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第十話   この扱い辛い隣人を焚き付けるなら?

 再び柾さんの話です、と言うか暫く王さま方は出てきません。

 前回のあらすじ、なんか開いたらしいです。いや、それ以外なんと表現したら良いのか。周囲の風景はたいして変わった様子は無いが、遠くの方に山や森が見えるようになっている。恐らくこれが「開いた」と言う事なのだろう。


 いきなりの事で驚きはしたが、これでようやく現地の住民と交流が持てる、文字通り閉鎖的だった環境にも変化が訪れる事は間違いないだろう。もしかしたら明日にでも人間が訪問してくるかもしれない、色々あったがようやくこの生活にも希望が見えてきたな。






 そんなふうに考えていた時期が私にもありました。






「……なんか、現地の生物が大量に押しかけて来とるのですが」





 あの解放宣言から一夜明け、私の家、正確には隠れ家柳の正面で、見た事も無い獰猛な生物達が殺り合っているのだ。


 赤黒い体毛をした狼とか、異様に腕が長いゴリラとか、拳大のデカさをした蜂の群れとか。この数は突然変異種ってレベルじゃない、明らかに此処の生態系がおかしいのだろう。



 どうやら我が家の水場に興味を示したらしく、その多種多様な珍生物達が私の家の前で縄張り争いしてるのです。一応の家主として所有権を主張するべきなのだろうが、話が通じそうにないので現在は静観している。と言うか怖くて出れるか!こんな畜生道どうぶつおうこく!!





「……こんな訪問者、お呼びでないっつの」




 

 と言う訳で、状況が状況だけに叫ぶ事も出来ず隠れ家柳あんぜんちたいに朝から引き籠もっているのだ。いや、この場合は寧ろ立て籠もりか?まあどうでも良いか。



 とりあえず、今後の為にもアレらがどういう生物なのかは確認しておこう。





「周辺生物の詳細を表示」







≪ レッドウルフ  (生物/猛獣) コスト:0    ≫

 ・詳細:血の様に赤い毛並を持つ凶暴な狼、十数匹位の群れで行動する。

 ・効力:追跡(Lv.5)/集団行動(Lv.3)

 ・生産:エネルギー還元 0 



≪ジャイアントハング(生物/猛獣) コスト:0    ≫

 ・詳細:長い腕と巨体を駆使して暴れまわる大猿、縄張り意識が強く攻撃的。

 ・効力:威嚇(Lv.5)/怪力(Lv.7)

 ・生産:エネルギー還元 0 



≪ ゲリラワプス  (生物/害蟲) コスト:0    ≫

 ・詳細:静かな羽音で近寄る大型蜂、常に群れで行動し百体近くで動く事も。

 ・効力:奇襲(Lv.2)/集団行動(Lv.5)

 ・生産:エネルギー還元 0 







 ……凶暴とか攻撃的とか、何で見たく無い単語がこうも並んでいるのだろうか。これ、どっちが勝っても私は外出れなくなるんじゃないのか。しかも先ほど調べたのは周囲の生物のみ、これから更に数が増える可能性もあるし、やはりそれらも凶暴な生物なのはほぼ確実だろう。



 こんなことなら開けるのでは無かった、開けるにしても最大限の注意は払うべきだったのだ。もしかしてここに送り込んだ人物も、こういった事態を避ける為にここの開放を任意としていたのかも知れないな。……その優しさを説明書にもつぎ込んでくれていれば、ここまでの苦労はしていないのだが。



 しかしこの戦闘、いつまで続くんですかね?あんまり長いと地面が真っ赤に染まりそうで怖いんですけど。






「おんじんさんおんじんさん」





 このあらゆる意味で殺風景な外を眺めていた所に、足元から癒し系ボイスが聞こえてくる。毎度おなじみ、僕らの妖精さんである。





「ん?どうしたの?」


「おきゃくさんがきてます」





 ……客ですと?この辺にいるのは猛獣くらいしかいないと思うのだが……?まさか奴らを招き入れるわけでは無かろうな?





「えっと、お客さんて言うのは誰の事?」


「はい、みーさんです」





 水妖精?ずっと姿すら見せなかったのに、なんで今になってここに来る?奴らが来たからか?しかし水の中なら被害は無い様な気がするのだが。


 まぁ会いたいと言ってくれるのは正直うれしい、水妖精とは出会ってから全く交流が無いのだ。ここで繋がりを持つ事ができれば、助力とまでは行かずとも後に人生相談くらい受けてくれれば御の字というものだ。



 だがこの状況下で柳の中に入られるのは、ちょっと不味くないだろうか。





「それは構わないけど、いま外はアレだよ?危なくないかな?」


「だいじょうぶです、したからきますから」





 ……あれ、嫌な予感しかしない?



 その内容を妖精さんに確認するより速く、足元が軋み始めた。そして豪快な音と同時に、地面の一部が弾け飛んだ。……あとで掃除しなければ。





「おじゃま、し、ます」 





 そこにあったのは小さな水柱、その上にちょこんと小さな女の子が座っていた。



 本日のお客さん、水妖精のミーさんである。





「……いらっしやいませ」





 床に築かれた噴水を見ながら、半分苦笑いで出迎える。落ち着け、私、この中に水路を引きたいと言っていたではないか。どんな形であれそれが叶ったのだ、だから笑顔で対応しろ。




 

「それで、どんな用事なのかな?」


「…………」





 しゃべらねぇ。


 どうしようこの沈黙、下手に問い詰めるとミーさん怖がらせそうだし、とは言ってもこのままだと何も好転しそうにない。


 ここは同族の御方に通訳を担ってもらおうか。





「妖精さん、ミーさんの用事って聞いてる?」


「はい、おんじんさんにあいたかったそうです」





 いやいや、私が聞きたいのは会いたがっていた理由についてなんですけど。まあ妖精さんも詳しく知らないという事なのだろう、この妖精さんが会いたがる理由をわざわざ質問するとも思えないし。


 どうしたものかと悩んでいると、ひんやりとした何かが私の手を掴んだ。ビクリと大げさに反応しながら掴まれた手を確認すると、そこには青い女の子、ミーさんが両手を伸ばしていた。そして不安げな表情をしながら、か細い声で呟いた。





「だして、ください」





 えっと、恐喝?いやいや違うだろう。私にゲーム機で何かを呼び出してくれと言う事か?……まあコストを喰わない物なら構わんが。そう思い、ゲーム機を手にしながら質問を続ける。





「私が出せそうな物なら良いけど、何が欲しいのかな?」 


「…………」





 また無言かい。



 なんとも対応が難しい子だな。私の手を離さないあたり、伝えようとする意志はしっかり有るのだろう。だがそれをササッと伝える事が出来ない、もしかしてどう伝えれば良いのか思考が定まっていないのかもしれない。よほどの口下手なのか、それとも恥ずかしがり屋なのかは解らないが、真意を聞き出すには相応の時間が必要になりそうだ。


 そんな思考に行きついた数秒後、ミーさんの手を握る力が強くなる。ようやく決心が付いたか、顔を見据えこれから来るだろう発言に備える。





「ちょっと、きて、ください」


「??……来てど、っ!!?」

 




 何処に、と確認する前に、私は強い力で引きずり込まれる。突如全身が濡れ、口内に水が浸入する。何がどうなっているのか全く分からぬまま、私の身体は水中に呑まれた。











「っつ、ガハッゲフッ」





 数十秒後、やっと周囲に酸素が戻った。どうしてこうなったかを知りたいところだが、身体は排水と酸素を要求する。全く思考が定まらない中、オドオドとした声が掛けられる。





「だい、じょう、ぶ?」





 その声の主は先ほどから今現在も私の手を掴んでいる人物、ミーさんである。大丈夫かと聞かれたが、この状況は十中八九この子の仕業だろう。どうやら先ほど開いた穴に、無理やり引きずり込まれた様だ。





「…………まぁ死んではいないね」





 なるべく穏便に済ませたい所だが、流石の仕打ちに敵意を隠す事が出来ない。多少睨みつけながら皮肉を言う位は許されるだろう。





「……よかっ、た」





 と私の発言に、心底安心したかのような笑顔を見せた。あれ、なんだろうこの反応、まるで私が汚れているかのようだ。


 と、とりあえず周囲の確認をしてみようか。



 気を落ち着かせて状況を確認する。周りは暗く、光は幽かにしか差し込んでいない。その代わりに叩きつけるような激しい水音が響く、その響きからかなりのスペースがあると感じる。地面に手を伸ばし地盤を確認する、硬くざらざらとしているが、中には全く材質が違う堅さの物体もあった。この質感は触れた事がある、召喚して以来、いつも座っていた木の根がこんな肌触りだった。以上の事から、推察するとすれば……

  




「もしかして、魔壊樹の真下か?」





 恐らく間違いないだろう、デカイ根が生えている時点で確定的だ。周りで聞こえている水音は上の川から流れ落ちてきた結果、滝の様になったのだろう。


 だが、樹の下に空洞ができているのはおかしくないか?水妖精がわざわざここまでのスペースを作る理由が無いし、樹が生えた影響でこうなったとは考え辛い。


 そこでふと思い出した、あのゲーム機、第一階層がどうとか言っていなかったか?もしかしてここは……





「ここ、わたし、の、いえ、です」





 思考に没頭している中、今まで質問してもだんまりだった水妖精が自ら語り始めた。自分の家か、もしかしたら自らのホームだけあって落ち着いて行動できるのかも。とりあえず悩むのは後だ、さっさと要件を聞き出して家に帰して貰うとしよう。



 と行きたい事だが、こう暗くては話し合いどころの状態では無い。なんとか照明くらい用意でき無いだろうか。



 そう考えた瞬間に思い出す、今ゲーム機は何処にある?



 大急ぎで周囲を確認するが、心配は杞憂に終わる。生命線であるゲーム機は掴まれていない方の手に収まっていた、流されながらもずっと私が握りしめていたようだ。


 壊れてないかの確認を兼ねて、照明器具を検索する。そして丁度好さそうな物があったのでそのまま召喚することにした。




≪  明光花   (生物/植物) コスト:40    ≫

 ・詳細:暗がりで発光する花、暗い場所を好み光の中では生きられない。

 ・効力:発光

 ・生産:エネルギー還元 10 




 うん、何処にも問題はなさそうだ。防水加工まで付いているとは流石の高性能ぶりだ。照明も生やした事だし、この子の話を聞く事にしよう。





「それで、今度こそ教えてくれるんだよね」


「はい、こっち、です」





 そう言って、私の手を取りながら移動を開始した。また水の中とかでは無いだろうなと警戒するが、未だ掴まれているので逃げられもしない。とりあえず帰り道が解るよう明光花を適度に生やしながら後に続く。



 いくらか進んだ後、水妖精の動きが止まった。と言う事はここに何かあるのだろう、私は少し多めに証明を展開する。真っ暗だった世界に光が灯る、そして水妖精が見せたかった物も鮮明に写し出された。








 そしてソレを見て驚愕する。







 「このこ、たすけ、て」






 それは、私が待ち焦がれて止まなかった、待望の遭遇であった。






 「人間!!?」





 やぁぁぁぁぁっと人間が出てきた!!次回、人命救助します。

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