第280話 知らんがな
「そう致します。そうなると、すぐにでも動かねばならんな……」
スミュールが思案し始める。
「そうしろ。カークランドはすでに動いているぞ」
「殿下には先にウチに来てほしかったですな」
「飛空艇が嫌いなんだ」
一番良いのは王都から最寄りのゲルクの町にある空港に着くことだった。
俺達がハイジャックしたところね。
「リーシャから聞いております。なんでも空賊に襲われ、墜落したとか」
「不時着だ。そこを絶対に間違えるな。俺は撃墜などされておらん」
ここ大事。
「さようですか……しかし、高所恐怖症は大変ですな。マリア嬢もそうなったとか」
普通はなる。
リーシャがおかしいんだ。
「徐々に治ってはきている。そのうちなんとかなるだろう」
多分……
ラウラに催眠療法とやらをやってもらうかね?
「だといいのですが……ところで、そのフランドル家のマリア嬢を側室に迎えたとか……」
気になっているのはそこか……
最初に言ってたもんな。
「文句でもあるか?」
「私は反対です」
「ほう? 身分が低いか?」
皆、言葉を濁していたが、こいつだけははっきり言ってくる。
正室の父親だからだろう。
「はい。低すぎます。子爵でもありえません。せめて、伯爵程度にしていただかないと困ります」
今さらだが、この国では男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵がある。
もちろん、男爵が一番下で公爵が一番上。
「お前が困ろうと俺の知ったことではない」
「殿下、今後のことを踏まえて、派閥の貴族から側室を取ってください。フランドル家は確かに中立ですが、南部貴族です。せめて他の派閥貴族から側室を迎えて脇を固めるべきです」
「拒否する。そうやって、マリアを妾に落とすのだろう? お前、死にたいか?」
本気で言っている。
「私を排除すれば、殿下の後ろ盾はいなくなりますぞ」
「後ろ盾? カークランドはマリアを認めて、臣下の礼を取っていたぞ?」
ちゃんと祝福してくれた。
おそらく、後日、正式に祝儀を贈ってくれるだろう。
「カークランドめ……!」
「シルヴィ、お前の親父さんは何と言っている?」
苦々しい顔をしているスミュールを尻目にシルヴィに聞く。
「何も。殿下のお好きなようになさればいいと思います。別に前例がないわけではございませんから」
「貴様ら……!」
スミュールがシルヴィを睨んだ。
「何か?」
シルヴィが涼しい顔で見下ろす。
「くっ……女好きの一族に何を言っても無駄か」
違うっての。
失礼な奴だな。
「お父様、マリアは何も問題ありません。あの子はわたくしに逆らいませんから」
リーシャがスミュールを諫めた。
「しかしな……!」
「落ち着いてください。カークランドもイーストンもそうやって殿下のご機嫌取りをしているだけです。殿下は他人の言うことを聞きませんし、反対を押し切るほどマリアを気に入っております。それにすでにウォルターの水の神殿で誓いを済ましており、これをウォルター王も認めております。これ以上は反感を買うだけです。何より、他の貴族にお父様が狭量だと思われます。そちらのことはわたくしにお任せください。他にも面倒な者がおりますし、マリアを離すより、そちらが大事です」
「面倒な者とは?」
「地位を奪おうとする者や他国に厄介な者がおります。まずはそちらです」
シルヴィと……………ヘレナじゃないよね?
4歳の子を厄介な者呼ばわりは良くないぞ。
あ、いや、叔母上のことか……
「あなた、リーシャに任せましょう。王族の女性関係に口出しをするのは臣下のすることではありません。それよりもリーシャの子が王となり、その正室にはカークランドの子がなるのです。むしろ、そちらの方をどうにかしましょう」
まさか側室を探すの?
何度も言うが、まだ生まれてないんだけどな。
「そうだな……王妃様に相談もしないといけないし、周りを固めるか」
勝手にやってくれ。
「どうでもいいが、当のイアンと話していないからな。イアンは別邸だったな?」
俺はスミュール夫妻に釘を刺すと、シルヴィに確認する。
「はい。ですが、さすがに今の時間はダメです。王妃様が伏せられているそうですし、明日にでも向かいましょう」
それもそうだな。
弟のイアンはどうでもいいが、王妃はマズい。
何しろ、俺と王妃の関係は非常にデリケートだからな。
「そういうわけだ。明日、イアンと話す。そして、方針が決まったら父を討つ。スミュール、お前は討った後の対処を重臣共と決めろ。迅速かつ、自然にだぞ」
「承知しております。ところで、殿下お一人でやられるのですか?」
「いや、シルヴィと2人で…………」
俺がそう言うと、リーシャが剣を抜いて、剣を眺め始めた。
「あと、リーシャもかな?」
そうなると、ティーナも来るだろう。
あと、一人で置いていくのは可哀想だからマリアも連れていこう。
「リーシャ、お前はダメだ」
当然のようにスミュールがリーシャを止める。
すると、リーシャの目がゆっくりスミュールの方に動いた。
「私は行くわ」
「ダメだ! 何かあったら…………」
スミュールが途中で言葉を止めた。
何故なら、スミュールの喉元には王家の魔剣が怪しく光っているからだ。
「私は敵を絶対に排除する…………誰であろうともね」
リーシャはそう言うと、剣を引っ込め、ゆっくりと立ち上がり、シルヴィを睨む。
「ふふっ、立派な子を産むといいですよ」
シルヴィがニコニコ笑いながら告げた。
なお、目は一切笑っていない。
「男子を産むわ」
リーシャは薄っすら笑みを浮かべる。
なお、目は一切笑っていない。
「そうですか。せいぜい可愛らしい子を産んでください」
リーシャとシルヴィが笑みを消し、睨み合う。
マリアを連れてこなくて良かったわ。
「お前ら、帰るぞ。腹減ったし、さっさと戻って寝ようぜ」
夕食を食べてから来れば良かったわ。
「…………ロイド」
「…………旦那様、興味ないんですね」
ねーよ。
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