ダイヤモンド鉱脈の占拠
アイドの部屋のドアに、コンコンとノックの音が響く。
「…どうぞ。」
「入るぜ。」
ガチャリとドアを開けてトモルが入ってきた。アイドは1人掛けの椅子に座り込み、ぼんやり天井を眺めている。
「ったく、タンザナイト一個も採れてねぇじゃんか。 ゾイサイトばっかりだ。」
トモルはアイドたちが持ち帰った袋の中身を見ながら言う。
「もうあそこの星のかけらは行かなくて済むよ。 ロロクさんが現地のコウモリと雇用契約結んだんだ。 タンザナイトを採掘して送ってくれるって。」
「なんだそりゃ。 社長も衝動的だなぁ…」
「3日がかりの採掘が無くなるから、俺にとってはだいぶ楽になるよ。 今回は、ホント疲れた…」
「…疲れただけじゃないだろ? 社長と何かあったのか?」
アイドは少し笑って言う。
「…やっぱりトモルにはお見通しなんだな。」
「2人とも様子が変だったからな。」
「ロロクさんは?」
「スズちゃんがどっかに連れ出してった。」
「そっか…。 トモルには話すつもりだったし、話すよ。 ロロクさんの過去についても、少し教えてほしいんだ。」
「…わかった。 長くなりそうだし、コーヒー淹れてくる。 飲むか?」
うん、とアイドは頷く。トモルは部屋を出てキッチンに向かった。アイドは少しほっとした顔になった。
(トモルがいてくれて良かった…。 ギベオンさんやロロクさんのこと、俺1人じゃ抱え込めないから…。)
★
「…ちょっと付き合ってって、ここラーメン屋じゃないか。」
「美味しいって評判なのよ! ずっと気になってたの!」
小さなラーメン屋の前で、ロロクとスズは言い合っていた。
「僕は疲れてるから帰って休みたいんだが…」
「あんた、リリーとか言う客に絡まれた時に今度埋め合わせするって言ったきり、なんにもしてないでしょ? ラーメン一杯くらい付き合ったらどうなの?」
「うっ…」
確かに、スズにはリリーの件でも助けられたし、先日マフィアに連れ去られた時には命まで助けられている。にも関わらず、ロロクはスズに何も返していないことに気づき、気まずそうに口をつぐんだ。
「…わかったよ。 店、入ろうか。」
「最初からそうすればいいのよ。」
スズはツンとした態度でさっさと中へ入っていく。
(コイツ、ほんと一言余計なんだよな…)
ムッとした顔でロロクもスズに続いて中に入る。評判は事実のようで、店はかなり繁盛していた。
「醤油ラーメンふたつ!」
「へーい!」
スズの注文に、店員が元気に答える。
「あーお腹すいた。 今日は一日中星蛇追いかけ回してたから疲れちゃった。」
「君、何も聞かないんだな。」
「何が?」
「僕とアイドのことだよ。 それを聞きたくて誘ったんだろ?」
「あー…ロロクが言ったほうが楽なら言っちゃえばいいと思うけど、言いたくないならそれでいいよ。今日は本当にラーメン食べたいからロロクを待ってただけだし。」
「…そうか。」
ロロクは口に手を当てて考えこんだ。
(こいつ、頼りになるけど警察官だしな…。 化け物のことを話したらすぐ巣に行くだろう。 いくらこいつが強くても、あの化け物には勝てない。 けれど…)
ロロクはスズを横目で見る。スズは気づいて小首を傾げる。幼さが残る仕草に少しドキリとして、慌てて目線をテーブルの上に戻す。コップに注がれた水をひと口飲み、ロロクは話し始めた。
「アイドは…シシノホシに恋人がいるんだ。 5年前にシシノホシに行ったきり、音沙汰がない。 そんな彼女に会うために、採掘師になろうと僕の会社にやって来たんだ。 ちょうど1年程前になる。」
「採掘師なら、いろんな星に行けるものね。 ただ、シシノホシは実質鎖国状態だから、採掘師でも行けないだろうけど。」
「ああ。 彼は単純だから、そんな動機で採掘師を目指したんだ。 だが僕は彼を雇った。 アイドのひたむきさと、強さを見込んで採用した。 いつかシシノホシに行くとしても、その時が来るまで働き手になってくれるならいいくらいにしか思ってなかった。」
ロロクは目を細める。
「詳しくは言えないが、アイドがシシノホシに行くチャンスが今日あったんだ。 僕にとっては気持ち良く送り出せない方法ではあったけど…アイドに『行け』と言えなかった。 彼に、採掘師を…ウチの会社を辞めてほしくないと思ったんだ。 柄にもなく、彼を大事にしたいと思うようになってしまった…」
「…いいじゃない。 アイドがシシノホシに行く選択をしなかったのも、ロロクを大事に思ってるからでしょ? アイドは恋人の問題を、アンタと解決したいのよ。 アンタもアイドと一緒に解決したいんじゃないの?」
ロロクはハッとした様子でスズを見た。スズは優しく微笑む。ロロクも少し笑ったところで、店員がラーメンを運んできた。
「きたきた。 いただきます!」
スズは割り箸をパキッと割って、ラーメンをすすり始めた。ロロクも割り箸を手に取り、呟く。
「…ありがとう。」
「ホントのこと言っただけよ。 伸びちゃうから、早く食べて!」
「あぁ。 いただきます。」
すっきりとした表情で、ロロクは手を合わせた。
★
「そっかぁ。 竜と鉢合わせちまったのは運が無かったな。 社長にとっては最悪な思い出だからな。」
トモルはアイドの部屋の椅子に座り、難しい顔をしながら言った。アイドはコーヒーをすすり、トモルに聞く。
「ロロクさんのお父さんの事件のこと、知ってた?」
「その事件のときはおふくろが同行してたからな。 おふくろがケガした社長を抱えて船まで逃げて、ネコノホシに帰ってきたんだ。」
「トルアさんが…!? っていうか、その頃からトモルはロロクさんと知り合いだったの?」
「おふくろも親父もここで働いてたからな。 小さい頃から社長には面倒見てもらってたんだ。 意外と古い付き合いなんだぜ?」
トモルは得意そうに笑う。
「そうだったんだ…全然知らなかった…。」
「まぁとにかく、社長も帰ってきたら落ち着いてるだろうさ。 一応大人だし。」
「だといいんだけど…。」
その時、玄関のドアが開く音が聞こえた。アイドはビクッと反応し、毛を逆立てた。
「おっ、ちょうど帰ってきたみたいだな! びくついてないで、2人で出迎えようぜ。」
「び、びくついてない!」
トモルと2人で部屋を出ると、案の定ロロクが帰ってきていた。アイドは少し気まずそうに声をかける。
「ロロクさん…さっきは…」
「2人とも! ニュースまだ見てないのか!?」
「…えっ? ニュースですか?」
予想外の反応に、2人は顔を見合わせる。
「早くテレビつけろ! 同業の間じゃもう大騒ぎだ!!」
ロロクの慌てぶりに狼狽えながら、トモルがテレビをつける。映し出された画面には、臨時ニュースという文字が浮かび、アナウンサーが深刻そうな顔で原稿を読み上げていた。
『先程からお伝えしていますが、宇宙最大のダイヤモンド採掘場である星のかけら“D-4”が、突如として占拠されました。 シシノホシの紅獅子党によるものと見られており、今後はダイヤモンドの価格高騰が懸念され…』
続く




