ぼっち飯宣言
そんな事があった翌日いつも足繁く通う千葉さんは俺の教室には来なかった。
気掛かりだった俺の足は自然と教室を出て千葉さんのクラスへと向かおうとしていた。
「どこに行くの?」
だが、一人の声に呼び止められ、そちら側を向くとそこには、昨日部室へと来た折原が居た。
「どこって、千葉さんの所だよ」
あからさまに不機嫌な顔をしてみせ尋ねた「なんで、あんなヤバい女の所に行くのよ」
その疑問に対しては俺も謎だった。
俺はあの人にどんな感情を抱き、心配をしているんだと、ただ昨日のあの姿を見て、可哀想だと感じたのかそれとも、また別の理由で心配しているのか、自身でも分かりえなかった。
「とにかく、ごめん急いでるから」
折原を振り切り千葉さんの元へ向かおうとしたが、制服の袖をキュッと掴まれた。
掴まれた手は子供のように小さくそして震えており、行かないでと言っている様だった。
小柄な折原の方に顔を向け、少し目線を下げると、手だけではなく身体全体で震える折原が目に入る。
「あたしより、あのヤバい女かよ」
震える折原はハムスターの様に可愛く、足を止める事しか許されない様だった。
「あら、鈴木くんと折原さんじゃない?」
そこに俺が探し、この事態の原因でもある、千葉さんが通りかかった。千葉さんは昨日の落ち込んだ表情はもう無く、いつも通りと言えばその様な感じだ。
千葉さんは、手に学生カバンを持ち、これから帰るのを示唆する様にも見えた。
「もしかして、帰るんですか?」
「まさか、今来たところよ」と口元に手を被せ小さく笑いながらそう言った。
かも当然というような口調だったが、今は丁度昼休みの頃で、今来たところという思考には至る方が少ないだろう。
「今って……」
「あたし、今来たところよって彼氏との待ち合わせ以外の場面だと初めて聞いたんだけど」
やはり、思考がぶっ飛んでいるのではと、感じるようになって来たが、遅れて来た理由は、気持ちの切り替えなのかそれともそれ以外かどちらなのか分からなかった。
「実は、折原さんに渡したい物があったのよ、という事で鈴木くんは一人で昼食を食べてきてもらえるかしら?」
千葉さんを心配し探しに来たら、ぼっち飯を宣言された。だが、千葉さんはいつもとは違う顔をキリッとさせ言ってのけたのだから、相当な理由があるのだろう。
俺は千葉さんの迫力に負け、二人の前を後にすることしか出来なかった。