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探偵ではありません。経理です。  作者: Silvertiger
第7話 第二話・第三章『交際サイトの罠』 ― ホテル・アストリアの面談 ―後半

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第7話 第二話・第三章『交際サイトの罠』 ― ホテル・アストリアの面談 ―後半

第二話・第三章


『交際サイトの罠』


 ― ホテル・アストリアの面談 ―後半


(田島 × サトウ × アリア)


 アリアとの面談は、

 田島が経験した時と同じく、

 きっちり10分で終わった。


 サトウは腕時計を一度だけ確認し、

 穏やかな声で言った。


「今日はありがとうございました。

 お話できて良かったです」


 アリアは控えめに微笑んだ。


「……いえ。

 私もあなたとお話しできて嬉しいです……」


 その言葉は、

 田島の胸に深く突き刺さった。


(俺の時と……同じだ……

 同じ言い回し……)


 アリアが席を立とうとした瞬間、

 サトウは胸ポケットから小さな紙片を取り出し、

 彼女にそっと手渡した。


 アリアは驚いたように目を瞬かせ、

 紙片を開いた。


 そこには、

 短い一文が書かれていた。


「あなたを助けます。明日この番号に電話してください」


 アリアの肩が小さく震えた。

 彼女はサトウを見つめ、

 ほんの一瞬だけ、

 深い悲しみと安堵が混じった表情を浮かべた。


 そして――

 静かに頷いた。


 アリアはラウンジを出ていった。

 白いコートの背中が、

 人混みに紛れて消えていく。


 田島は柱の陰からその姿を見送りながら、

 胸の奥が締め付けられるような痛みに襲われていた。


(アリス……

 俺は……何を信じていたんだ……)


 ---


 ◆ サトウ、田島の前に戻る


 アリスの姿が完全に見えなくなった頃、

 サトウはゆっくりと田島の方へ歩いてきた。


 田島は震える声で言った。


「……サトウさん……

 今の……あれは……」


 サトウは穏やかに頷いた。


「田島さん。

 あなたが見た女性は、

 あなたが“アリス”と呼んでいた方です」


 田島は膝から力が抜け、

 ソファに座り込んだ。


「……嘘だ……

 だって……化粧も違うし……

 服も……髪も……

 でも……声が……」


 サトウは隣に座り、

 淡々と説明した。


「詐欺組織は、

 “同じ台本”を使います。

 あなたに送られたメッセージと、

 私に送られたメッセージは――

 完全に一致していました」


 サトウは、田島にアリアとのメールのやりとりを見せた。


 田島はイヤフォンを握りしめた。


「……俺……

 騙されてたんですか……?」


 サトウは静かに頷いた。


「はい。

 あなたは詐欺に遭っていました」


 田島は顔を覆い、

 肩を震わせた。


「……俺……

 アリスを……助けたかったんです……

 困ってるって……

 信じてたんです……」


 サトウは淡々と続けた。


「田島さん。

 あなたは優しい人です。

 だから、騙されたのです」


 田島は涙を流しながら、

 サトウを見た。


「……アリスは……

 本当に……俺を……利用してたんですか……?」


 サトウは首を横に振った。


「いいえ。

 アリスさんは、あなたを利用したのではありません。

 “利用させられていた”のです。」


 田島は息を呑んだ。


「……どういう……ことですか……?」


 サトウは淡々と説明した。


「アリスさんは、

 詐欺組織に監視されていました。

 借金を背負わされ、

 家族の住所も勤務先も把握され、

 逃げられない状態に置かれていたのです。」


 田島の目に、

 驚きと悲しみが混じった。


「……じゃあ……

 アリアさんも……被害者……?」


 サトウは静かに頷いた。


「はい。

 あなたも、アリスさんも、

 どちらも被害者です。」


 田島は涙を拭い、

 震える声で言った。


「……サトウさん……

 俺……どうすれば……」


 サトウは立ち上がり、

 田島に手を差し伸べた。


「田島さん。

 あなたは、私と一緒に来てください。

 これから、詐欺組織の“資金の流れ”を追います」


 田島はその手を握り、

 ゆっくりと立ち上がった。


「……はい……

 俺も……協力します……

 アリスを……助けたい……」


 サトウは頷いた。


「では、行きましょう。

 数字の整合性を破壊します」


 第三章・エピローグ(数日前)


『交際サイトの罠』


 ― サトウの準備 ―


(専用PC × VPN × 監視探索 × ブロックチェーン × 黒川)


 田島と会う数日前。

 経理部の小会議室に、黒川はサトウに呼び出されていた。


「サトウ君、何の話だ?

 経理の照会ならメールでいいだろう?」


 黒川が入室すると、

 机の上に並べられた機材を見て固まった。


 黒いノートPCが二台。

 ケーブルの束。

 小型ルーター。

 見慣れない端末。


「……なんだこれ。

 経理部で爆弾でも作る気か?」


 サトウは黒川を静かに見つめ、無表情で答えた。

「今回は、作りません」


「おい、今回は?おかいしいだろ!」


「専用PCです。

 詐欺サイトにアクセスするための環境を構築しました。」


 黒川は叫んだ。


「いやいやいや!

 なんで詐欺サイトにアクセスするための“専用PC”が必要なんだ!?

 普通の人はそんなことしないぞ!」


 サトウは淡々と続けた。


「普通の人は詐欺の台本を解析しません」


 黒川は頭を抱えた。


「……君は普通じゃないんだよ……」


 サトウはPCを指差した。


「このPCは社内ネットワークとは完全に分離しています。

 VPNを三重にかけ、接続元を特定されないようにしました」


 黒川は机を叩いた。


「三重!?

 そんなに厳重で、必要なのか!?」


「必要です。

 詐欺組織はアクセス元を監視しています。

 こちらの所在を悟られれば、証拠を消されます」


 黒川は深くため息をついた。


「……続けてくれ。」


 サトウは次の端末を示した。


「これは監視探索プログラムを動かすための端末です。

 詐欺サイトとの通信ログを解析し、

 サーバーの所在を特定します」


 黒川は眉をひそめた。


「通信ログ解析……?

 そんなことまでできるのか?」


「はい。

 詐欺サイトは海外サーバーを経由している可能性が高いので、

 パケットの跳ね返りを追跡します。」


 黒川は椅子に沈み込んだ。


「……経理の仕事の範囲、完全に超えてるぞ……」


 サトウは無表情で返した。


「数字の整合性を確認するためです」


 黒川は机に突っ伏した。


「……その言葉、便利すぎるだろ……」


 サトウは次の機材を示した。


「こちらはブロックチェーン解析ツールです。

 女性への送金に使われた暗号資産の流れを追跡します」


 黒川は顔を上げた。


「暗号資産!?

 田島はそんなもの使ってないぞ!」


「田島さんは使っていません。

 しかし、詐欺組織は“海外決済代行”を使っています。

 その先で暗号資産に変換されている可能性があります。」


 黒川は目を見開いた。


「……つまり、

 田島が送った金は、

 どこかで暗号資産に変えられてるってことか?」


「はい。

 ブロックチェーンは履歴が残るので、

 資金の流れを追跡できます」


 黒川は呆れたように笑った。


「……君は、経理じゃなくて捜査官だろ……」


 サトウは毅然と返した。


「経理です」


 黒川は机を叩いた。


「いや、経理はこんなことしないんだよ!!」


 サトウは無表情で言った。


「では、詐欺サイトに登録します」


 黒川は椅子から跳ね上がった。


「出た!!

 それだよ!!

 なんで登録するんだよ!!

 普通は避けるんだよ!!」



「田島さんが騙された経路を再現するためです。

 同じ条件で登録すれば、同じ台本が送られてきます」


 黒川は頭を抱えた。


「……本当にやるのか……?」


 サトウは頷いた。


「はい。

 詐欺組織の台本を入手し、

 資金の流れを解析します」


 黒川は天井を見上げた。


「……頼むから無事で帰ってきてくれ……

 経理が詐欺サイトに登録したなんて、

 前代未聞だぞ……」


 サトウは静かに専用PCを起動した。


 その背中は、

 まるで“数字の整合性を追うためなら何でもする”

 冷徹な研究者のようだった。


 サトウは思い出した様に黒川に告げる。


「黒川部長、これらの設備の購入とネットと電気の使用のための費用は販売費で処理しました」

 ---


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