マウンドに涙
野球用語解説あります。
「次の投手は平野さんにお願いするわ、そして一塁に鈴木くん、三塁に折原さん」
「う、うん! 初めての投手、頑張ってみる!」
だが、そう野球は甘くなく二回の裏は風紀委員長の三次さんから始まる打席、平野さんの真ん中に入ってきた球は左線に落ちる長打。
「あぁ! 打球が!」
ボールはフェンスへと当たり打球をあらぬ方向へと転がった。
使っているのは高校のグラウンドでお世辞にも整備が行き届いているとは言い難い。そんなグラウンドに雨も重なり、打球処理はプロでも簡単ではないコンディション。
そんな状態で野球が殆ど未経験な左翼手のラフィーさんが打球処理をもたつくのも仕方の無い事だ。
その間に、三次さんは三塁へと進み、一点を取った後、
直ぐにピンチとなった。
次のバッターには、焦りからか四球を出してしまい、ノーアウトランナー、一塁三塁になってしまった。
その後もこの1点という重圧が気弱な平野さんにのしかかり、カウントを悪くしてランナーをもう一人出してしまい、これでノーアウト満塁になってしまった。
度重なるミスで平野さんは目に涙を浮かべながら、オドオドとしている。
「ごめん……なさい……皆、私のせいで……」
完全に参ってしまっていた平野さんはマウンドに集まった俺達に今まで何とか耐えていた涙が目の下に溜まり、こぼれそうになる。
俺達はそんな平野さんを見て責めることなど無かったが、かける言葉を模索し沈黙を与えてしまった。
「涙をこぼすな!」
そんな大きな言葉が沈黙を破った。言葉の方向に視線をやると、右翼手の小林さんが外野からマウンドに向かって歩を進めていた。
「小林……先輩?」
小さくこぼれる様に平野さんは言葉を出す。
「泣くにはまだ早い、そうだろ?」
小林さんの氣迫ある言葉にマウンドの俺達は一言も話せなかったが千葉さんは小林さんの質問に対して冷静に返事をする。
「えぇ、まだ2回の表、焦る事はないわ」
千葉さんの言葉に小林さんはニコッと笑いかけ、再び平野さんに視線を送る。
「それに、演劇部でも言っているだろ? どんなに失敗しても幕が降りるまで涙腺は決壊しては誰だ」
先程とは違い優しく諭す小林さんに平野さんは泣く寸前のところで止める。
しかし、これ以上の重圧でのピッチングは出来ないと判断した千葉さんは大村先生に指示を送ると、投手の交代を告げた。
左線 レフトのラインの事を表します。




