第十一話 この患者に良く効く薬を付けるなら?
自分で考えているより駆け足で進んでいる気がするのですが、話のペース落とした方がよいのでしょうか?
前回のあらすじ、水妖精に誘拐され魔壊樹の地下に降り立った私は、ようやく人間と遭遇する事が出来た。だが喜んでもいられない、なぜなら水妖精は言っていたのだ、「この子を助けて」と。
その場に倒れているのは人間の女性、ファンタジー色の強い不可思議な衣服を身につけているが、それ以上に目立つものが彼女の身体には存在した。それは胸より下に広がっている真っ赤な染、微妙に黒ずんでおり微かに鉄分の臭いがすることから確信する、彼女の血だ。
それに気付き急いで女性の傍へ駆け寄る、状態を確認すると腹部に相当深く切り裂かれた痕があり、それは素人が見ても致命傷だと解る。だが口に手を当てると微かに呼吸しているのを感じ取れた、弱々しいがまだ確実に生きているのだ。
これを助けろとは、難題を押し付けられたな。
だが見捨てる気など毛頭ない、そんな後味が悪くなる様な事、私は嫌だ。
とは言え私に医療の知識なんぞ無い、妖精さん達なら回復魔法的な何かが使えるかもしれないが、それなら私に頼みに来る必要は無いだろう。
だが逆に、私なら助けられると言う事だろうか。少なくとも水妖精にはそう思われている、だからこそ私はここまで引っ張られてきたのだ。
……とは言え私一人では出来る事に限界がある、今は一人でも人員が必要だ。
「ミーさん、上に戻って妖精さん連れてきて、大至急!」
「あ、は、はい」
水妖精はこちらの言葉を受けて直ぐに走りだす、どうやら滝の方に向かっているようだ。もしや私もあそこから出てきたのではなかろうか。
そしてそのまま水の中に飛び込むと、突如凄まじい水飛沫が上がり滝を高速で昇り始めた。まるで水の流れが逆流したかのような勢いだ、水飛沫は数秒もせずに滝を越えて見えなくなった。
……さて、私も出来る事をしよう。まずは状態を更に詳しく把握する。
腹部の傷は四つ、平行に並んでいることから動物の爪痕だろう。見た感じかなり深く入り込んでいるので内臓も無事ではないだろう。包帯撒いて終わりとは行かなそうだ。
不可解なのが傷の割に出血が少ないことだ、流れ尽したなら既に呼吸は止まっているだろうし、もしや水妖精が何かしたのか?
そう言えばこの人、身体が全く濡れていない。周囲に日の光が無いことからも、川に潜らないと到達出来ないのは間違いない。やはり水妖精が延命処置のため色々手を尽くしているようだ、濡れて無いのも体温を下げない為の配慮だろう。
ならこの状態で私に望まれている事は何か、候補は傷の治療と体力の回復、それに療養所の提供と言ったところだろうか。いや、むしろそれら全てか。
「“怪我・治療” “体力・回復” “療養・環境”で一斉検索!」
そして検索を開始する。このゲーム機が今まで出した物を考えると、傷薬等は期待できないだろう。だが効力の高い薬草なら引っかかるかもしれない、その項目が出る事を祈りゲーム機の反応を待つ。
そして稼働音が鳴り止み、検索の結果が表示される。今回はそれぞれに数件のヒットが確認できた。
しかしそれはそれで問題だ、数が多いと私ではどれが最適なのかが解らない。安過ぎれば効果が無いかもしれないし、下手に高い物を呼び出しても使いこなせなければ意味が無い。
だがそんな事は百も承知、その為に助っ人を読んでもらっているのだ。項目を確認している最中、滝から再び水飛沫が上がる、どうやら戻ってきたようだ。
「つれて、きまし、た」
到着した水妖精の手にはグロッキーな妖精さん……と土妖精がいた。ああ、確かに両方とも妖精さんだったか。どうやら私と同じような目にあったらしく、二人とも目を回し項垂れていた。
「えっと、妖精さ……木妖精さんを起こしてくれる?」
そう言うと水妖精は直ぐ行動に移った。おもむろに妖精さんの頭を掴み、何を考えたのか近くの水場にソレを突っ込んだ。まさかその方法で起こす気なのか。
「きーさん、おきて」
「あうあうあう」
あぁ、妖精のもがき苦しむ音がする。頼んだ私のセリフでは無いが、もうやめたげて。少し経った後、水に浸かっていた妖精さんを私に向けて確認してくる。
「おきまし、た?」
「……うん、これ以上は永眠しちゃうから、やめとこうね」
このまま続くと妖精さんの命が危険なので制止をかける、水妖精は言葉を聞きいれたようで妖精さんを私に引き渡した、患者が増えないで何よりだ。……しかし水の妖精ってもっと爽やかなイメージがあったんだけど、皆こんなに豪快なのだろうか。
「お~い、妖精さん?生きてる?」
「……ありがとうです、おんじんさんはおんじんさんです」
多少錯乱しているようだがまぁ大丈夫だろう。とりあえず出てきた項目の中で、傷の治療に効果的な代物を教えてもらおう。
「妖精さん、酷い切り傷を治すのに効果的な薬草ってないかな?」
「う~、けがのくすりなら~せいさんとか~まこさんが~よいですよ~」
疲れた表情をしながらも、こちらの質問に答える妖精さん。本当にありがたい、ありがたいがセイさんとマコさんって何ですかね?相変わらずのセンスに解読が困難極まる。
とりあえず、今までの経緯を鑑みるに頭文字から取っている可能性が高いだろう、なので“セ”と“マ”から始まる項目を探してみる。すると、それらしいものが三件見つかった。時間もあまり無いので、それらを一斉に召喚する。
≪ 魔草 (自然/植物) コスト:80 ≫
・詳細:様々な薬の材料に使う薬草、煎じなくても効果は有るがとても苦い。
・効力:体力回復(小)/魔力回復(小)
・生産:エネルギー還元 20
≪ 魔界茸 (自然/植物) コスト:180 ≫
・詳細:妖しいキノコ、食べると魔術使用不可と引き換えに徐々に体力が回復。
・効力:体力自動回復(小)/魔術封印(Lv.3)
・生産:エネルギー還元 45
≪ 聖者の果樹 (自然/植物) コスト:500 ≫
・詳細:その実は命を救うと伝わる神木、特殊な環境下でのみ育つ希少種。
・効力:食材採取/採取制限(Lv.4)
・生産:エネルギー還元 125
内容を一通り確認したが、どちらも特に問題無く使えそうだ。しかし、聖者の果樹は失敗だったな。特殊な環境がどういう場所かは知らないが、ここは明らかに相性が悪そうだ。心なしか、妖精さんも樹を見て何だか微妙な顔をしている。
ここで無意味に朽ちらせるより、後ほど“生産”で取り除いた方が良いか。とりあえず妖精さんに採取を頼み、私はキノコと薬草を何とかしよう。
どちらも食す事で効果を発揮するのは良いが、気絶しているから固形物を食べさせるのは無理、細かく砕いて無理やり流し込むしか無いだろうな。砕くのは石等を出せば可能にしても、それを受ける器が欲しい所だ。
「そういえば、陶器系を作れそうな人物に心当たりがあるが……」
そう言って振り向いた私の眼の先には絶賛休憩中の御仁、働きたくないでござるを地で行くファッキンニート、土妖精が転がっていた。コイツが働いてくれたらかなり楽になるのだが、私が何を言った所で動いてくれはしないだろう。
「どう、しました?」
ここで水妖精から声がかかる、動きが止まっていた私に不安を覚えたのだろうか。
「あぁ、ごめん、器が欲しいなと思ってね」
「……つーさんに、たのむん、です?」
「うん、土妖精はそういうの得意だって聞いたから。でもアレじゃあねぇ」
「わかり、ました、まかせて、ください」
そう言い放つと、水妖精は土妖精を引き摺りながら暗がりを進んで行った。余りの素早さに聞き返す事も出来ず、私は彼らを見送ることしかできなかった。
その数秒後
「…………つかえ」
先ほどの暗がりから、綺麗な器を持った土妖精が出てきた。心なしか傷だらけの上、若干震えている気がするんですが。そしてその後ろから、何事も無かった様に素知らぬ顔の水妖精が歩いてきた。一体何があったと言うのか……
「み……ミーさん何やったの?」
「…………たのみ、ました?」
……誠心誠意頼めば作ってくれるらしい。追及すると命が危ない気がするので自重しよう。
「おんじんさん、きのみとりましたよ」
丁度良いタイミングで、妖精さんから声がかかる。自らの頭より大きい実を抱えながら、ヨタヨタとこちらに歩いてきた。その実はリンゴの様な形をしていたが、普通木の実では見られない真っ白な色をしていた。
≪ 聖者の果実 (自然/植物) コスト:0 ≫
・詳細:命を救うと伝わる聖なる果実、食べた者に活力を与える。
・効力:瀕死回復/身体活性(Lv.5)
・生産:エネルギー還元 750
瀕死の回復か、今まさに欲しかったアイテムだな。早速妖精さんからそれを受け取り、器の中に置き石で磨り潰す事にする。本当は皮を剥いたり細かく切ったりしてから行いたいのだが、緊急事態の上に刃物が無いの止むを得まい。
そうして聖者の果実をすりつぶした物に、細かくした魔草を加える。キノコは味の相性が悪そうなので今回は保留。それらを水に溶かして流し込む事にした、効果が薄まる事も考えたが、まず口に通さねば話にならない。
「……っと、しつれいしますね」
「……ん、…………くふ」
…………効果はあったのか?道具と違って詳細が解らないから判別も出来ない。
これがゲームならステータスの表示とかできるのだが、このゲーム機には流石にそういう機能は付いていないだろう。…………いや、今までの流れから出来る様な気がしてきた。
「……ステータス《ピピッ》…………マジで出やがった」
≪ ??? (人間/妖精) ≫
・特性:???(不明)
・能力:???(不明)
・状態:水霊の加護(水系魔術補正LV.1)/衰弱(全能力降下)
・奪取:エネルギー還元 270
うわぁ、また新しい項目が出てきたよ。しかも“奪取”って、確か説明書にあったエネルギー獲得方法の一つだったな。それが人間に表示されているという事は、考えたくは無いがそういう事なのだろう。それに不明な点が多いのも気になる、このゲーム機では調べられない項目もあるという事か?
まあ今は置いておこう、人命救助最優先。ステータスに怪我等の表記も無かったし、腹の傷は実際に確認して治っていたからもう大丈夫だろう。というか凄いなあの果実。
だが状態の欄には衰弱とあったし、どこかで安静にさせなければなるまい。余り動かしたくは無いが、私のベッドまで移動する程度なら問題無いだろう。
方針も決まったので女性を背負い行動を開始する。……上の動物達も少しは大人しくなっていたら嬉しいのだが、そう甘くは無いのだろうな。
若干溜息を付きながら上の階層を目指し歩き始めた。
……そして今更ながら思い出す。
「…………どうやって上にあがるんだ?」
……出来ればミーさんに運ばれるのは勘弁願いたい。
あれ、水妖精は臆病で内向的な性格の筈だったのに、どうしてこうなった?次回、語られなかった真実が発覚します。




