表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
183/399

二十五章 メイドの後日、ヅラの災難(1)

 朝一番、王妃に呼ばれたルクシアは、「は……?」と珍しく呆けた表情を晒してしまった。


 父である国王も揃い、それを合意した家臣たちも集まっている公式の場の中だった。目の前には、その決定を嬉しそうに告げている母、王妃カトリーナの姿がある。


 他の言葉が上手く耳に入って来ないでいるものの、どうにかかろうじて用件だけは理解出来た。あのバレッド将軍と騎馬隊の第三部隊が、専属の護衛部隊として正式に決定したという。


「…………いつの間にそんな事に」


 その場をあとにしてようやく、ルクシアは廊下に一人出たところで呟いた。


 結局、安心しきった様子で嬉しそうに告げた母に反論も出来ず。かといって、同じく満足そうにしている父の国王陛下や、珍しく少し笑みを浮かべてくれていた上の兄、第二王子ジークフリートにも何も言えなくなってしまったのだ。


 謎だ。かなり謎である、どうしてそのような事になっているのか。


 心労から頭痛がする気がした。のろのろとした足取りで、ひとまずはいつも通り薬学研究棟に向かう事にして進み始める。成人男性サイズの白衣の裾が、足元でひらひらと揺れていた。


「………………専属の護衛、ですか……。何故ただの所長である私に、部隊単位の護衛が付くのかについても、謎なのですが」


 通常の場合、部隊単位で『自由に動かせる護衛』を付ける事はない。軍人としてある上の兄も、直属の部下として師団を持っている程度だ。


 自分が軍人としての仕事を、あのムッキムキの騎馬隊たちに指示するのか?


 そう想像して――ゾッとした。


 そもそも軍の仕事はよく分からない。母上たちは『指示すれば最優先で動ける権利』が与えられているだけで、細かい事は気にしなくていいから……とおっしゃっていたが、そんなフワッとした感じでは駄目だろうとも思う。


「ファンだと言ってきた将軍と部隊が、まさかの専属護衛決定…………」


 よろよろと足を進めるルクシアの胸中は、複雑だった。さまざまな事がぐるぐると回って、頭もかなり痛かった。


             ※※※


 休み明けの登城にて、マリアはまたしても王族区から抜けたところでアーシュと会った。壁にもたれて立っていた彼は、きっちり文官服を着込んでおり、腰には軍人所属を示す剣がある。


 やはり二十歳にしては、やや線が細めで少しばかり小柄な印象だった。威嚇するような懐かない目付きは、普段の机仕事を思わせないくらい凛々しい。


「なんか、白衣がないと違和感を覚えるようになってきたわね……」

「おい。開口一番に何言ってんだよ」


 真剣な表情をしてしまっていたら、彼がジロリと目を向けてきた。うっかり声に出してしまったと気付いて、マリアは「ごめん」と素直に謝った。


「んで、昨日はゆっくり休めたのか?」


 二人で歩き出してすぐ、アーシュが問い掛けてきた。


 先日、ルクシアの研究私室で別れる際に『ちょっとした楽しみがあるのよね!』と答えていた。そう思い出して、ついでのように昨日を思い返す。


「…………まぁ、うん。そうね……」


 あの後は平和だった。リリーナの新作の衣装もしっかり見られたし――とマリアは思いながら返事をした。


 自分よりも低い位置にあるその横顔を目に留めて、アーシュがちょっと顔を顰めた。


「なんだよ。曖昧な返答だな?」

「まぁ、うん。午後は、ゆっくり過ごせたというか」


 答えながらも、その足は通い慣れた薬学研究棟へ向かい続けていた。広間を横切り、いつもの外沿いの廊下へと進む。そこには朝の勤めに向かう役職の男たちと軍人、それから既に働き出している使用人が通行している姿があった。


 友達が来て、会ったと言うのもなぁ。


 伝えられそうにもない事を考えていたマリアは、ふと気付いて「そういえば」と口の中に呟きを落とした。彼は『ジーク』とは親友であるけれど、アーシュの方こそどうなんだろう?


 愛称ジーク――第二王子ジークフリートは、ルクシアの上の兄だ。この活動の協力にあたってから、交友を控えていたりするのだろうか。自慢げに話してくる事もないし、あまりその話題も聞かないので、少し心配になった。


「ねぇアーシュ、第二王子とは?」


 彼らの交友は、一部の人にしか知られていない。人のいる場所であると意識して、マリアは言葉少なく尋ねた。


 すると、アーシュが前を見据えたまま、察した様子でこう言ってきた。


「偶然会って、メシ誘われて食ってきた」

「なんだ、そうなの」


 やっぱり仲が良いんだなぁと思って、マリアは安心して視線を前に戻した。近くにいた師団所属の若い軍人たちが、小さなざわめきを上げているのにも気付かなかった。


 思わず男たちが足を止めて、「いやいやいや」と全力で突っ込んだ。


「普通もうちょっと違う反応があるだろ、そこのちっこいリボンのメイドっ」

「つか、あの第二王子と『偶然擦れ違ってメシに誘われた』のか……!?」

「あの文官何者だ!? これって他の奴らにも教えた方が――」

「やめろ駄目だ! 聞き付けられたら厄介だぞっ、ポルペオ様が絶対羨ましがるから!」


 そう小さく騒ぐ男たちが、足並みを揃えて歩き続けているマリア達の後ろで遠くなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ