニアさんのレベルは16、ニアさんに聞いてみるとヒュプノスさんは2。


 ……2? 低くない?


「メタ読みだが、それはねぇだろ。レベル上限、しかも低レベルでしか見つけれられない上にレベルが低いと行くのも難しいしな」


「じゃあ特定のスキルを所持してるとか?」


「リン、持ってるスキルは?」


「錬金術、魔術、タロット占い」


「ねぇな」


 なさそうだ。ヒュプノスさんもニアさんも錬金術や魔術を取得してるとは思えない。しかもタロット占いは湖に行った時には持ってなかった。


「じゃあ何だろうな……?」


「それが分かりゃ苦労しないんだが」


 バジトラに行ったことがある? いや、エニグマもアズマも行っているから違う。

 レベルでもスキルでもない、なら称号? だが僕が持っている称号は1つだし、彼女達が同じものを持っているとは考えにくい。

 モリ森のクマの討伐してるかしてないか? これもエニグマやアズマは倒しているらしいし、僕も倒した。ヒュプノスさん達が倒してないとしても僕が行けたから違う。

 狼の討伐数? これも違う、一定以上倒していればヒュプノスさんのレベルはもう少し高いだろうし、エニグマとアズマは僕よりもっと多いから行けない筈がない。


「あ、女性限定とか?」


 これなら全員当てはまる。僕やヒュプノスさんが行けて、エニグマとアズマが居ると行けない。


「そんな女性向けの場所だったのか?」


「いや、ただの湖」


「なら薄いな」


 ありそうだと思ったが、そうでもないのね。


「マップの所持、ってのはどうだ?」


 エニグマが思いついた条件はマップの所持。確かに僕は持ってなかったけど…。

 試しにニアさんとヒュプノスさんに聞いてみると、2人とも持ってないらしい。そして僕も持っておらず、エニグマとアズマは持っていた。


「ありそうだな。マップに現れないからこそ行ける、みたいな」


「タロットで占ってみるか?」


「さっきのは偶然なんじゃないかなぁ」


 と言いつつタロットカードを取り出し、シャッフルして机の上に置き、『ランダムドロー』を発動する。

 カードの山から飛び出して僕の手元に来たのは正位置で顔がある太陽と馬に乗った子供のカード。名前は「THE SUN.」、和訳は太陽。正位置の意味は…


「成功」


「よし、行くか」


 最初に占ってみた結果の「徒労」というのが当たっていたからか、すっかり信じているようだ。占いってそんなポンポン当たる物なのか?


「リンって占いなんかやったっけ?」


「いや、さっき貰った」


 僕の占いを過信しているエニグマに対し、さっき居なかったアズマは状況を把握してなかった。

 これでこの占い結果が当たるようなら本当に才能があるかもしれない。










 現在時刻は9時36分。2人を呼び出した時はゲーム内では夜だったが、既に日が昇って昼だ。天候は晴れ、温度は暖かめ。

 アズマが盾で狼を殴り倒すのも見慣れた頃。進んでいると水に反射した光が木々の中からちらほら見えてきた。


「着いた!」


 昨日見た小屋もある。……それ以外目に見えてって特徴がないな。


「やっぱ才能あるだろ」


「いやぁ偶然が重なると荷が重い…」


 一応小屋を調べようという事になったが、昨日ヒュプノスさんが壊した入口の扉と開けっ放しだった地下室への床扉はそのままで、回収した日記や設計図なんかが復活している事もなかった。

 調べてる途中で鎧の重さでアズマが床に嵌り、仕方なく鎧を脱いでもらった。

 日記はエニグマが読みたいらしかったので、本になっているのと紙だけのを渡すと本に集中して動かなくなった。仕方なく地下室は僕とアズマで再調査した。

 昨日僕が興味なかった弓や斧、釣竿などはアズマが全て回収してしまったが、小屋の主は行方不明だし別にいいだろう。ここに来れる人も限られているだろうし。


「釣りもありだな」


「前に釣り堀行ったけどアズマ全然釣れてなかったよね」


「あれは餌が悪いんだ」


 僕とエニグマも同じ餌使ってましたけど。


 釣竿をブンブンと振っているアズマと話しながら階段を上がり小屋に戻ると、エニグマが日記をちょうど読み終わったようで紙から目を離して目が合う。


「どう?」


「これが筆者の妄想小説でなければ遺跡はあると考えていいな」


 つまり遺跡はある前提で話していいという事か。


「ただ、水泳のスキルオーブは聞いた事もねぇし日記の通りなら上達にも時間がかかる。一日が4倍早く終わると言っても4日だけじゃ満足に調査できるレベルにはならんだろうな」


「僕は別に良いよ」


「まあ俺もそうだが。アズマは?」


「異論なし」


「エアリスとアクア、エックスには謝っとくか」


 新しく入った人エックスって名前なんだ。

 ……また母音で始まる名前だね。そういう縛りでもしてるのかな。


ふふふ…エックス!

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