6 護衛/難易度3
「遅くないか?」
「こんなもんでしょ? 市場も珍しいもの多いし、観光してるんじゃない?」
「二人で? 二人で観光か? それは…それは良くないんじゃ……いや、やはり遅いのでは……あの黒男がまたキリンさんを襲っていたら……」
あー、ドレイク君、うるさい。
「くじ引き負けたんだから、しょうがないでしょ。それに、コテツ君がいれば、大丈夫でしょ」 「ソラ、本当にそう思うのか? 僕は、あいつだけじゃ不安だな。黒男の撃退だって、僕のフォローがあって……」
「最後はコテツ君が全部吹っ飛ばしたでしょ」
「む……」
よし、黙った。
ため息をついたドレイク君は、手に持った箒で宿舎の掃除を再開した。
マルカンティアで「公的案件」をこなすまでの間、私たちには一棟の新人警邏官用宿舎が貸与された。台所と、食堂、それから3人部屋が二つ。男子3人と女子2人で分かれて使うこととなった。貸与するのは半年ぶりとのことで、埃だらけの宿舎を掃除するグループと買い出しグループに分かれることになり、くじ引きで負けた私とスパナ君とドレイク君が、掃除組になった。
正確には、負けた訳じゃなくて、私は当たりの赤い印がついた紙を引いた。
コテツ君が、当たりを引いていたのも分かっていた。
……あれ、若干、怪しかったけど。
後で考えたら、「見分ける力」使ったんじゃないだろうか……。
まぁ、何にしても、コテツ君の口角がわずかに上がったの見逃さなかった。なので、こっそりキリンちゃんに合図を送って、くじを交換した。
5人で常に行動してるので、コテツ君とキリンちゃんが二人だけになることは、ほとんどない。
そんな中、私がコテツ君と二人で買い物しても、しょうがないもんね。
いや全く意味がない。
キリンちゃん、喜んでたから良かった。
まぁ、それだけじゃなくて。
「……コテツの、あの力は、何だったんだろうな」
ぽつりと、ドレイク君が呟いた。
「分からない、けど……コテツ君がいなかったら……」
キリンちゃんに、どんな恐ろしいことが起きていたか。
だから、やっぱり、あの二人はなるべく一緒にしておいた方がいい。
今回の飛行艇だって、誰が何を狙ったのか不明だ。キリンちゃんに何かあったら……一番、守れる可能性が高いのは、コテツ君だから。
***
「護衛、ですか?」
「ああ、今、うちで受注している「公的案件」で難易度3はそれだけだな」
スパナ君を除いた男性陣……まぁ、要するにコテツとドレイク君は、若干物足りなそうな顔をしていた。
それを見逃さなかったゼスト隊長が、不機嫌そうに咳払いをする。それに気づいて、あわてて姿勢を正す二人……だが、もう遅い。
「新人は、護衛任務を軽く見ることが多い。確かに、護衛は保険でつけることもしばしばだ。そして、何事もないまま、警護対象と旅行して終わり、ということもしばしばだ。
だがな、それは護衛が警戒し、時に危険の芽を未然に摘んで、結果として何も起きなかった、という場合だって少なくない。そして、言うまでもないが、国王や各国の要人の護衛案件は、最高難度区分に設定される場合もある。それこそ、教師級や隊長級の、国家戦力クラスが駆り出される案件だってある」
完全に小さくなった二人が、ゼスト隊長の睨みに押しつぶされそうになっている……。
「この件も、香辛料の定期輸送便の護衛で、うちで何度か引き受けているし、これまで何かトラブルが起きたことはない。なので、難易度も3に分類されているが、山賊や獣に襲われる可能性は十分にある。まぁ、賢い山賊なら、警邏官とまともにやり合おうとは思わないだろうが。割に合わないからな。だが、獣はどうだ? 獰猛な、飢えた野獣は、訓練されてない賊よりもよっぽど厄介だ」
その後もネチネチと続いたゼスト隊長のありがたい助言から解放された私たちは、宿舎に戻って、共用スペースのソファや椅子にぐったりともたれかけた。
「ドレイクのせいだからな!」
「いいや、お前があからさまにつまらなそうな顔をしたからだ。僕は、護衛ですか、と確認しただけだ」
「いや、お前の声のトーンが……いたたたっ!」
「ぬぁっ!」
あ、ソラが二人に電撃を流した。
「ソラっ! 理由もなくノードを人に使うのは……」
たしなめようとしたドレイクが、ソラの形相を見て硬直する。
「もー! 二人のせいだからねっ!」
ソラも怒ると怖いなぁ……。
なんかララ先生みたい。「痺れさせる力」って、雷だから……中身は激しい性格の人に備わるのかも……。
「……また一人、暴力的な奴が増えたな……」
「コテツ?! どういう意味?!」
何てこと言うのよ! 人を暴力的みたいに!
「あの……とりあえず、昼ご飯にしません? それから、「公的案件」の対応会議もしないと……」
スパナ君の冷静な声が、4人全員を正気に戻した。
……これもスパナ君の「分析・調合する力」の一部だったりして……。
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