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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章 空の果ての無重力/far from home
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77/140

15 転んでから(挿絵あり)

 「お手柄だったじゃないか」

 ゴルテア副隊長は、朝日を背に笑顔を見せた。 昨日、私たちが逮捕した5人の盗賊は、宿場町パステルの警邏官補が仮牢屋に捕らえられていた。ゴルテア副隊長は、身柄を首都に移送するため、首都ソレイユから護送馬車に乗ってやってきた。


 「手錠をかけた3人、身分証を出しな」

 ドレイクが3人、キリンとソラが一人ずつ、手錠をかけた。

 身分証は、黒曜石のような輝きを放つ、黒い金属でできていた。常に、警邏官服の内ポケットに入れているが、無くしたら相当怒られると聞いた。


 「ドレイクは星のかけら3つ、キリンとソラは、1つずつ。今回は逮捕した人数分、単純加算だ」

 ゴルテア副隊長は、自分の身分証を取り出すと、それを縦にして、ドレイク、キリン、ソラの身分証の順番で、軽く叩いた。ドレイクの身分証は3回叩かれ、そのたびにうっすら光を放った。


 「公的案件とは別に、犯罪者の捕縛は、記録して成績に加算される。名のある指名手配犯なら、こんなもんじゃないが。ま、もし出世を考えてるなら、頑張ると良い。無理は禁物だが」


 「副隊長、その……今回の件はコテツが相手の存在を察知して、それで私たち……」

 「そうです、なので、僕の3回分は、コテツに!」

 ドレイク君が、困惑した顔でゴルテア副隊長に詰め寄った。


 「生憎それはできない。それ、難しいんだ。逮捕の過程はいろいろあるんだろうけど。評価が難しいから、特別な記録でもない限り、手錠をかけた人数でカウントしてる」

 「いーよ、それはドレイクの分だろ」


 コテツの声に、ドレイク君が振り向く。

 「俺は、何もしてねーし。面倒だし。副隊長にも迷惑だろ」

 ドレイク君が、憮然とした表情のまま、ゴルテア副隊長の前から引き下がった。

 「実際に襲撃があった。難易度3案件から、3.5に引き上げておく。くれぐれも気をつけて、完遂してくれ。それから……」


 ゴルテア副隊長の顔が険しさを増した。

 「キリンを狙撃した矢はこちらの捜査に使う。命を狙われているのは間違いない。それも気をつけるように」


 ***

 「それが、エレナを見た最後か?」

 「はい……」

 やはり、と言えば良いのか。


 黒男。


 エレナと接触していたのか。

 飛行船周辺での、少女の目撃情報。

 今回の試験失格者の中で、消息が不明なのはエレナだけ。

 「助かった。ありがとう。じゃ、ここは奢りだ。元気そうで良かった。何かあったら連絡してくれよな」

 街の喫茶店。エレナと良く行動を共にしていて、2の試験で、エレナと共謀し、キリンとソラを陥れた生徒の一人。ローザック・ミレイ。


 地元に戻って、家業のパン屋の手伝いをしているそうな。


「この店のケーキ、王都でも人気なんだぜ。いや、それは地元のお前がよく知ってるか」

 コーヒーを一口。


 「あの……スザク先生」

 「ん?」

 「エレナのことを聞きに来ただけだと思いますけど……話ができて良かったです」

 「なんだそりゃ?」

 「……嫌われたかと思って……俺、あんなことして……」


 ああ、そうか。


 「エレナのことが無くても、会いには来てたさ」

 「……何でですか? 俺……試験、落ちたくなくて……キリンやソラや、コテツとか……あいつら、凄かったから……焦って、不安になって……それで、あんな……」


 「お前、反省してるんだろ?」


 「……反省するような、馬鹿なことを……」


 「なら、大丈夫だ。ま、もし困ったり、迷ったりしたら、連絡してこい。相談ぐらい乗るからさ」

 「怒ってないんですか?」

 「当然、怒ってる。だから、お前のことは忘れない。俺は、お前の先生だから」


 ローザックが頭を下げた。

 そのまま、頭を上げない。




 ケーキが運ばれてきた。

 記憶の中のケーキと、全く変わらない。

 あの時は、ララとハルと俺の3人だった。

 今思えば、奇跡みたいな組み合わせだ。

 

 この店は、女性客にはサービスで、ケーキに花を添えてくれる。

 ララだけじゃなく、ハルの皿にも添えられてて、そう、それで……。


 あれ?

 どうも、ハルに関する記憶が、最近曖昧だ。


 顔を上げないローザックを、店員のメイドさんが心配そうに見ている。

 俺は、ケーキをテーブルに置いてくれるよう、メイドさんに目配せした。


挿絵(By みてみん)


 「食おうぜ。これ、少し冷えた、一番美味しい状態で出してくれてるからさ」


 ***


 散々泣いたローザックは、俺の姿が見えなくなるまで、ずっと見送って、頭を下げていた。

 目は泣き腫らしていたが、その顔は、見違えるように晴れやかだった。


 ずっと、引きずってたのか。

 もう少し、早くきてやればよかった。

 

 街の入り口で、俺は一度だけ、ローザックと話した喫茶店の方を振り返った。


 もっと早く伝えてやればよかった。

 でも、時間が必要だった、とも思う。


 間違ってもいい。

 転んでもいい。

 むしろ、そこからが本番なんだ。 


 そこから、どう立て直すか、立ち上がるか。無様でもあがくのか、それとも誤魔化すのか、逃げ出すのか、うずくまって下を向くのか。


 そこに、そいつの可能性が全部詰まってる。

読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!


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