第33話 カンナとダンジョンと回復薬
「すー、すー」
綺麗な人だなー。
流れるような黒髪、透き通るような白い肌。どこかのお屋敷の、お嬢様とかだろうか? 服装は、黒と白の質素なものだが、ほつれ1つない清潔感あふれる格好だったため、俺はそう思った。
「……レーネ……どこ? お姉ちゃんはここよ……」
そう寝言をつぶやくと、彼女の細い腕が俺まで伸び、俺を胸元まで抱き寄せた。とてもやさしい感触がした、今まで出会ったどの女性とも全く違う感覚、例えるなら……母性の塊。俺は今、大きくて柔らかな母性の塊に包まれているんだ、物理的にも精神的にも。
夢かなこれ……夢なんだったら、もう目覚めなくていいかも……。
そして、新たな朝がやってきた。
「おはようシンク、元気そうで何よりだわ」
「おはようございます……カンナさん」
目を覚ますとカンナが俺の上に跨り、とろけるような笑みを浮かべていた。よし、りんごん、ミケル、今日の仕事は休みだ、俺は医者に行く予定ができたからな。
「シンク殿をどうするつもりでありますか!」
「ご主人、今助けるよ」
「寝ぼけて攻撃すんな! どこ狙っ、グボホォアァァァァァァ!!」
カンナの【オーラナックル】、ミケルのバトルハンマー、りんごんの体当たりを同時にくらった俺は、薄れゆく意識の中で【ギガヒール】を発動させ、事なきを得た。
俺も随分成長したな、昔は【オーラナックル】1発で風穴があいてたのに、それに匹敵する同時攻撃をくらって生きてるんだからな……。
「ふぁ~あ、おら? ここどこかしら?」
俺の叫び声で、昨夜の綺麗な人が目を覚ましたようだ。
俺は可能な限り、失礼のないよう姿勢と身だしなみを整えた。カンナも、同じことを考えていたらしい。もし彼女が貴族だった場合、彼女の声1つで俺達を打ち首にする事が出来る、失礼のないようにしないと。
「……人? 丁度良かったぁ、わたしはスゥー、東の都の方から妹を探しに来たの。ねえあなた達、クローリアって国はどこかしら?」
「ここがその、クローリアでございます」
「あら? 寝てる間に迷い込んだのね、たどり着けて良かったわぁ~」
スゥーさんは、普段とある貴族の屋敷で使用人をしている人らしい。今は休暇を利用して、昔失踪してしまった妹を探す旅をしているそうだ。話を聞いていると、スゥーさんの腹の虫がくぅ~くぅ~と鳴きだしたので、朝食をとるためにギルドに向かう事にした。
「ちょうど良かった、私もシンクとギルドに用があったのよ」
「なんかあったの?」
「ダンジョンよ! 北の大地にダンジョンが出現したのよ!」
カンナが、興奮した様子で説明してくれた。
この世界のダンジョンは、大きく分けて2種類ある。1つは、洞窟や古い建物に魔物が住み着いたパターン。そしてもう1つは、地面から突然生まれてくるパターンだ。
生まれてくるタイプのダンジョンは、放置しておくとどんどん成長して、やがて強靭で凶暴な魔物を生み出すようになるらしい。なので見つけ次第破壊してしまうのが鉄則らしい。
「あらぁ~、人探しの依頼をしようと思ってたのに、そんな場合じゃないみたい」
「なあカンナ、俺この人の妹探しを手伝ってあげようと思うんだけど」
「ダメよシンク! ギルドの一員なんだから協力しなさい!」
いつにも増して強気だ。確かにダンジョンは、将来的には人類を脅かす脅威になるのかもしれない。だが今の俺には、怪我人を助けるという使命があるんだ。何としてでも、そんな面倒ごと、いやいや、長期クエストは御免こうむりたい、何とかして辞退せねば。
「大丈夫だシンク、お前らひよっこに期待なんかしてねえさ。今回参加させるのは、ダンジョン攻略をそばで見せるためだ。後ろでボケェ~としてればすぐ終わっちまうよ」
「ダメよマスター! 手が付けられなくなる前に徹底的に破壊しましょう」
人間以外を相手に、カンナがあんなにも好戦的になるなんて。
「よ! 新入り、カンナの様子が気になるんだろ?」
「テニシラさん! 流石シーフ、気配がなかったですね……」
話しかけてきたのは、カンナと特に仲のいいギルド仲間、シーフのテニシラさんだった。
「カンナがガキだった頃にも、今みたいに突然ダンジョンが現れたんだよ。その頃はちょうど、流行り病が蔓延しててさ、対処が遅れたのさ。んで、成長したダンジョンの破壊にカンナの両親が参加して、死んじまったってわけさ」
「じゃあカンナは、同じような犠牲者を出さないために必死に……」
誰かがこんな事を言っていた、失敗は悪ではない、失敗から学ばぬことこそが悪だと。分かったよカンナ、俺にどこまでやれるか分からないが協力させてくれ。
「ミケル、ポーションと毒消し、とにかく回復薬を集めろ」
「了解であります!」
「りんごん、荷物を乗せてかなり歩いてもらうぞ」
「乗せるだけ? 馬車を引いてもいいよ」
「スゥーさん、妹探しがんばってください」
「ええ、ここまで来たんだもの、きっと見つけてみせるわ」
ああ、ダンジョン攻略に参加だなんて、俺のスタイルじゃないんだがなー。ま、参加するからには最後までやらせてもらいますか!
「行くぞお前達!」
「「お~」」
こうして俺達による初のダンジョン攻略作戦、『町の冒険者を片っ端から治して、ダンジョンを確実に攻略してもらおう作戦』が開始した。




