新たな旅路
「で、どうなったのだ。早く話せ、サルヴァン」
ヴァル=ノーデン自治領の執政官サルヴァンは答えた。
「クラウディア様。その場でラズレックに逆らう者はおりませんでした。
なぜなら、貴族も騎士も埋められていたからです」
城主クラウディアは大笑いした。
「ラズレックは物騒なやつだ。私らと同じ目に遭ったやつらがいるとは滑稽だ。そう思わぬか、サルヴァン」
「あの皇帝を石畳に叩きつけたのですよ。私ら以上にひどい目に遭っておりますな。まあ、あの皇帝を自ら名乗ったものでしたからの。痛快と言えば痛快ですな」
サルヴァンは肩をすくめた。
「もっとも、皇帝は命を取り留めたらしいですな。
その命を救ったのが『魔女セイレーン』だとか」
クラウディアは顔をしかめた。
「帝国がおとなしくなるかと思ったが、『魔女セイレーン』が生きていたとなると……倍は騒がしくなる」
サルヴァンは楽しそうに言った。
「ですが、その魔女セイレーンは帝国には留まらなかったのです。ラズレックとアヤと共に、また旅に出たらしいのです」
「行き先はどこじゃ」
「ティル河三地区のいずれかへ向かったとのこと」
クラウディアは目を見開いた。
「わが国ではないか。どうするのだ。ラズレックにセイレーンだぞ」
サルヴァンは落ち着いて答える。
「しばらくは、見て見ぬふりしかありますまい。帝国も絡んでいるでしょうからな。関わらぬ方が自治領のためでしょう」
クラウディアは低く問うた。
「我が国は帝国に勝てるか」
「太刀打ちできませんな。
もっとも、ラズレックと魔女セイレーンがいれば勝てましょうが」
サルヴァンは少し笑った。
「仲間に引き入れますか」
クラウディアは苦笑を浮かべる。
「二人がいれば、もはや我が国などいらぬのであろうが」
アヤは困っていた。
「なぜ、ラズレックでもなく、ジェスタでもなく、私が交渉相手なのだ……」
ジェスタは笑って言った。
「ラズレックも私も手に負えないからだろうね。
話が通じるやつで、しかも私たちに交渉を持ちかけられる人間が、あんたしかいないってことよ」
ティル河の中央地点、ジルファが建てた小さな家の中には、ラズレックとジェスタとアヤがいた。
その小さな家には、帝国や周辺諸国の使者が、入れ替わり立ち替わりアヤに会いに来ていた。
ラズレックは、ヴァル南耕地の開拓を手伝いにジルファと出かけることが多い。
その隙を見計らって、使者たちはアヤを訪ねてくるのだった。
帝国の使者は、ラズレックに戦神の使いとして振る舞ってほしいと頼み、
他国の使者は、高額の報酬で雇いたいと言う。
アヤは毎回、直接ラズレックに話せと返して追い返した。
どうやら、ラズレックと話すこと自体が相当に恐ろしいらしい。
隣の部屋で眠っていることの多いジェスタも、めったに表へは出てこなかった。
アヤがうんざりしていると、ラズレックが帰ってきた。
「南の海を渡った先に、こことは異なる魔術体系があるらしい。行こうと思う」
その言葉に、
「待ってました!」
と、ジェスタが隣の部屋から顔を出した。
アヤは窓の外を見て、笑った。
「天気もよさそうだ。さあ、旅にいこう」
(終)




