第44話 女神様が見ている(間近で)
新章突入です。
辺り一面雪景色、魔族の転移術式を受けた俺は、クローリアから見知らぬ土地まで飛ばされてきたようだ。仲間はいない、アイテムも無い、おまけにスキルポイントは昼寝用で、【眠り攻撃】と【自動回復】にしか振ってない。
さらに追い討ちをかけるように、目の前が真っ白になるほどに吹雪いてきた。とっさに魔力を展開させ、壁を構築したことで、雪に埋もれずに済んだ。さっそく役に立ったな、ロイクさんの指導が。
でもこれはその場しのぎにしかならない、魔力が尽きたらその時点で終わりだ、何とか次の手を考えないと。結局何も思いつかないまま時間だけが経過し、シールドの周りに雪がくっついて、立派なかまくらができました、やったね!
「ぶぶぶ、よくやりました、シンク、りっぱぱぱな働きです」
「そりゃどうも女神様……て、えっ! 女神様!」
特製かまくらの中に、いつの間にか女神様がたたずんでいた、服の白さで今の今まで発見できてなかったらしい。
でもなぜだ? 女神様は天界にいるはず……そうか、俺がピンチになったから助けに来たのか。突然魔族に襲われて、こんな寒空の下に放り出されて、どうしようもなった俺を助けに天界から降りてきたんだ。
と、思っていた時期が俺にもありました。
この女神様、俺に試練を与えるために下界に降りてきたらしいが、なんやかんや手違いが起こって、俺達と同じように転移に巻き込まれて、偶然俺と同じ場所に飛ばされただけらしい。
「と、とにかく女神様、ここであったのも何かの縁、女神様の奇跡でこの状況を何とかしてくださいませ」
「……それは出来ません、クローリアでの労働で天力のほとんどを使い果たしてしまった今のわたくしでは、奇跡など起こせないのです。天力を補充しようにも、このような過酷な大地では満足のいく補充は望めないでしょう……」
天力というのは、神々が行使する奇跡の力の源らしい。体内で生成される魔力と違い、周囲の環境に大きく左右される代物で、人が住みよい土地では大量に、人にとって過酷な環境では微量にしか生成されないようだ。
「例え天力の回復が見込めたとしても、わたくしの様な、怠惰で! 身の程知らずで! 自分勝手な存在に! 人を救うなど出来るはずもありません!」
――パチコォォォン!
「女神様のバカ! ――アホ! ――間抜けぇー!」
「――――いやいや、あなた人を叩いて罵声を浴びせただけではありませんか! その後に何かいい感じのセリフを続けないと、あなたタダの屑野郎ですよ!」
んな事百も承知だよ、こっちだって! あんたがやる気になってくれないと、こっちは凍死間違いなしなんだぞ! いい感じのセリフを考える時間くらいよこしやがれ、たくっ!
「あんたの、労働に対する情熱はその程度だったのか!」 何言ってんだ俺?
「情……熱?」 反応あった、このまま続けてみよう。
「そうだ! あんたは奇跡の力を使い果たしちまうぐらい、働くのが好きだったんだろう! その情熱の炎は、赤の他人にとやかく言われたぐらいで消えちまうもんだったのか!」
女神様は焦点の合わない状態で、しばらく黙ったままになった。俺が心配に思い、女神様に声をかけようとした瞬間に、カチリッ、と女神様の中で何かがかみ合ったような、そんな気がした。
「わたくしはマーテル……労働と実りを司る神。そのわたくしが、人々の実りの為に動いて何がいけないというのでしょう。……ですが、実りを悪しき存在から守るのもまた、わたくしの務め。間違いは正さなくては、【悪しきよ去れ、豊かなる実りよきたれ】!」
【悪しきよ去れ、豊かなる実りよきたれ】の効果により、周囲の雪が一瞬にして消え去った。雪雲さえも姿を隠し、春の訪れを思わせる暖かな草原が新たに姿を現した。
「……すげえ、これが神の奇跡」
「シンク、わたくしはこれより、自らの過ちを正すためクローリアの大地に戻ります」
なんと! 女神様が俺に頭を下げてきやがった。
「ですが、今のわたくしには魔族はおろか、魔物を相手にする力も残っておりません。誠に勝手ではありますが、あなたの力をわたくしに貸していただけませんか?」
よっしゃ。よく分からないけど、やる気を取り戻してくれたようだ。
「ええ、勿論です女神様」
「ありがとうシンク。もう1つお願いがあります、わたくしの事はマーテルとお呼びください。過ちを正すまで、わたくしは女神としての自分を戒めたいのです」
「分かった、よろしくマーテル」
こうして俺達は、新たなる大地を歩み始めた。




