16 再会
「姿勢を低く!! 木の陰に!」
断続的に放たれる矢の射出元は、次々と移動する。
それに、危険を知らせる光が強い時もあれば弱いときもある。全く見えないこともある。
「きゃあっ!」
ソラの叫び声が響く。
ソラの足下近くに鋭く矢が突き刺さっている。
今のは全然見えなかった。
「このっ!」
キリンが矢の打ち出された方向に空気弾を打ち返すが、中太の木を何本か吹き飛ばしただけ。
ドレイクが矢の打ち出された方向に加速していく。しかし、開けた場所のような鋭さはない。木々や茂みが、ドレイクの「速く動く力」を弱体化している。
一方、敵は、かすかな音を立てて、森の中を滑るように移動していく。
「速く動く力」とは別の、何か。
特殊な動き。
木々や茂みの隙間をすり抜けていくような、独特な。
「キリン! 伏せろ!」
「え!?」
俺はキリンの右手を引っ張っる。
さっきまで、キリンの顔があった空間を、矢が貫いていった。
はっきりと見えた。強い光。矢の軌道。
「ソラ!」
「……だめ……撃てない……」
「え?」
何で?
「電撃、森の中じゃ、植物を伝って馬車に散乱しちゃう。閃胡椒が弾けちゃう……」
しまった。
そうか、この森の中、ソラの力も使えない。
まずい。
向こうからはこっちを狙い放題なのに、俺たちは能力を制限されまくってる。
「おい、くそ……何なんだ! 盗賊の用心棒……暗殺者か何かか? 何とか……なるんだろ?」
イースターが馬車の中から怯えた声を上げる。
敵が馬車も馬も全く狙ってないことだけが幸いだった。
昨日追い払った盗賊の残党が6人、森で待ち伏せしていた。
前回と同じように、すぐに気づいて、今度は俺とキリンとドレイクで3人捕まえた直後。
「鴉! なんとかしてくれ!」
盗賊の1人がそう叫びながら逃げて行った。
それと同時に始まった弓矢での狙撃。
「何とか……!」
突然、俺たちの周りを白い煙が包み込む。
「煙幕です」
スパナがぼそりとつぶやく。手元の試験管からあふれ出す白い煙は、あっという間に、馬車と俺たちを包み込む。
「ほいっ」
スパナが何か木の実をあちこちに投げる。
とたんに、森のあちこちで、何かが弾ける音が響きわたる。
次の瞬間、視界にピンク色の煙が、白い煙の中に真っ直ぐな線を作った。
「ドレイク君! このピンクの煙の先です!」
「了解!」
ドレイクが、ピンク色の煙で出来た線を辿って走り出す。
「空気の動きに反応する粉を撒いて、煙幕に着色しました」
長い前髪の隙間から、スパナの瞳がきらりと光った。
やっぱ、すげぇな、こいつも。
***
黒いローブ。
小柄。
女子?
藪や枝をすり抜けるように走る。
普通の人間の動きじゃない。隙間を縫うような、独特の。
ノード?
いや、何かが違う。
異質な動き。
「待てっ!」
追われ、矢を構える暇もない。
確かに速いが、それでも、僕の「速く動く力」の方が勝る。
女性に刀を振るうのは気が引ける、が。
「止まれっ!」
もちろん反応はない。
仕方ない。
刀を抜き、一気に間合いを詰める。
胴を薙いで、動きを止める。
一気に振り抜いた刀は……。
僕の右手から消えた。
黒いローブに、ぐるぐるとからめ取られ、僕の刀は、見覚えのある少女の手元にあった。
「……エレナ?」
そこにいたのは、間違いなく、警邏官学校で同学年の生徒だった、エレナ・ファルフィートだった。
「……あなたは、「速く動く力」なのね。ドレイク」
確かに、聞き覚えのある声。
「……お前……一体何を?」
「あなたには、関係ない……」
不意にエレナがローブと刀を捨てて、弓矢を構える。
動作が速い!
身を伏せ、低い姿勢から一気にエレナの足を狙って飛びかかる。
捕らえた、と思った腕が空を切った。
それと同時に、僕の周りを黒い煙が包む。
煙幕。
目に染みる煙に、視界が奪われる。
慌てて、煙の外に飛び出す。
辺りを見渡すと、そこには木々、草、藪が広がるばかり。
逃げられた。
僕はエレナが手放した刀を拾う。
「逃げられた、か」
気付くと、そこにはコテツが立っていた。
右手には、エレナが放った矢が握られていた。
「お前、それ、どうやってんだ?」
あきれた力だ。飛んでくる矢を素手で取るなんて。
「あいつ、キリンを何度も狙ってやがった」
ふと、コテツの後ろに、少し青ざめた表情のキリンさんが立っていた。
そうか、また。
コテツは、キリンさんを狙った矢を防いだのか。
キリンさんを守る、常軌を逸した力。
僕はため息をついた。
さっきの、エレナの声。
その声は、ひどく親近感のある声だった。
僕のよく知る感情。
ー……あなたは、「速く動く力」なのね。ドレイクー
その声から感じられたのは、かつての僕が持っていたような、信じられないくらい、強い、嫉妬だった。
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