最後の敵は強化アイテム
半日丸々使っただけあって敵の攻撃パターンについては既に頭に入っていた。
気が付けば20ステージまでは当然のようにクリアできるようになっており、徐々に21、22と戦績が安定して来る。
「よし、よし、行ける。 いける。 俺なら行ける」
それに比例して継征の目が血走り、譫言のような呟きも増えて行ったが。
「お、お兄ちゃん。 そろそろ止めといた方が……」
流石にヤバいと思ったのか逸子が止めようとしていたが、継征は完全に無視し敵を仕留める事に全てを傾けていた。 まるで魂を燃焼させるが如き集中に若干、引いていたがここまで来ると見守るしかないと後ろで見ていたのだが、流石に深夜に突入すると付き合っていられないと風呂に入り、戻ってもまだやっているのを見て欠伸を一つ。 あまり変化の少ないゲームという事もあって気が付けば船を漕ぎ――眠ってしまった。
「うおおおおおおおおおお!! ざまあみやがれこのクソゲーがよぉ!!」
兄の叫びで跳ね起きた逸子はなんだと目を擦って前を見ると継征が最終ステージをクリアしていた。
撃破したのが嬉しかったのか拳を握って全身で喜びを表現している。
「あー、クリアしたんだ。 やったね」
目が覚めたばかりで少しぼんやりしていた逸子だったが、兄が一つの関門を突破した事だけは分かった。 継征はまぁなと嬉しそうに操作を再開して手が止まる。
そこにはクリアタイムが記されていたからだ。 151分05秒。
確かトロフィー取得の条件は150分以内だったはずだ。
継征はコントローラーを振り上げたが、どうにか思いとどまった。
「まぁ、クリアは出来たし今日は寝る」
「もう朝だけど?」「うるせぇ! 寝るったら寝るんだよ!」
そう言ってそのまま横になり、限界だったのか即座に寝息を立て始めた。
数時間で登校だが、少しでも回復したいのだろう。
逸子は後で起こしてやるかと考えてそのまま横になった。
バイトが休みだった事もあって継征は学校が終わるとそのまま直帰。
即座にコントローラーを握りしめて再度挑戦。 残りのトロフィーは後二つ。
可能であれば片方――150分以内のクリアは前回で取ってしまいたかった。
取れなかった物は仕方がない。 それに一度クリアした以上、二回目もできるに決まっている。
継征は気合を入れるとプレイを開始。
十数時間をかけて積み重ねた経験値は継征の技量を大きく引き上げる。
敵の攻撃パターンと配置を完全に記憶していた彼は次々とステージを進める。
ただクリアするだけではダメなのだ。 可能な限り速やかにクリアを目指す必要があった。
150分つまりは1ステージ五分でクリアすれば条件は達成できる。
ここで重要なのは最初の10ステージ。 ここを20分以内にクリアできたのなら充分に足りるはずだ。
11から20は五分以内の突破は出来なくはないが、21から最終ステージに関しては五分ではとても足りない。 最終ステージに関しては普通に10分以上かかったのだ。
これに関しては回避を優先しすぎた結果ではあるが、そこを節約できれば行けると思っている。
その為、継征が行ったのは1から10ステージの時点で20分を超えたらやり直すという事を行った。
五回、十回とやりなおし、十五回目で20分を切り、20までは何とか突破。
問題は21からのクリアだ。 ここまで節約できたので後はクリアするだけ。
単純な難易度だけでも相当ではあるが、何とか突破しなければと必死にコントローラーを操作。
帰宅したのは夕方。 気が付けば日も暮れており、いつの間にか逸子も帰ってきていた。
もう何回やったか覚えていないが、気が付けば最終ステージ。
ボス相手に猛攻をかけている所だった。 四方八方から飛んでくる弾を防ぎながら執拗にボスに弾を撃ち込んでいき、強化アイテムが出れば取得して即座に強化した最大火力を叩きこむ。
そして撃破。 簡素なスタッフロールが流れたと同時にトロフィー取得のアナウンス。
「っし!」
継征はぐっと拳を握る。 残す所はアイテム取得ナシでのクリアだけ。
時間を気にしなくてもいい事もあって時間をかければいいと勢いそのままにプレイを再開したのだが――甘く見ていたという事を認識したのは割と早かった。
要はアイテムに触らなければ良いのだが、自機に飛んでくるアイテムを躱す必要があるのだ。
取ってしまった時点でチャレンジ失敗と敵の攻撃を躱しながらアイテムも躱すという火力縛り以上に難易度が上がってしまっているのだ。
これがワンミスで失敗認定されるゲームでなければもう少し寛容な心で向き合えたかもしれないが、掠っただけで撃墜されてゲームオーバーになる以上はかなり厳しい。
「あああああ、クソ!? またアイテムを取っちまった」
「回避先に飛んでくるね」
「うぜぇ! アイテムをドロップしない設定はないのかよ!? 躱す物が増えるから死ぬほど面倒くさい!」
そう、最後の敵は強化アイテムだったという恐ろしい罠が待っていたのだ。
火力が出ない事で更なる耐久を強いられ、躱す物が増える事で意識も削がれる。
攻撃を躱してもアイテムを躱せなければその場でリセット。 ステージ単位でのやり直しなどという甘えは一切許されない。 特に継征の精神を蝕んだのはアイテムを取った事でトロフィーが取得できなくなったという負けた訳ではないのに負けた事にされる事だった。
これは中々に屈辱的な事だったようで、普通に負けるよりも遥かに不快だったのだ。
イライラしながらブツブツと「クソが、くたばれ」と呟きながらも彼はこのゲームに適応していく。
元々、クリアできるぐらいに技量を向上させていたのだ。 生き残りさえすれば割と何とかなる事もあってその日の深夜――日が昇る前には最後のステージをクリアする事となった。
「うおおおおおお!! ざまぁ見やがれこのクソゲー! 二度とやらねぇからなぁ!!」
ボスを撃破し、トロフィー取得が確定。
コンプリートを確認した所で継征は画面に向かって中指を立てるとそのまま崩れ落ちた。
「おぉ、お兄ちゃん流石~」
半分寝ていた逸子は継征の勝利の雄叫びで少し目を覚ましたが、崩れ落ちた兄を見てまた眠りについた。 ちなみに翌日――正確には数時間後には学校だったが、何とか遅刻はしなかった。




