88話 VIPエリア
「こちらです」
ハンナが案内してくれる。
「あ、ちょっとまって」
「はい?」
「これ買っていきたい!」
そう言って僕は途中の露店で打っていた串肉を指さした。
「おいしそうですね」
「いいですね。買いましょう」
そう言って僕たちは護衛隊のみんなの分も含めて串肉を買った。
もちろん僕のポケットマネーから出している。
「ありがとうございます。プライベートでついてきてる私の分まで買ってもらって」
「いいよいいよ、どうせ北部と比べたら破格の物価だし」
北部ではあの串肉が30倍の値段で売っていてもなんら不思議ではない。
食料が豊かではないのもそうだがそもそも全体的に物価がバカ高い。
「では改めて」
「行こう!」
そう言って僕たちは再び闘技場の入り口に向かって歩き始めた。
途中いろいろな物が見れた。
南部の品々や大道芸人はもちろん国際的な大会と言うこともあって外国の品々も多くあった。
ずっと北部の戦場で過ごしてきた僕にとっては新鮮な物ばっかりだった。
特に食べ物が腐るほどある光景はいままでの北部ではまず見れなかっただろう。
「すいません」
「ん?」
「特級席を予約しています」
闘技場の入り口に着くとハンナは係にそう言ってチケットを見せた。
今回は特級席を予約してある。
数日前に急ごしらえで買ったから普通の値段の3倍もしてしまった。
まあ別に高くはないが、、
「確認しました。」
係は特級席のチケットを見ると急に態度を良くして案内し始めた。
「こちらへどうぞ」
係について行く。
闘技場は大きなすり鉢状になっていてその周りに観客席や控室・販売店などがある。
闘技場自体はそこまで大きくないが周りの施設で建物は巨大化していた。
特に観客席と外壁の間は複雑で何個もの部屋が並んでいた。
「この闘技場は地下2層、地上5層の7層構造になっており観客席は地上2層目からです。最上階の地上5層目は全体がVIPエリアとなっていて他の観客は入れませんのでごゆっくりご観覧ください」
確かにさっきから階段を何層も昇っている。
上層に行くにつれて観客も少なくなってきている。
「こちらです。到着しました」
そんなことを考えていると到着した。
予選と言うこともあって特級席はあまり埋まっていなかった。
特級席はボックスタイプになっていた。
室内とバルコニーに分かれていてバルコニーには日よけが上にかかっていた。
室内は完全な個室になっていて他の席からは見えない。
さすが最上級の席といったところか。
「使用人をお付けいたしましょうか?」
係が聞いてきた。
この特級席には専属の使用人がついてくる。
使う人は大体王侯貴族か大富豪だから気を使っているのだろう。
「いや、使用人はいらない。護衛ももういるから大丈夫だ。」
「かしこまりました。では私はこれで失礼いたします。何かあればお申しつけください」
そう言って係は出て行った。
「結構いい席だね」
「そうですね。この大会には各国からVIPが参加するので良い国威発揚にもなるのでしょう」
「だね」
特級席と言うこともあって席の豪華さだけではなく見晴らしも良い。
下の闘技場のフィールドもよく見える。
今ちょうど大会前の余興が行われているところだ。
「珍獣でしょうか?」
「そうだね」
第一皇子が各地から集めて来た珍獣が見世物にされている。
「第一皇子は確か帝都じゃ有名なコレクターだったよね?」
「はい、生き物・物問わず様々な物を世界各地から集めているのだとか」
「そんなことして何が楽しいんだ?使いもしないのに珍しいものを集めて、希少価値は使ってこそ現れる物だろう」
「はは、南部の貴族ではそれが普通なんですよ」
北部では常に実用性が求められた。
だから歴史的・学術的・技術的価値のある物でもなければコレクションにする者などいなかった。
コレクターは生きるのに余裕がある南部貴族特有の文化だろう。
トントンッ
僕達の席のドアがノックされた。
来たか。
「どうぞ」
「失礼いたします。殿下」
リールだ。
諸々の手続きが終わったらしい。
「到着されたとの報告を受けましたので参りました」
「時間は大丈夫なの?」
「はい、選手の集合は対戦相手発表後とのことでしたのでまだ少し時間はあります」
「わかった。周りはどんな感じだった?」
「皇室騎士団に比べれば強そうな者が結構いました」
「リールさんから見ても強いんですか?」
ハンナが言う。
「いえ、”皇室騎士団に比べれば”ですよ」
「よかったです」
「と言うことは苦労しそうな人はいなかったようだね」
もともとリールに勝てる奴どころか互角に戦える奴など南部はおろか北部以外にいるわけない。
「まあ各国の戦士が揃っているということもあって面白そうな相手はいますし当たってくれるといいんですけどね」
「そうだよね~対戦相手は確か第一皇子が決めるんだっけ?」
「そうですね。まもなく発表があるようです。あ、始まるようです」
ちょうど余興が終わって対戦相手発表がフィールドで始まろうとしていた。
次回投稿は金曜日になります。
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