第43話 チュートリアル終了のお知らせ
「降参よ、こんな人数に囲まれたら、勝ち目なんてないもの」
「そっか、んじゃ遠慮なく」
マスターの姿が一瞬ぶれたかと思うと、魔族の両腕が地面に落ちた。そして次の瞬間には、両足が切り落とされ、魔族は地面に倒れた。
返り血すら浴びる事のない、マスターの圧倒的な勝利だった。
「とどめだ、首をはねて燃やしてやろう……」
「……さようなら」
うお! ほんとに容赦ねえ。
さようならスゥーさん、あなたと過ごした数日間は俺の中で大切な思い出となる事でしょう。あの世には、どうしようもない変態クソジジイがいるかもしれませんが大丈夫、そいつは俺に無理やりフグの肝を食わせた大罪人なので、どれだけ痛めつけても罰は当たらないでしょう。
「うごお、ォ、ォォ」
あれ、首を切り落としたはずなのに、何で断末魔が聞こえたんだろうか? しかも、さっきの断末魔、随分とおっさん臭い声だったような。
「下級魔族にしては良い働きだったぞ、スゥーよ」
「ヌシ様の、お役に立てたようで光栄です」
あまりにも一瞬の出来事で、状況を理解するのに時間が掛かった。
とどめを刺しに行ったマスターを何者かが気絶させて、そいつは魔族でスゥーさんの仲間で、おそらく上級魔族とかそんな感じの奴なんだろう。
さっきまでマスターが立っていた場所に、黒い服を身にまとったロイクさん級のイケメン魔族が立っていた。マスターが悪人ズラなせいで、魔族の方が攫われたヒロインを助けに来た正義のヒーローにしか見えない問題が発生中だ。
「くそ! 仲間が居やがったのか、どうやって探知をすり抜けた!」
騎士団の1人が、魔族に話しかけた。
「最新の魔族探知機封じの力を舐めるな、亀か、貴様らの技術力は?」
「目的はなんだ、カネか! 命か! 女か!」
「そんなものに興味はない! 我らが欲するは、この豊かで実りある大地のみ! 貴様ら人間を排除し、我らの楽園をここに築くのだ!」
魔族のイケメンがそう叫んだ瞬間、クローリア全体がまばゆい光に包まれ激しく揺れ始めた。民家は崩れ始め、異変を感じて外に逃げ出したもの、逃げ遅れて下敷きになったもの、転倒して体のあちこちを強打しているもの、もうひっちゃかめっちゃかだった。
「君達には感謝している、こんな下級魔族1人の為に城の警備を薄くしてくれて。おかげで、この大魔法の仕掛けを邪魔されずに済んだのだから」
「城……大魔法……はっ、転移術式! この国全体を、転移させるのが目的か!」
「ああ、ここの壁は我々の楽園には不要なものだからね」
わーお、城が砕けて宙を舞い始めた、あの速度だと範囲外に逃げるのは無理か。
「では、転移が完了するまで、吾輩は失礼する」
「ヌシ様、スゥーはこの通り身動きが取れません、どうか御助力を」
「おっと、そうだった【ギガヒー「させるか!」うおっと!」
気絶していたマスターが起き上がり、イケメン魔族を抑え込んだ。魔族は、マスターの両腕をへし折り逃げ出そうとしていたが、今度は足払いをくらい尻もちをついた。
「時間切れだな、自分の仕掛けた魔法で吹っ飛びやがれ!」
「この人間風情が――――」
そこからは、ただただ真っ白な空間が迫ってきた。乗り物酔いを100倍酷くしたような感覚に目を回しながら、真っ白な世界を突き抜けていった。
――――たどり着いたのは雪国だった。




