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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章 空の果ての無重力/far from home
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67/140

5 公的案件と世界一酸っぱい木の実(⭐︎挿絵あり)

 「やっぱり、あの黒男の仲間なんじゃねーの?」

 珍しそうに、マルカンティアの首都、ソレイユの繁華街を眺めているキリンに声をかける。

 「うーん……でもあれの仲間だったら、もっと別のやり方をするんじゃないかな……それに……」

 キリンは買い出しのメモに目を落としながら続ける。

 「今回のやり方だと、全員死んじゃう可能性があったでしょ。あいつは、私のことは、少なくとも殺さないつもりみたいだから……」


 ああ、そう言えば。

 俺を含めた4人はともかく、キリンのことは殺さないみたいなこと言ってたな、あいつ。


 「ま、とりあえず、帰ってからみんなともう一度考えるとして、まずは買い物しましょ。珍しいものがたくさんあるわ!」


 キリンが笑う。 

 何か楽しそうだな。


 でも、まぁ確かに。


 夕闇を押し返すように、あちこちに一斉に街灯が灯り始めたソレイユの街は、ちょっとしたお祭りのようだった。

 

 黄色、オレンジ、赤といった暖色系の輝きに包まれ、鮮やかな色の果物や、鳥の香ばしい串焼き、ブイヨンやスパイスを煮込んだスープの香りが路上の露天店や少し洒落たレストランの間から漂って、空きっ腹を刺激する。


 その美しい明かりと行き交う人々の活気を見てるだけで、気持ちが高まってくる。

 

 「根菜と豆、あー、久しぶりに新鮮なお肉! あ、何かあの果物のジュースとか、美味しそうじゃない?!」


 新人警邏官は、2年間の各国研修が義務づけられている。この期間に、アレステリア国を除く6つの国のうち、最低3つの国の地域警邏官部隊に行き、それぞれで難度3以上の「公的案件」(レ・パブリカ)をこなすこと。それが2年後の資格更新の条件。これを達成しないと、最悪、警邏官資格が剥奪される。

 逆に、それさえこなせば、後は何をしても自由。

 ただ、キリンの場合は、これに加えて、ユリウス管理官から課せられた課題がある。


 2年後の、資格更新の時までに、出身地を訴明する情報を提出すること。


 キリンは、東端の国、スクトゥムティア(盾の国)の出身だ。

 それは、間違いない。

 俺の、「見分ける力」が、正しい記憶だと告げている。

 問題は、それをどう証明するか。

 キリンと話した結論は、スクトゥムティアの、キリンの家に行くこと、だった。

 そこに行けば、キリンがそこにいた、という記録や証拠が見つけられるはず。

 ついでに、スクトゥムティアの手前には、スパナが行きたいヘルバスティア(薬の国)、ドレイクが興味を持つエクエスティア(騎士の国)、ソラが調べ物をしたいスコラスティア(科学の国)がある。

 ただ、ララ先生に聞いた話では、東に行くほど、「公的案件」の難易度も増す傾向にあるそうだ。

 なので、基本的に新人警邏官は、とりあえず、マルカンティアの地域警邏官部隊で、ちょうど難易度3くらいの案件に従事して、練習するのが王道だとか。

 ただ、俺たちはそれぞれの理由で、単に案件をこなす以上の成果を望んでいた。

 

 難易度が高い案件や、「指名手配」を生け捕りにした場合、「評価点」が加算される。

 

 1年間の評価点の合計が高いほど、高位の警邏官に昇進できる。

 高位になればなるほど、権限が高まる。高位の警邏官だけが知ることのできる情報、読むことのできる文献、出ることのできる会議、利用できる武器や道具、参加することのできる高難度「公的案件」……その恩恵は計り知れない。

 そして、俺の兄、「国家大罪人指名手配」ハル・インバクタスの捕縛は、超高難度「公的案件」。

 つまり、今の俺には参加することすらできないってこと。

 

 王都の、ハル追跡班は、色々な情報を集めてるらしいが……。

 

 キリンが俺の遠征仕様警邏官服の袖を引っ張る。

 本来の警邏官服より青色が抑え目で、茶色・黒っぽい生地。デザインはあんまり変わらないけど、何となくどこの街でも不思議と目立たない。


 「この鶏肉! 今日はこれ買ってってシチュー作ろう! それと、クレアの実も買ってジュースにするの!」

 「まだ資金も限りがあるからさぁ……、あんま遣い過ぎないようにしないと……」


 「もー! まったく。ちゃんとソラと管理してるから大丈夫! せっかくマルカンティアの首都に無事に到着できたのよ! ちょっとくらい楽しまないと! それに、これから「公的案件」こなしたら、いっぱい資金も入ってくるでしょ?」


 俺を睨んで膨れたような顔をしたと思ったら、最後は満面の笑み。

夕焼けに染まる街を、穏やかな風が吹き抜けて、キリンの金色の髪を揺らした。


挿絵(By みてみん)


 街灯の鮮やかな暖色の光に照らされて、キリンの赤みを帯びたオレンジ色の瞳が、深く鮮やかに輝く。


 王都で俺が黒男に殺されかけて……目を覚ましたときの大きく見開いた瞳の記憶と重なって、俺は少し落ち着かない気持ちになった。


 それは、凄く美しかった。


 「ん? 何? 何か変?」


 キリンが髪の毛やら警邏官服の襟やらをパタパタと触る。


 「いや、何でもない。じゃ、買い物をすませようぜ」


 何だか気恥ずかしくなって、俺はすたすたと露店の人だかりの方に向かって歩き出す。


 ーまったく、コテツも何を考えてるんだかー


 そんなことを言いながら、踊るような足取りで俺を追い越し、人混みをすり抜けていくキリンを、目で追った。


 そう、踊るような、軽やかな。

 優雅な動きは、見る人が見れば気付くはず。

 生まれ、育ちの違いを感じる。しなやかな、でも凛とした動き。

 スクトゥムティアの王族の娘。そして、その身分を家族ごと、あの黒男に盗まれた少女。


 俺はこの、正真正銘のお姫様を、ちゃんとスクトゥムティアまで連れて行かないといけない。


 それは、警邏官試験を通じて支え続けてくれた、キリンにできる、恩返し。

 

 「コテツ、ほら、口開けて!」

 「は?」 

 「ほりゃっ」

 少し離れたところから、キリンが何かを投げる。

 天才的な射撃、的当ての技術を持つキリンが投げた物は、一瞬で俺の口に収まる。

 

 何かが、舌の上を転がる。

 その瞬間。

 「!!!!!!!!!!!!」

 目の前がまっ黄色になった?!

 すっっっっぱい!!

 「それ、世界一酸っぱい木の実「ナニャの実」だって! 試食サービスだってよ!」

 「なっ……何すんだ!!」

 キリンがけたけた笑いながら、人混みに逃げていく。

 ……くそっ!

 

 そういや、あいつにはもう、最初に出会った時から、蹴られるわ、噛みつかれるわ……!

 

 前言撤回だ! 何が恩返しだ! どこがお姫様だ!

 後で何かやりかえしてやる!

読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!


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