第4話 第二話・第一章『交際サイトの罠』― 会議後の雑談 ―
第二話・第一章
『交際サイトの罠』
― 会議後の雑談 ―
金曜の午後。
外資系企業Traditional Furniture の役員会議が終わり、
幹部たちはコーヒー片手に雑談を始めていた。
営業部長・黒川は、会議室の隅で人事担当の三浦と話し込んでいた。
二人とも、どこか沈んだ表情をしている。
「……三浦さん、やっぱり田島の件、気になるんだよ」
三浦は腕を組み、ため息をついた。
「ええ。昨日、田島君が給与の前借りの相談に来ました。社内貯金も解約しています。不審と感じ、営業部の同僚に彼の様子を聞くと、“田島が金を貸してほしいと言って回っている”と相談が来まして。
しかも、理由が毎回違うんです。
“家族が倒れた”“医療費が足りない”“交通事故に遭った”……」
黒川は眉をひそめた。
「田島は真面目な男だ。営業成績も悪くない。
なんで急にそんなに金が必要になるんだ?」
三浦はさらに声を落とした。
「それだけじゃありません。
経理部から照会が来ました。
田島に貸与している社用クレジットカードに“海外決済代行”の利用が複数あるそうです」
黒川は目を見開いた。
「海外決済代行?
個人で使う理由なんてないだろ……」
三浦は頷いた。
「ええ。経理の担当者が“不審な利用なので営業部長に確認したい”と。」
黒川は頭を抱えた。
「……田島、何をやってるんだ……
まさか、詐欺にでも遭ってるのか?」
三浦は慎重に言葉を選んだ。
「彼にお金の使途を聞くと、“困っている女性を助けているだけだ”と言っています。
詐欺だと認めていません」
黒川は腕を組み、ため息をついた。
「認めてないなら、警察も動けないじゃないか……
どうしたらいいんだ……」
その時、
会議室の出口付近で資料を片付けていたフェイス・フォスター(CFO)が、
二人の会話に気づいた。
フェイスは静かに近づき、
コーヒーを持ったまま言った。
「田島くんの話……少し聞こえてしまったわ」
黒川は慌てて姿勢を正した。
「フェイスCFO、すみません。
営業部の問題でして……」
フェイスは首を横に振った。
「いいえ。これは部署の問題じゃない。
“会社のリスク”よ。」
三浦は驚いた。
「リスク……ですか?」
フェイスは淡々と続けた。
「社員が詐欺にあっている可能性があるならね。
社用のクレジットカードも使っているのでしょう?
それなら、お金の流れを追う必要があります。
彼を助けてやりましょう。適任者がいます。
警察には、詐欺の証拠を揃えてから通報しましょう」
黒川は困惑した。
「適任者……?
でも、社員に詐欺の調査なんて……」
フェイスは静かに言った。
「サトウならできるわ」
黒川と三浦は同時にフェイスを見る。
「サトウ……?
経理のあの冷静な男ですか?」
フェイスは頷いた。
「彼は数字の整合性から“嘘”を見抜く。
彼は、あるトラブルから私を助けてくれた」
三浦は驚きで目を丸くした。
「えっ……フェイスさんを……?」
フェイスは軽く咳払いし、話を戻した。
「とにかく、田島くんの件は“数字の異常値”が出ています。
サトウに任せましょう」
黒川は少し考え、
やがて深く頷いた。
「……わかりました。
サトウ君に相談してみます」
黒川は、すぐに経理部に駆けつけて、ラビット経理部長を通してサトウを呼ぶ。
ラビット経理部長は、自室にサトウを呼び黒川からの相談を聞いた。
「そういうことなら、サトウ君、黒川部長の頼みを聞いてあげなさい」
サトウは姿勢を崩さず、二人を見つめた。
「お言葉ですが、そのご相談は経理部門の人件費で落とせません。私は営業の販売費を使用する権限はありません」
黒川とラビットは顔を見合わせた。
黒川は思わず吹き出した。
「……そこからかい、サトウ君……!」
ラビット部長がサトウの言葉に重ねて言う。
「黒川部長、この案件は営業部の費用で処理すべきですね」
その時、経理部長室にフェイスが来た。
「サトウ。田島くんを救ってあげて」
サトウはフェイスを見つめ、そして三人に頷いた。
「では、販売費と一般管理費の使用を許可願います」
こうして――
経理とは無関係に見える“営業部員の異変”は、
サトウの冷徹なロジックによって、静かに動き始めた。
--- 営業でも人事でもなく……経理の視点で。




