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探偵ではありません。経理です。  作者: Silvertiger
第6話 第二話・第三章『交際サイトの罠』 ― ホテル・アストリアの面談 ―前半

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第6話 第二話・第三章『交際サイトの罠』 ― ホテル・アストリアの面談 ―前半

 第二話・第三章 前半


『交際サイトの罠』


 ― ホテル・アストリアの面談 ―


(田島 × サトウ × 罠の再現)


 海辺のホテル・アストリアのラウンジは、

 金曜の夕方らしく人の出入りが多かった。

 田島は入口近くのソファに座り、

 落ち着かない様子でスマホを握りしめていた。


「……サトウさんが、俺に何の話を……?」


 経理担当のサトウ――

 社内でも冷静沈着で知られる男。

 田島は、彼が自分を呼び出した理由を想像しようとした。


(社用カードの使いすぎを責められる?

 いや、それなら会社で話せばいい。

 わざわざホテルで会う必要なんて……)


 胸の奥がざわつく。

 アリスからの返信はまだない。

 既読だけがついたままだ。


 その時、

 ラウンジの奥から黒いスーツ姿の男が歩いてきた。


 サトウだった。


「お待たせしました、田島さん」


 田島は立ち上がり、緊張で声が少し震えた。


「……サトウさん。

 あの……経理の件でしょうか?」


 サトウは首を横に振り、

 穏やかな声で言った。


「いいえ。今日は経理の話ではありません。

 あなたを責めるつもりもありません。」


 田島は拍子抜けしつつも、

 逆に不安が増した。


「じゃあ……何の話なんですか?」


 サトウは、ラウンジの隅の席へ田島を促した。

 二人が腰を下ろすと、

 サトウは静かに言った。


「田島さん。

 実は私にも、あなたと同じ悩みがあるのです」


 田島は目を見開いた。


「え……?」


「あなたと同じように、

 私も“交際サイト”で女性と知り合いました」


 田島は言葉を失った。


 サトウは淡々と続ける。


「私はこういった経験が初めてでして。

 その女性と会うことになったのですが……

 どう振る舞えばいいのか分からないのです」


 田島は混乱した。


(サトウさんが……交際サイト?

 そんなはず……いや、でも……)


 サトウは胸ポケットから

 小さなBluetoothイヤフォンを取り出した。


「田島さん。

 あなたにお願いがあります」


「……お願い?」


「これをつけて、

 私とその女性の会話を聞いていてください。

 あなたは経験者です。

 私が変な対応をしていたら、

 後でアドバイスをいただきたい」


 田島は戸惑いながらも、

 イヤフォンを受け取った。


「……わかりました。

 でも、どうして僕なんかに……?」


 サトウは穏やかに微笑んだ。


「あなたは、誠実な方です。

 交際サイトの女性と会ったのでしょう。

 そして、女性との接し方をよくご存じだ」


 田島は胸が少し熱くなった。



 サトウは立ち上がり、

 ラウンジ中央の席へ向かった。


「では、私はあちらで待ちます。

 田島さんは、ロビーの端から観察してください」


 田島は言われた通り、

 柱の陰に身を隠した。

 イヤフォンを耳に装着し、

 サトウの席を見つめる。


 数分後――

 ラウンジの入口から一人の女性が入ってきた。


 白いコート。

 控えめな化粧。

 落ち着いた歩き方。


 田島は息を呑んだ。


(……誰だろう。

 サトウさんが会う女性……?)


 女性はサトウの前に立ち、

 静かに頭を下げた。


「……お待たせしました」


 その声が、

 イヤフォン越しに田島の耳へ届いた。


 田島の心臓が跳ねた。


(この声……)


 女性が顔を上げる。


 その瞬間――

 田島の全身が凍りついた。


「……アリス……?」


 化粧は違う。

 服も違う。

 髪型も少し変わっている。

 女はアリアと名乗った。


 だが――

 間違いようがなかった。


 アリスその人だった。


 田島は柱の陰で震えた。

 イヤフォンから、

 サトウとアリアの会話が流れ始める。


「今日は来てくださってありがとうございます」


「……いえ。

 私もあなたにお会いしたかった……」


 田島の胸が締め付けられた。


(会いたかった……

 俺と会った時と同じだ……

 同じ台本……)


 アリアはサトウの前に座り、

 控えめに微笑んだ。


 田島は、

 その笑顔を知っていた。


 そして――

 その笑顔が“嘘”だったことも、

 今ようやく理解し始めていた。

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