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「俺らが向かった場所はひょっとして……親父がいる家だったのか…?」
母親は顔を両手で覆いながら何度も頷き、歯を食い縛りながら話を続ける。
「未央は…未央はね、俊介が産まれた日に母ちゃんへプレゼントをくれたの。
『可愛い弟を産んでくれてありがとう』ってこの手帳に自分で見つけた四ツ葉のクローバーを挟んで。
私は…この手帳を…こんな大切なものを…」
カバーが外された薄い手帳の空白のページには茶色く干からびてはいるがきれいな四ツ葉を広げたクローバーがテープで丁寧に貼り付けられていた。
「アンタ達がいなくなった事に気が付いた私はすぐあの家に向かったわ…
でも、あの家はまるで……地獄のような…」
「母ちゃん!もういいよ!もういい…よく、わかった。ありがとう…。」
ズキン…ズキン…ズキン…
あの赤い夢は、俺の幼い頃の記憶…
あの狂暴な男は、俺の…
母親が忘れた手帳を取りに家へ戻った姉貴は親父に見つかりその後、暴行を受けて……
「母ちゃんがもっと、もっとしっかりしていれば!
もっと未央を気に掛けていたら!!
守れなかったの…ごめんなさい…ごめん……」
俺は肩を震わせて泣く母親の体をさすりながら明日への覚悟を改めて固めた。
久しぶりの我が家へ帰る覚悟を…




