234.新歓合宿(6)
「鋸山からの眺めって、思ったよりずっと凄かった。」
「雲があったのは残念だったけど、あんなに遠くまで見えると思わなかったよ。」
「これから行く三浦半島なんて、ものすごく近くに見えてましたね。」
「やっぱり高いとこって良いな~。」
「トモと煙は、ってやつ?」
「何が言いたいのかな?」
「とりあえず、フェリーの時間までは、この海岸でゆっくりしてて良いんですよね?」
「あ、うん。そう、そう。」
「そういえば今朝渡された会員名簿、ものすごく不思議です。」
「ああ、それね。」
「この通称欄には馴染みのある名前が並んでるんですけど、本名欄との関係性が…。」
「直接会ったことのない人はグループチャットの名前で慣れちゃってるでしょ。だから混乱しないように直接会うまで新入生に本名は明かさないんだって。」
「名札も『通称』で書いてあったから違和感なかったでしょ。」
「はい。ですけれど、例えば『キロさん』の本名が『木口さん』ってのはわかります。」
「うん。わかりやすいよね。」
「『大村さん』は普通の名前なんだなって思ってたら、本名は『ダイソンさん』って。こっちのがあだ名っぽくありません?」
「大村さんって日本人顔なんだけど、実はお父さんがイギリスの人なんだって。」
「なのでお父さんの姓のダイソンさんを名乗ってる。大村さんの方があだ名。」
「あと、特に『ヒロさん』がわかりません。本名の『恩田晃多』さんの痕跡が欠片もないんですけど。」
「本人と会ったのは昨日初めてだろうから気付いたかだけれど、ヒロさんってちょっと表情筋とかがサボタージュ気味なんだよ。」
「えっと、そういわれるとそうだったかもです。」
「それで『ハシビロコウ』を連想した人がいたらしいんだよね。」
「ハシさんは言いにくいからビロさん、の濁点を外してヒロさんになったんだって。」
「今更なので皆さんの本名を覚えるのは諦めようかなって思いました。」
「ユウも俺たちのこと『さんづけ』で呼ぶようにしたんだね。」
「周りの皆さんがそうだったので。今までどおりの方が良かったですか?」
「いや、先輩呼びもぐっとくるものがあるけれど、さんづけの方が慣れてるからそっちで。」
「ナオもくるものがあったんだ。」
「ふたりとも何がきてるんでしょうね?」
「「ひ・み・つ。」」




