1 あいつはもう離れてったんだから
「とにかく! 俺のベルト掴んで、絶対離すなよ! 離れると……」
「もー……どうして私の危険は察知できないの?! コテツ君のノード、えこひいき過ぎ!」
「しょうがねーだろ! あ! あっち! 来るぞ!」
俺とソラは、巨大蝙蝠の群に取り囲まれていた。
ソラの知識によると、生物の血を吸うタイプだという。
それは、目をギラギラさせながなら、四方八方から俺たちをめがけて飛びかかってくる。
ヘルバスティア諸島連合、第三の島、ミルドリディア。その西の外れの薄暗い森の中、ほんのり緑の混じった茶色の巨大蝙蝠達は、その動きの俊敏さもあいまって、とにかく視認しづらい。
特殊な訓練と試験を受けたアレステリア人の一部に発現する、特殊能力「ノード」。
それを身につけたアレステリア人は、この「7つなぎの国々」の秩序を守る「警邏官」として働くことを許される。
その中でも希な力の一つ……というか、前例が見あたらない力とされている俺の「見分ける力」は、迫り来る危険を、脳に直接響くような光で知らせてくれる。
俺と……何故か、警邏官学校同期の女子、キリン・アリスティア・ノノに迫る危険だけは。
「あっち?! あっちでいいの?!」
「それでいい! 撃ってくれ!」
「もー嫌! 電撃槍!」(ジャベリン)
ソラがすっと伸ばした手のひらから、眩い電撃がほとばしる。
それは俺たちに向かってきた巨大蝙蝠に直撃して撃墜する。
「ほんと、別にコテツ君に守って欲しいわけじゃないけど、一人の女性として複雑な気持ちだわ……」
ソラがなにやらぶつぶつとぼやいている。数週間前、商人の国「マルカンティア」で、かつて警邏官学校で同期だった、エレナ・ファルフィートに、毒矢で命を狙われた時、俺がキリンしか守れなかったことを、若干根に持ってる節がある。
しょうがないじゃんか。見えないもんは見えない……。
!!
「何あれ!!」
今まで飛び回っていた蝙蝠より、一回り小さい、しかし異様に速い個体が、2匹……3匹……。
速すぎる、とても視認できない。
「ソラ……俺の手を掴んでくれ」
「え……ええ? 私が?」
「キリンが、共同行使で光が見えるようになってたから、それなら狙えるだろ」
「う……でも……」
「はやく! ほら! 手首掴めばいいから!
「き、キリンちゃん……ごめん……」
「何でキリンに謝るんだ!」
訳分からん!
別に俺はキリンの物じゃないぞ。
おまけに、あいつはもう、俺の力なんか借りないって言って、離れてったんだから。
「……光って、どこ?」
「え? あっち、あの辺」
「ごめん、見えない……」
……。
これもキリンじゃないとできないのか?
ノードって、共同行使できるんじゃなかったっけ……。
「コテツ君、電撃撃てそう?」
「いや……だめっぽい……」
「じゃ、もうさ、言われた方向に、超広範囲の電撃を放つから……。私、それ一発撃ったら、あとしばらく撃てないからね……」
げんなりした顔のソラが放った、電撃槍10本分くらいの放電は、高速個体もろとも、周囲の巨大蝙蝠を一網打尽にした。
「……やっぱり、私がドレイク君とスパナ君と一緒にいた方が良かったと思うよ……戦力バランス的に……」
そんなこと、今更言ったって、しょうがないだろうが……。
俺はため息をつきながら、キリンがどうしてるだろうか、と一瞬思ってしまった自分に嫌気がさした。
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