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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章
78/86

16 再会

 「姿勢を低く!! 木の陰に!」

 断続的に放たれる矢の射出元は、次々と移動する。

 それに、危険を知らせる光が強い時もあれば弱いときもある。全く見えないこともある。

 

 「きゃあっ!」

 ソラの叫び声が響く。

 ソラの足下近くに鋭く矢が突き刺さっている。 

 今のは全然見えなかった。

 

 「このっ!」 

 キリンが矢の打ち出された方向に空気弾を打ち返すが、中太の木を何本か吹き飛ばしただけ。

 ドレイクが矢の打ち出された方向に加速していく。しかし、開けた場所のような鋭さはない。木々や茂みが、ドレイクの「速く動く力」を弱体化している。


 一方、敵は、かすかな音を立てて、森の中を滑るように移動していく。

 「速く動く力」とは別の、何か。

 特殊な動き。


 木々や茂みの隙間をすり抜けていくような、独特な。

 「キリン! 伏せろ!」

 「え!?」

 俺はキリンの右手を引っ張っる。

 さっきまで、キリンの顔があった空間を、矢が貫いていった。

 

 はっきりと見えた。強い光。矢の軌道。

 

 「ソラ!」

 「……だめ……撃てない……」

 「え?」 


 何で?


 「電撃、森の中じゃ、植物を伝って馬車に散乱しちゃう。閃胡椒が弾けちゃう……」

 しまった。


 そうか、この森の中、ソラの力も使えない。

 まずい。


 向こうからはこっちを狙い放題なのに、俺たちは能力を制限されまくってる。

 「おい、くそ……何なんだ! 盗賊の用心棒……暗殺者か何かか? 何とか……なるんだろ?」


 イースターが馬車の中から怯えた声を上げる。

 敵が馬車も馬も全く狙ってないことだけが幸いだった。


 昨日追い払った盗賊の残党が6人、森で待ち伏せしていた。 

 前回と同じように、すぐに気づいて、今度は俺とキリンとドレイクで3人捕まえた直後。

 「鴉! なんとかしてくれ!」

 盗賊の1人がそう叫びながら逃げて行った。

 それと同時に始まった弓矢での狙撃。


 「何とか……!」

 突然、俺たちの周りを白い煙が包み込む。

 「煙幕です」

 スパナがぼそりとつぶやく。手元の試験管からあふれ出す白い煙は、あっという間に、馬車と俺たちを包み込む。

 「ほいっ」

 スパナが何か木の実をあちこちに投げる。

 とたんに、森のあちこちで、何かが弾ける音が響きわたる。

 

 次の瞬間、視界にピンク色の煙が、白い煙の中に真っ直ぐな線を作った。

 

 「ドレイク君! このピンクの煙の先です!」

 「了解!」

 ドレイクが、ピンク色の煙で出来た線を辿って走り出す。

 「空気の動きに反応する粉を撒いて、煙幕に着色しました」

 

 長い前髪の隙間から、スパナの瞳がきらりと光った。

 やっぱ、すげぇな、こいつも。


 ***


 黒いローブ。

 小柄。

 女子?


 藪や枝をすり抜けるように走る。

 普通の人間の動きじゃない。隙間を縫うような、独特の。

 ノード?

 いや、何かが違う。

 異質な動き。

 「待てっ!」

 追われ、矢を構える暇もない。

 確かに速いが、それでも、僕の「速く動く力」の方が勝る。

 女性に刀を振るうのは気が引ける、が。

 「止まれっ!」

 もちろん反応はない。

 仕方ない。

 刀を抜き、一気に間合いを詰める。

 胴を薙いで、動きを止める。

 

 一気に振り抜いた刀は……。

 

 僕の右手から消えた。


 黒いローブに、ぐるぐるとからめ取られ、僕の刀は、見覚えのある少女の手元にあった。


 「……エレナ?」


 そこにいたのは、間違いなく、警邏官学校で同学年の生徒だった、エレナ・ファルフィートだった。

 

 「……あなたは、「速く動く力」なのね。ドレイク」

 

 確かに、聞き覚えのある声。

 

 「……お前……一体何を?」

 「あなたには、関係ない……」

 

 不意にエレナがローブと刀を捨てて、弓矢を構える。

 

 動作が速い!

 身を伏せ、低い姿勢から一気にエレナの足を狙って飛びかかる。

 捕らえた、と思った腕が空を切った。

 

 それと同時に、僕の周りを黒い煙が包む。

 煙幕。

 目に染みる煙に、視界が奪われる。

 慌てて、煙の外に飛び出す。


 辺りを見渡すと、そこには木々、草、藪が広がるばかり。


 逃げられた。


 僕はエレナが手放した刀を拾う。

 「逃げられた、か」


 気付くと、そこにはコテツが立っていた。

 右手には、エレナが放った矢が握られていた。


 「お前、それ、どうやってんだ?」


 あきれた力だ。飛んでくる矢を素手で取るなんて。

 「あいつ、キリンを何度も狙ってやがった」

 ふと、コテツの後ろに、少し青ざめた表情のキリンさんが立っていた。

 

 そうか、また。

 コテツは、キリンさんを狙った矢を防いだのか。

 キリンさんを守る、常軌を逸した力。


 僕はため息をついた。

 

 さっきの、エレナの声。

 その声は、ひどく親近感のある声だった。

 僕のよく知る感情。


 ー……あなたは、「速く動く力」なのね。ドレイクー

 

 その声から感じられたのは、かつての僕が持っていたような、信じられないくらい、強い、嫉妬だった。

読んでいただいてありがとうございます!

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