第32話 小銭の山を数える毎日
「おお、腰が治ったぞい!」「首を回しても痛くねえ!」「娘の傷跡を、消してくれてありがとう」「なあ、痔が再発したんだが治せるか?」
俺の店は、大繁盛だった。
開店からたったの5日で、予約を希望する客が大勢現れたほどだ。ただし、今のところ予約を取る予定はない、俺の事情が変われば店をたたまなければいけないからだ。客が大勢来ることは予測していたので、治療を受けられなかった人には、ギルド飯の割引券を配る事にしている。
マスターの料理には食べると様々な加護を与える力があり、その中には痛みの軽減や体力の向上などがあるため、症状の軽い人ならそれで治ってしまう人もいたらしい。マスターの方も、予想以上の宣伝効果に大喜びのようだ。
「午前の部は終了です、午後の時間にどうぞ」
「ああ! あの爺さんは治せて、俺の怪我は治せねえってのか!」
「騒ぐなであります! 叩き出してやるであります!」
俺の魔力が有限である以上、治療を受けられない人が出て、そいつが気象の荒い人物である場合もあるだろう。そんな輩には、助手ミケルのバトルハンマーと、りんごんの後ろ蹴りが炸裂する事になる。今のところ、そんな大事には2回しかなっていないが、これからもっと増えてくるだろう。
「おじちゃん、魔法の牛乳ください」「ぼくも」「あたしも」「わしも1杯貰えんかの~」
「ミケル、りんごん、ミルク4つ準備」
4人とも、コップに注がれたミルクを美味しそうに飲みほした。
どうやら、俺が魔法を使う前後にミルクを口にしていたせいで、あれに何か凄い効果があるとみんな勘違いしているようなのだ。もっとも、そう勘違いさせるために口にしているんだけどな。仮にカンナやマスターに、魔法の急激な上達について問いただされても、このミルクのせいかも? と言い訳できるしな。
「ねえご主人、他の人に影響がなかったらバレるんじゃないの」
「料理や食材の加護は、個人差が大きい。それと怪しい連中に命を狙われる事態になった場合、俺よりお前が狙われる方が安全だしな」
「そっか復活できるもんね! じゃあボク、今度からもっと目立つよ」
そんなこんなで本日の営業も無事終了、明日に備えて寝床に戻ろう。
「少し、お話よろしいでしょうか?」
「はい、何で――――」
やってきたのは教会の人間、つまり俺達の商売敵……いやいや、ただの同業者だ。彼らは小難しい事を長々と話し、俺がうなずいたのを確認し帰っていった。
彼らの言葉を要約すると、今の規模なら見逃すが、うちの儲けを奪うなよ小童が、である。誰があんたらみたいな、天才魔術集団を敵に回すかっての。俺達は細々と、小銭を稼がせてもらいますよ。
「一般人をメインにしたのは、やっぱり正解だったな。貴族や商人からカネをとってたら、教会と全面戦争だったか知れない」
「な!? 教会って悪い所だったでありますか?」
「落ち着け、ミケル。カネが絡むと、いろんなもめ事が起こるもんなんだ。むしろ彼らは、そのもめ事を回避するアドバイスを俺達にくれたんだよ」
しかし、まあ心臓に悪い。なにせあっちが止めろと要求してきたら、こちらは呑むしかない。それほどに圧倒的な差が、両者の間にはあるんだから。
「今度こそ寝よう、明日も忙しくなりそうだ」
「はいであります!」
「おやすみご主人」
……りんごん、寝相悪いぞ。
あれ? りんごんって、こんなにふさふさだったか? ああミケルか、反対側まで回り込むなんて、どんだけ寝相悪いんだよ。……ミケル、着やせするタイプだったんだな。見た目子供なのに、随分と立派なものをお持ちのようで――――。
「すー、すー」
「誰? この女の人」
俺が目を覚ますと、見知らぬ女性が横で寝息を立てていた。




