第5話 チビドラゴンを見つけたら、親ドラゴンもいると思え(教訓その1)
「【ハイヒーリング】【ハイヒーリング】…………生きてる」
うう、絶対死んだと思った。
実際、さっきの一撃で【ハイヒーリング】を習得できなかったら、そのまま死んでいただろう。
そして俺は、人間が意外と丈夫に出来ている事を理解した。
地獄だと思っていた今までの苦痛の、さらに上があったなんて。
「にゃふふふぅ、今の攻撃まで耐えるだなんてぇ~。じゃ、もう一発」
「ううわぁーん、もうやだ……帰りたい」
俺は恐怖に屈し、その場に崩れ落ちた。
いつの間にやら回復していた眼球が、次の一撃をじっと見つめていた。
俺は、避けなかった。
この一撃をくらえば楽になれる、そう思ったからだ。
俺は、目を閉じた。
痛みは無い、きっと俺は死んだんだろう。
俺は、目を開いた。
目の前には、黒焦げの彼女とドラゴンがいた。
「がおー(なにしとんじゃ、ぶっころすぞー)」
「お、可愛い、ペットにしたい」
ドラゴンは、とても小さかった。
彼女の、【オーラナックル】を受けて死んだ。
「な~んだ、ドラゴンって全然弱いじゃない、帰ろ帰ろ」
「ぎゃー、チビ太が死んだ!」
チビ太、君の事は多分一生忘れないよ。
うちのじいさんが、チビ太の魂を連れて行った。
「ううう、せめて一撫でしたかった」
俺は、チビ太を失った悲しみと、死なずに済んだ安心感で警戒心を失っていた。
洞窟から姿を現した、もう1体の竜に気が付かなかった。
「こふっ……」
「え、何?」
竜の存在を認識した時には、彼女は竜の一撃を受け地面にめり込んでいた。
「やべ! 逃げるぞ」
「ぎゃう!」
俺は、彼女を担いで走り出した。
骨折したのだろうか、揺らすたび彼女は痛みを訴えてきた。
回復してやりたいが、昨日から連発したせいでもうガス欠だ。
ドラゴンは、俺達より素早かった。
力が強かった。
空を、自由に飛び回った。
地形を利用することで、何とか逃げていられるがそれもいつまでもつだろうか。
おまけに、レーダーでもあるみたいに、こちらを正確に攻撃してくる。
「きっと、あのチビドラゴンはあいつの子供だったのよ。チビドラゴンの返り血を頼りに、こっちを狙ってるんだと思う」
「なあ、あんた、あのドラゴンをしとめる自信は?」
「このダメージだと、多分不意打ちじゃないと。でも、私は最優先で狙われてるし……」
俺達は、岩の隙間に身を潜めていた。
だが奴はすぐに火の息を放つだろう、ここにいられるのもあと数秒か。
「ねえ、君、私を置いて逃げて」
何を言い出すんだ、この女。
「分かるでしょう、勝ち目なんてないの、だったら犠牲は減らすべきでしょう」
あんたを捨てるなんて、出来るわけないだろう。
「いや、俺は逃げない」
「バッカじゃないの! あんた私より弱いのよ、もう囮役にだって――」
「勝てる勝負で、何で逃げなきゃなんないんだ?」
「!?」
「あんた次第だけどな、どうする? ここで死ぬか、それとも生きるか」
「……分かった、何をしたらいいの?」
よし、乗ってきた。
俺だけ逃げても、奴が追ってこない保証はない。
だったら、ここで倒しておくのがベストだろう。
作戦については、既に話した。
内容が内容だけにいい顔はされなかったが、生きるためだ我慢してくれ。
竜は、俺達に炎を放った。
それが、作戦開始の合図となった。




