魔術師ファルクレア
アヤは言った。
「ラズレックたちは先を急がなくていいのか。思いきり暴れたんだろう。しかも、マントの隙間から見えるその白さは……。ジェスタ、順を追って話してくれないか」
「半分までならね。あとは埋められてしまったから」
「埋められてって……どういうこと?」
カティアがジェスタに尋ねると、ジェスタは肩をすくめた。
「そのまんま。土の中にすうっとね。ラズレックに埋められてたの」
ラズレックが言う。
「先を急ぐ必要はない。兵たちはジェスタが眠らせた。しばらくは動けないだろう。
カティアを送り届けねばならぬ。私たちのせいで、人質にでもされたら大変だ」
アヤは頭を抱えた。
「お前たちは、いったい何をしたんだ……」
次の日、昼前に商団は首都の門前に着いた。
そこで点呼が行われ、商団は解散となった。
アヤが言う。
「さて、問題はここの門だ。ラズレックとジェスタは壁から中へ。私とカティアは門から入り、そのまま魔術の私塾へ連れていく。今日は騒ぎを起こすなよ」
そう言って、二手に分かれた。
カティアの持っている書類から門番に止められることはなかった。
アヤはカティアに聞く。
「私塾の場所は聞いているのか?」
カティアは困ったように答えた。
「東地区にあるとは聞いているのですが……ここまで大きいと……」
二人は首都の広さと建物の高さを前に、東地区という情報だけでは探せないことを悟った。
立ち止まっていると、男が声をかけてきた。
「情報はいらないかい。この街は初めてじゃ、とても辿りつけないぜ」
アヤはコインを一枚放りながら言った。
「ひとつ教えてくれないか」
「おお、気前がいいね。何が知りたい?」
「安全に情報を得るにはどうしたらいい?」
男は感心したように笑った。
「あんた、この街は初めてだろうに、だいぶ旅慣れてるな。
この街は広すぎてな。案内屋ってのが成り立つのさ。看板が出てるから、気をつけて歩きな。
ちなみに、案内屋は名前の上に丸印がいくつあるかが大事だ。多いほど情報が多いし、紹介業も兼ねてる。まあ、その分高いけどな」
アヤは続けて聞く。
「魔術師のいる場所を知りたいんだが」
「魔術絡みか。なら、丸印が三つあるところを探しな。
魔術師は居場所を隠してることも多いから、信用のないところじゃ教えちゃくれない。
まあ、一番よくないのは――俺みたいな怪しい男についていくことさ。じゃあな、気前のいい嬢ちゃん」
そう言って、男は去っていった。
アヤとカティアは、まず案内屋の看板を探した。
歩いてすぐ、丸印が三つある店を見つけたので中に入る。
カウンターへ行き、カティアが「魔術師ファルクレアの私塾」を知りたいと告げると、
「どのようなご用件で」
と聞かれた。
父親が手配した入学書を見せると、受付はほっとしたように言った。
「魔術の生徒さんでしたか。場所を教えるだけでよろしいですか。ご案内もできますよ」
アヤは言った。
「案内までお願いしたい。この街は広すぎる」
「かしこまりました」
受付が手を二回叩くと、身なりの整った少年が奥から現れた。
受付はその者に、場所の書かれたメモを渡す。
少年は丁寧に頭を下げた。
「それでは、参りましょう」
そう言って案内を始めた。
アヤは少年に話しかける。
「この街は大きいな。案内人も大変だろう」
「そうですね。でも、生まれた時からこの街ですから。大変とまでは思いません」
「この国は、また戦争をするって聞いたよ。そんな雰囲気はないな」
少年は少しだけ声を落とした。
「そうでもないですよ。兵の方々も増えていますし、食料も値上がりしています。
最終的には、戦争は最終的に貴族会議の評決で決まりますからね」
そして続けた。
「これからご案内する魔術師ファルクレア様は、貴族ですから。評決に加わる方ですよ」
カティアは驚いた。
「貴族様なの?」
「はい。魔術師リュシオン・ファルクレアは、この国の十二貴族の一人で、魔術研究庁の長です」




