第31話 自分はミケル、鍛冶屋ミドラの娘であります!
「ここがシンク殿のお住まい! ……牛小屋のようであります」
「宿代がもったいなくてな、でも結構寝心地いいぜ」
ギルドに現れた小柄な少女は、西地区にある鍛冶屋の娘らしい。そんな彼女は、俺に恩返しをするために尋ねてきたようだ。
なんでも彼女の父が、この前のまとめ買い騒動で武器を大量に作らされ、ついには倒れてしまったそうだ。その直後、ぱたりと注文が減った事を不思議に思い調べたところ、俺がまとめ買いをやめるように広めている、という噂を耳にしたらしい。
まさか、エルルさんにしたアドバイスが、彼女の父親を救う事になるだなんて思いもしなかった。ともかく、俺の手伝いがしたいならさせてやろう、明日からきっと忙しくなるしな。
「うお! 牛であります。さっそく牛糞の片付けをするであります」
「こいつは、マジカルカウだから、そういうのはしなくていいんだ」
「なんと、ホルスタインなのにでありますか! ジャージーならその辺で見かけるでありますが、ホルスタインのマジカルカウなんて初めてであります!」
りんごんの説明はいろいろ面倒くさいからな、魔法の牛の珍しいバージョンって設定にしとけば、まあなんとかなるだろう。
「はっ! 自己紹介がまだでありました! 自分はミケル、鍛冶屋ミドレの娘であります。将来の夢は、父上の物より優れた武器を作る事であります!」
「俺はシンク、趣味はゴロゴロする事、特技は土下座そして不意打ちだ!」
「ボクはりんごん、将来の夢はご主人のお嫁さん」
なんか気味の悪い告白が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
そんなことより作戦会議だ、作戦会議!
「実は俺、今度回復屋を始めようと思ってる、それをミケルに手伝ってほしい」
「お安い御用であります、で、自分は何を?」
「じゃあ、ちょっと口を大きく開いてくれ」
お、虫歯発見! ほい、【ヒール】……もういっちょ!
「うう、これで普通に水が飲めるでありますぅー」
「【ハイヒーリング】3回と【ヒール】1回で限界か……」
ついこの間まで、日に2回しか【ヒール】が使えなかった事を考えると大きく進歩だな。しかも、魔力の回復も早めてあるから、まだ撃てる可能性がある。魔力の回復を早めるか、スキルコストを下げるか、どちらがより有効かは、これから微調整していかないとな。
それともう1つ、ミケルの協力で、戦闘以外の傷でも回復できることが確定した。これなら、冒険者を相手にするよりも、腰痛や頭痛に悩む一般人を相手にした方がいいかもしれない。
そこそこな値段で冒険者を狙うか、手ごろな値段で一般人を狙うか……後回しだな、人が来ないかもしれないのにそこばっか悩んでも仕方がない。
「よし、ミケル次だ。読み書きは出来るか? カネの計算は? 戦闘については?—―――」
「全部できるであります!!」
くくく、ミケルは優秀なようだなぁ。




