第281話 こういうのが好きなのは友達がいないからではない
スミュールの屋敷から戻った俺は遅い夕食を食べ、風呂に入ると、就寝した。
そして、翌日、少し遅い時間に起きると、部屋にはシルヴィとティーナがおり、朝食の準備をしていた。
「お前ら、いつ来たんだ?」
俺は上半身を起こすと、2人のメイドに聞く。
「先程です」
「朝食を受け取ってきたから起きて食べなよ」
………………。
「……鍵は?」
「え? かかってなかったよ?」
ティーナがそう言うのでシルヴィを見た。
「てへ」
シルヴィがウインクをしながら舌を出す。
「まあ、今さらか……お前、城の俺の部屋に入ってないだろうな?」
「旦那様はもう少し、色んな趣味を持つべきですね。魔法の本ばっかりでしたよ」
やっぱり侵入している……
まあ、そういう役割か。
黒魔術の研究をしていたことを知っていたわけだし。
「ティーナ、リーシャを起こせ。俺はマリアを起こす」
「マリア様はすでに起きてますけどね」
シルヴィにそう言われたので横を見ると、眠そうな顔をしたマリアが上半身を起こしていた。
「起きてたか……」
「しゃべっていれば起きますよー……それに朝食のいい匂いがしますし」
確かに焼けたパンの匂いがする。
「起きるか」
「そうですね」
俺とマリアは起き上がると、テーブルに向かった。
すると、ティーナが寝ているリーシャのもとに行く。
「リーシャ様ー、朝ですよー」
「わかってるわよ……あと少ししたら起きるから」
起きないだろ。
「いつもそう言いますが、起きないじゃないですか。起きましょうよー」
「うるさいわねー……」
「起きてくださーい」
ティーナはめげずにリーシャの身体を揺すった。
「あー、うるさい。キャンキャンとまあ、犬じゃないんだから」
「犬ですよー。耳元で遠吠えしますよー」
「わかったから……」
リーシャはそう言うと、上半身を起こす。
そして、眠そうに目をこすった。
「……リーシャ様、以前から聞きたかったんですけど、なんで裸なんです?」
ティーナが呆れたようにリーシャに聞いた。
「ロイドが喜ぶから」
「あっ……お疲れ様です」
ティーナさん、頬を染めて勘違いをしているようだが、違うよ?
『旦那様、あれは本当に何なんですか? いっつもバスタオル一枚だし、寝る時は素っ裸ですよね? 変態さん?』
今度はシルヴィが念話で聞いてくる。
『お前へのけん制。勝てるわけないだろって自他共に認める絶世を見せつけている』
『…………卑怯な』
卑怯なのはカトリナの顔に変えたり、普段から足をさらけ出しているお前だ。
「リーシャ様ー、服を着て、こちらに来てください。御飯が冷めますよー」
シルヴィがそう言うと、リーシャのノロノロと動き、ティーナに補助されながら服を着た。
そして、テーブルにやってくると、朝食を食べ始める。
「あなた達はもう食べたの?」
「もちろんですよ。メイドの朝は早いのです」
「シルヴィさんって、いつ寝てるのかわかりません。私が寝る時には起きていて、私が起きる時にはすでに起きています」
ティーナが首を傾げるが、そいつは俺と2人の時に寝ている。
ベッドの時もあれば、俺の影で寝ている時もある。
「別にいいじゃないですか。それよりも本日はイアン殿下の別邸に行き、イアン殿下とお会いになるということでよろしいですね?」
シルヴィが聞いてくる。
「そうなるな。イアンは城には行っていないんだろ?」
「みたいですね。父に聞きましたが、ほとんど行ってないそうです」
この状況で王太子が城に行かないっていうのもどうかと思うな。
「宰相を始めとした重臣共はイアンと話さないのか?」
「一応、話してはいるようですが、イアン殿下は相談もなく、いきなり王太子になられましたからね。重臣のほとんどはまだ旦那様こそが王太子だと思っており、いまだに納得しておられません」
相談もなく決められたら納得せんわな。
自分達の身の振り方も考えないといけないし。
「あいつらも大変だねー」
「ちなみに聞きますが、陛下を討った後、重臣共はいかがします?」
「どうもせん。そのままだ。基本的に王位が変わろうが、当分は変えるべきではない」
「嫌いな人とかいないんです?」
嫌いな人……
「全員、嫌いだ。口うるせーし、あれしろこれしろとうざい。でも、そうも言ってられない。あいつらには若いイアンを補佐してもらわなければならん」
俺もだが、イアンにいきなり政をしろと言っても無理だ。
まずは勉強。
「さようですか。では、そのように」
「まあ、その辺はスミュールがやるだろう。俺は気楽なもんだ」
何もしなくていい。
「そういうわけにもいかないでしょうけどね…………旦那様、イアン殿下とはお一人で会われますか?」
「そうなるな。今回はリーシャも連れていかない。もっとも、お前は連れていく必要があるな」
こいつじゃないと、イアンの別邸は無理だ。
おそらく、ものすごい警備だろう。
「かしこまりました。では、今夜、忍び込みましょう」
「夜か?」
「昼はちょっと……できないこともないですが、イアン殿下が人と会われている可能性もあります」
それもそうだな。
それになんとなくだが、こういうのは夜にこっそり会う方がそれっぽい。
「わかった。では、夜に行こう。それまでは…………適当に過ごすか」
「ごゆるりとお過ごしください。ですが、外には出ないでくださいね」
「わかっている。出ていいと言われても出る気にならん」
今はそういう気分ではない。
「やーい、ひっきこもりー!」
うざっ。
「忠誠心をまったく感じないメイドだな」
「そんなことないですよー」
シルヴィが笑顔で否定する。
『旦那様はこういう風な方がお好きだろうと思って……』
あっそ。
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